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SIGGRAPHってなんですか?(1)「VRが生まれた国」からシーグラフ予備知識をお送りします ~白井博士のVRおもしろ相談室 第6回~

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<某GOばっかりやってるわけじゃないですよ!>

今この原稿は、アメリカ行きの飛行機の機内から執筆しております。先週の連載はお休みさせていただき、筆者・白井博士はゲーム開発者のためのツールとミドルウェアのフォーラム GTMF2016 Tokyo (Game Tools & Middleware Forum: GTMF) にて、新しいAR技術の展示をさせていただいておりました。

今回は、カリフォルニア州アナハイムで7月24日より開催されるSIGGRAPHというイベントについて解説していきます。

<SIGGRAPH2016キービジュアル:テーマはRender the Possibilities>

SIGGRAPHってよく聞くけど何?

SIGGRAPH(シーグラフ)とは、筆者の年齢(43歳)とほぼ同じ、世界で最も長い歴史を持つコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の国際会議です。「VRが生まれた国」である米国で、もっとも規模の大きい最大4万人規模の参加者が訪れるメガ学会です。VRの黎明期から常に、世界最新・最高の交流場所でした。

いわゆるCGに関連する学術口頭発表だけでなく、ハリウッドの映画産業や、その上映作品のメイキング、新しい技術のデモンストレーションが幅広い層に対して行われる「西海岸らしい自由な雰囲気がある国際会議」です。

日本からもCG研究、インタラクティブ技術の研究とも、Technical Papersでの論文発表や、Emerging Technologies(E-Tech)での技術のデモンストレーションを頂点に、長年日本から多くの研究者が挑戦しています。その活躍の一端は、日本を代表するCG研究者である西田先生(元・東京大学)による「CGの歴史」のメインステージとして語られています。

▼CG History(西田友是)
http://nishitalab.org/user/nis/ourworks/history/CGhistory.html

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – Emerging Technologies Trailer>

https://www.youtube.com/watch?v=r–ol6m4MJs

SIGGRAPHの何が魅力的なのか?

SIGGRAPHには先端の技術や表現・研究が集まっています。

まず学術系はトップ論文が集まるTecnical Papers、口頭発表のTalk、萌芽研究のPostersがあります。さらに、数百社の機器・製品展示が集まる見本市「Exhibition」があります。

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – Technical Pperss(抜粋)>

https://www.youtube.com/watch?v=dQBJ0r5Pj5s

上記のようなCGのテクニカルな研究や製品展示は、映像が生成されるアルゴリズムや技術詳細を論文やホームページで読み、その背後にあるエッセンスさえわかれば、ある程度は理解できるものです。最近はYouTubeのようなオンライン動画で見る機会も多くなりました。映画のメイキングはBlurayのボーナスコンテンツを探せばあるかもしれません。しかし、それも各社・各研究者・各制作スタジオの「秘密の塊」ですので、書けることもあれば書けないことも多いです。受け手によっても必要な情報は異なります。会って話すのが一番です。そんなわけでSIGGRAPHの期間中は、様々なミーティング(BoF)やパーティが開催されます。CG制作ソフトやGPU開発企業主催のダンスパーティもあれば、「西海岸のCG業界で働く日本人を囲む会」といった飲み会もあります。このような機会で就職や転職が決まったり、業界の噂話をいち早く手に入れたり…といった「オンライン動画では手に入らない情報」もあるのです。

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – Computer Animation Festival Trailer->

https://www.youtube.com/watch?v=Uz6dh6Ky8p8

SIGGAPHの目玉行事の中でもショートフィルム・アニメーションのフェスティバルであるComputer Animation Festival(CAF)は、アーティスト、エンジニア、研究者が楽しみにしているイベントの一つです。世界中から集められたショートフィルムやメイキング映像が、1週間を通して凝縮して上映されます。Pixarの新作ショートフィルムやハリウッド映画のVFXメイキング映像は商業的にも価値あります。特にElectric Theaterと呼ばれる展覧上映は採択作品の中でも特に優れた40作品程度を大スクリーン・最上位プロジェクターで2時間近く上映します。世界中から集まった”最高の参加者”による大歓声は、やはりオンライン動画で見るのとは全く異なった感覚で大変勉強になります。特に日本からの作品は(難関なのでそれほど多くはないのですが)、日本人が考えているところとは全然異なった点で評価されている、なんてパラドックスも感じることができます。

CAFは大スクリーン上映のElectric Theaterだけでなく、Daytime Selectsという部門別上映もあります。ゲーム映像を集めた「Arcade」や64KB制限部門「DEMOSCENE」などもすごい。

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – Computer Animation Festival – Daytime Selects>

https://www.youtube.com/watch?v=mxQE2lgPAc0

SIGGRAPHは映画産業と研究者のためだけのイベントではありません。ゲームやメディアアートなども多く扱われています。筆者は1997年の参加から、ちょうど今年で20年目19回(アジア含めると23回)の参加になるのですが、その間、ゲーム関連展示は大きく成長し、マーケット向けにはE3、開発者向けにはGDCとエキスポの住み分けが進みました。一方でSIGGRAPH内では「Real Time Live!」というイベントでリアルタイムグラフィックスの技術としてゲーム技術が再評価されており、CAFの一部として大きい存在感を持っています。ハリウッドの映画産業も最近はGPUを活用した高速レンダリング技術をどんどん取り入れていますので、ゲームと映画の融合を体感できる価値は大きいです。超巨大会場で、来場者が歓声をあげるポイントを感じる…これもオンライン動画では感じられませんからね。

