実践者だから発見できた”まちを変える”プレーヤーとその共通項

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実践者だから発見できた”まちを変える”プレーヤーとその共通項

もともと一つの建物の再生を指す ”リノベーション”。しかし、それがあるエリアで同時多発的に起こることで、エリア全体の雰囲気が変わり始める。『エリアリノベーション : 変化の構造とローカライズ』はその現象を「エリアリノベーション」と名付け、6つのエリアの事例から「何が基本構造で、何がローカライズされた特殊解なのか」を浮かび上がらせた。行政主導の「都市計画」でもなく、助成金や市民ボランティアに依存する「まちづくり」でもない、新しいエリア形成の手法とは? 著者のOpenA代表 馬場正尊さんに聞いた。

自らの経験からまちの変化の共通項を探った

良書は、読後に「言いたいことを言ってくれた」「薄々気づいていたことが整理された」と納得感が伴う。その意味で、『エリアリノベーション : 変化の構造とローカライズ』はまさに、膝を打つような本だ。しかし、日本各地で勃発的に起きるエリア形成の流れを見極め、共通項を探すのは並大抵のことではない。本書は、著者自身がエリアリノベーションの実践者で、その経験に裏打ちされた思考を持ったからこそ描けた世界だとも言えるだろう。【画像1】エリアリノベーション : 変化の構造とローカライズ(出典/「エリアリノベーション」学芸出版社)

【画像1】エリアリノベーション : 変化の構造とローカライズ(出典/「エリアリノベーション」学芸出版社)

2003年、空きが目立ち始めた日本橋や神田周辺の都心東エリア(CET:Central East Tokyo)に、アーティストがポツポツと入り風景が変わり始めた。馬場さんはその活動の一員だ。アート・アクティビストとして「まちに影響を及ぼすなんて思ってもみなかった」が、CETから東京R不動産が生まれ、単なるアートイベントを超えた広がりを目の当たりにして、「これからの都市をつくるヒント」があると直感したという。CETとは何だったのか? 何を残したのか? その言語化をしたいという思いが、本書に詰まっている。

本書は、各地の実践者が9つの質問に応える形で描かれる。対象の6エリアは「目に見えて風景が変化していること」「変化が継続し、日常化していること」「経済的に自立していること」「デザインがかっこいいこと」の4基準で選んだが、最後の「デザインがかっこいい」を基準に加えたことが本書の勝因だ。極めて感覚的だが、「心地よさ」「賑わい」「活気」の素地となり、まちで最も大切な要素とも言えるだろう。

●対象となった6つのまち

・東京都神田・日本橋(CET)

・岡山市問屋町

・大阪市阿倍野・昭和町

・尾道市旧市街地

・長野市善光寺門前

・北九州市小倉・魚町

「歩いていて気持ちがいい。歩くうちに視界に入ってくるグラフィック(看板やフライヤーなど)に気分が上がる」「集まる人々の質感が、かしこまってなくてフランク」「人におすすめしたくなる」のが、馬場さんの言う「デザインがかっこいいこと」がもたらす効果だ。いずれも人の想いが隅々にまで届いているからこそ生まれる、ある種の心地よさなのだろう。

まちを変えるトリガーとなった4つのキャラクター

本書の最も大きな発見は、それぞれのエリアリノベーションの共通項を探り当てたことだ。その共通項とは、4つのキャラクター(役割)が必ず存在しているということだ。特に、4つのキャラクターを見出したことは、類似の課題を抱えた他の地域に、一つの大きな示唆を与えたとも言えるだろう。

この4つのキャラクターは、それぞれ「不動産キャラ(調整する人)」「建築キャラ(空間をつくる人)」「グラフィックキャラ(世界観をかっこよく表現する人)」「メディアキャラ(情報を効果的に発信する人)」と呼ばれる。彼ら4プレーヤーがそろうことが、まちを面で変える一つのトリガーだとは、これまで誰も考えなかったのではないか。【画像2】画像左:エリアリノベーションに必要な4つのキャラクター 画像右:尾道空き家再生プロジェクトでの4つのキャラクター(出典/「エリアリノベーション」学芸出版社)

【画像2】画像左:エリアリノベーションに必要な4つのキャラクター 画像右:尾道空き家再生プロジェクトでの4つのキャラクター(出典/「エリアリノベーション」学芸出版社)

また、馬場さん曰く、これらの4キャラクターは皆、「昔」に比べてその形や動き方が大きく変化しているという。要約すると以下のようになる。

●不動産キャラ

旧来の「できるだけ手間をかけず」収益を得る開発や土地転がしから脱却し、見捨てられた空間の魅力を発見して活かし方の妄想を描き、オーナーや使い手に寄り添って中長期的に地域の価値を上げる人々が紹介される。異業種からの参入者が多いのも特徴だ。

●建築キャラ

「かっこいい図面が描けて、オーセンティックな建築誌に自作品が掲載される」のが良いとされた以前に比べ、「図面書きも工事も手がけ、少ない予算で工夫を楽しむ」人びとが出現している。それは、「建築家」よりも「工作家」のように建築と関わっていく姿勢にも見える。

●グラフィックキャラ

従来の肩肘張った「作品づくり」から、デザインのフィールドを広げ、ポスターやまちのグラフィティ、サイン、小規模店舗のフライヤーまで軽やかに工作し手早くリリースする柔軟性が際立った人々がまちを変える一役を買う。

●メディアキャラ

昔の出版社や版元のように「マス」で「アノニマス(特徴のない・匿名の)」な存在ではなく、小さなエリアにおいて個人・小規模グループでエッジを効かせた発信が主体になってきている。個人のメディア化の流れがはっきり出ている。

本書を通して従来からある業態の変容を見ていると、かつて、経済成長とともに分業化と専門性の特化が進んだ個々の仕事が、かつての役割の域を超えて、他領域を少しずつお互いにカバーすることで、チームプロジェクトとして機能しまちを変える仕組みが見える。馬場さんは「まちのつくり方も、従来のマスタープラン型から、ネットワーク型へ」と指摘しているが、誰か偉い人が描いた「計画」を専門家がバラバラにつくる時代は終わり、素人が「工作的」な感覚で関わり作るまちの方が説得力を増す、そんなパラダイムシフトが今、6つのエリアで起きている。

最後に、本書で描かれる6エリアの地理的な共通項を見ておこう。それぞれの面積は実は10〜20ha程度とそろっており、1時間あれば歩いて一通り回れるほどの大きさになる。また、それぞれ「経済後背圏(馬場さん)」とも言える人口40万人以上の都市を近くに備えている。この小さな範囲×経済後背圏という立地に4つのプレーヤーがそろうチームができると、5〜10年で100弱のプロジェクトが集中的に起こり、点から面へ、まちの風景が変わる可能性がある。

全国には本書で取り上げた6つのエリア以外にも、条件に合致する地域は数多ある。「自分のまちがどんどんつまらなくなっていく」と悶々とする読者には、明日からすぐに動けるたくさんのヒントを得られるだろう。また、一緒に組む相手を探し始めるなど、より広範にエリアを捉えるきっかけにもなるだろう。また、たとえ立地条件が合致しなくても、自分が始めた小さなプロジェクトがまちに波及するイメージを思い描くには最適の本だ(なんでもイメージできなければ始まらない)。いずれにせよ、「まちづくり」という言葉に引っかかりを持つ人は、本書を手に取っていただきたい。●参考

エリアリノベーション:変化の構造とローカライズ

・東京R不動産
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