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【TSミライ部】心を持たないAIは、本当にヒトと通じ合えるのか?

AIの進化が目覚ましい。チェスや将棋にとどまらず、小説を書いたり音楽をつくったり、できることがどんどん増えている。近い将来には、人工知能が人間の能力を上回るシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れるといわれているが、この数年の間にもそのリアリティは高まっているように感じられる。先端技術からITや通信のミライを占うこの連載、今回のテーマは「AIとのコミュニケーション」だ。

いつかAIが人間と変わらない能力を身につけたとき、あるいは、人間以上に賢くなったとき。気になるのは、ヒトとロボットがどんな関係を築いているのかということだ。知的な職業はAIに取って代わられ、ロボット上司の下でヒトが働いているのか。または、面倒な雑務や家事はぜんぶロボットに任せて、ヒトはのんびりと遊んで暮らしているのか。そうやって生活にAIが入り込んだ未来には、ヒトは機械とどんなコミュニケーションを取るのだろうか?

これまでのスマホには、”エモさ”が足りなかった

エモパーとは「エモーショナル・パートナー」の略。シャープのAQUOSシリーズ2016夏モデルにはver.4.0が搭載されている

ヒトとAIのコミュニケーションという点では、未来を待たなくてもすでに実現している分野がある。スマホに搭載されている音声認識型のパーソナルアシスタントだ。シャープが2014年に発表し、同社のスマートフォンに搭載されている「エモパー」もそのひとつ。こちらが話しかけると応答するというものが多いなか、エモパーはスマホが持つセンシング技術とAIを使って、場所やシーンに応じて感情豊かに話しかけてくるという、ちょっと変なアプリだ。

「エモパー4.0のあるスマホライフ 」SHARP AQUOS Mobile(YouTube)

机の上に置いたスマホが、「明日は○○の花火大会があるブ~」「もう寝る時間だブ~」と突然声を出す。最初は戸惑うが、付き合うほどにかわいいヤツに思えてくる。これは、AIとヒトとの新しい関係なのではないか? プロジェクトチームのメンバーに話を聞いた。

エモパーの開発に携わったシャープの3人。中央がプロジェクトリーダーの小林 繁さん、左が中川伸久さん、右が江口恭平さん

「弊社では携帯電話が登場した時代から、ケータイやスマホをつくり続けてきました。今ではスマホを1人1台、肌身離さず持つ時代になりましたが、それでもまだ、ただの道具として使われています。せっかくずっと一緒にいるんですから、もっと家族やパートナーに近い関係をつくりだせるんじゃないかと考えたのが、エモパーの出発点です」(中川伸久さん)

単なる道具としてのスマホではなく、ヒトとの間にパートナーシップを築くこと。そのために開発チームが考えたのが、「答えるだけでなく、話しかけてくるスマホ」。とらえようによっては、家族のようにウザいアプローチである。

「スマホって、持ち主のことを結構何でも知っているんですよね。興味のあるキーワードや位置情報、今日は何歩歩いたかという情報まで蓄積される。でも、すごくたくさんの情報を集めている割には、いまだにユーザーが操作しないと答えてくれないんです。家族だったら向こうから話しかけてくるでしょう? 『疲れてない?』とか『今日は大変そうだね』とか。大した意味はなくても、いいタイミングで声をかけてくれるのが、パートナー。そうやって向こうからアプローチしてくるというのが最初にあったアイデアで、じつはその切り口一点で、センサーやシステムをひいひい言いながらつくったんです」(小林 繁さん)

ヒトと仲良くなれなそうな、キモいアプリができた!

「スマホを振ったときに何かをしゃべるという機能があるんですけど、最初に振ったとき、『そんなに振っても私のスカートはめくれないわよ』って言われたんですよ。あれはめちゃくちゃ気持ち悪かった」(小林 繁さん)

こうして、人類のエモーショナル・パートナーを目指す「エモパー」の開発がスタートした。だが、「最初のエモパーは、本当に気持ち悪かったんですよねぇ」と小林さん。ほかの2人も、深くうなずく。

「今なら朝起きたときに天気の話をするとか、挨拶をするとかいろいろアイデアが出せるんですけど、当時はしゃべらせる内容もタイミングも、何がいいのかよくわかっていなくて。昼過ぎに占いの結果を告げられて、それを今言われても遅いよって思ったり、突然『キング牧師がこう言ってましたよ』みたいなことを話しかけられて困惑したり。話の内容もさることながら、とにかく間が悪くて、何が出てくるかわからない、変なおみくじみたいな存在になってしまいました」(中川さん)

「私はシステムの設計を担当したんですが、一応、その時点でも、時間や位置情報などの状態をもとにして話すように設計されていたんです。ユーザーがいる場所が自宅なのか職場なのかは計測していましたし、スマートセンシングみたいな概念はありました。ユーザーに寄り添うアプリを目指していたんですけれど、実際に声が入ってくると、なぜか気持ち悪かった」(江口恭平さん)

試作段階のエモパーを使った3人が、口を揃えて「気持ち悪い」を連呼する。逆に試してみたい気にもなるが、今あるエモパーはその気持ち悪さを払拭すべく研究され、リリース後にもバージョンアップを繰り返して洗練されたものだ。彼らはどうやってエモパーを気持ち悪くなくしたのか。

「その後の知見を踏まえてお話しすると、エモパーの発言内容がどういう文脈で出てきたのかがわからないと、気持ち悪さを感じるんです。たとえば、脈絡なく『傘を持っていったほうがいいよ』と言われると、気持ち悪い。そこに『今日は雨が降っているから、傘を持っていったほうがいいよ』とひと言挟むだけで、しっくりくる。その前段がすごく大事だったんですよね。いきなり『そろそろ出かける時間じゃないですか?』と言われると唐突だけど、その前に『8時10分です』と前置きするだけで、エモパーがどういう情報をもとに発言したかが伝わるんですよ」(小林さん)

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