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – Real-Time Live! Trailer>

https://www.youtube.com/watch?v=gnVwDTzRK5Q

メディアアートは変わらずSIGGRAPHの一角です。メディアアート、特に現代の芸術表現の大きな部分である「コンピューターを使った芸術」と「新しいメディア」の多くをCGやインタラクティブ技術が受け持っていた時代があったからと考えます。メディアアート業界ではオーストラリア・リンツの「アルスエレクトロニカ」という大きなフェスティバルがあり、また世界の広告賞もメディアアートプロジェクトが席巻する昨今ですが、現在もSIGGRAPHでは「Art Gallery」として、静止画からインスタレーション、難解なものから巨大なものまで、現代芸術の一端を切り拓くような作品が展示されており、作者にも会うことができます。

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – Art Gallery Trailer>

https://www.youtube.com/watch?v=aRJo_Mja9o0

他にも、Makersコミュニティによるワークショップ「Studio」や、モバイル関連の作品展示、コンテスト、さらにBirds of a Feater(BoF)と呼ばれる「興味のある人が集まるミーティング」があります。IVRCやBlenderのように、BoFの仕組みが始まってから毎年開催されている人気プログラムもありますし「日本から参加した人向けの日本語セッション」もあります。個別の萌芽的な話題があればその場で部屋を予約して開催することも可能です。

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – Studio Trailer>

https://www.youtube.com/watch?v=AMRbGGDndhk

「VRの逆襲」が予想されるSIGGRAPH2016

以上のように、SIGGRAPHをざっくりと分割すれば映像系(CAF)、学術系(Technical Papers)、体験系(Emerging Technologies, VR Village, Studio)、ミートアップ系(BoF)で紹介しましたが、実際にはもっと様々に入り組んでおり、近年のSIGGRAPHは「全部体験系」と表現しても間違いではないかもしれません。

そのなかでも「CG and Interactive Techniques」が示す通り、インタラクティブ技術、特にVRを忘れてはいけません。SIGGRAPHはもともとVRがしっかり展示される場所でした。特に注目なのはVR VillageとEmerging Technologiesという研究者・研究所が中心の先進技術デモです。Emerging Technologiesについては、次回以降でさらに深く紹介していきますが、今年は東大の稲見昌彦先生がチェアを担当されています。余談ですが、筆者が初めてSIGGRAPHで発表者としてSIGGRAPHに参加した1998年のころ(SIGGRAPH’98 オーランド)、大学院博士の学生だった稲見先生と並びで発表したのが懐かしいです。他の並びにはMITやARToolkitも展示されていました。筆者がはじめてHMDを装着したのもSIGGRAPH’97(ロサンゼルス)でした。はじめてのBoFをIVRCで開催したのがSIGGRAPH 2002(ニューオリンズ)、その頃は論文とCAFが中心だったSIGGRAPHで「インタラクティブ技術にも脚光を当てよう」「いつかは日本からも選ぶ側、チェアが出せるように」と頑張ってきたのですが、まさにそんな時代がやってきました。

そんな状況もあって、今年のSIGGRAPH2016(アナハイム)では「VRの逆襲」が予想されています。

以下、Mogura VRでここ最近に紹介されたSIGGRAPH2016でのVR関連について事前紹介しておきます。

▼現実を操れるようになる時代へ。メディアアーティスト・落合陽一氏が語った魔法の世紀とVR(2015.11.21)
http://www.moguravr.com/vrc2015-ochiaiyoichi/
筑波大学の落合陽一先生らの研究グループ「Digital Nature」はSIGGRAPH 2016で少なくとも3セッション6件の新作が採択されており、そのうちの数件は世界で初の展示となるようです。
<インライン動画:DMG in SIGGRAPH 2016>
https://www.youtube.com/playlist?list=PLjs11OzbfbioKNX-b2d3nuSgCh50v5QrL

▼自分の足でVR内を無限に歩き回れるシステム『無限回廊 – Unlimited Corridor』の動画が公開(2016.05.15)
http://www.moguravr.com/unlimited-corridor-movie/
東京大学大学院の廣瀬・谷川・鳴海研究室とUnityの簗瀬洋平氏が制作した、VR内でどこまでまっすぐ歩いても、実際には延々と回廊を回っているという体験です。

▼Oculus、グローブなしで触覚を再現するデバイスを開発中(2016.07.09)
http://www.moguravr.com/oculus-glove/
Oculusは現在、触覚を再現するデバイスとして、グローブを必要としない「HapticWave」という円盤型の触覚デバイスを開発しています。Emerging Technologiesで実際にさわることができるようです。

▼CGの祭典SIGGRAPH2016は例年以上にVRに注目(2016.07.13)
http://www.moguravr.com/siggraph2016-vr/
UPLOADによる「Virtual reality a major focus at SIGGRAPH2016」の翻訳記事で、VR Villageのチェアであるデニス・ケセネル氏がお勧めするいくつかの作品を紹介しています。VR Villageはデモ、インスタレーションでの、技術、健康、ソーシャル、そして今年は新たに「VR STORY LAB」というコンテンツ部門、さらに「EXPERIENCE PRESENTATIONS」というVRプレゼン部門が用意されており、Google EarthのVR化、攻殻機動隊VR、ディズニーの「IRIDiuM: Immersive Rendered Interactive Deep Media」、Rez-Infinite「Synesthesia Suit: The Full-Body Immersive Experience」、カーネギーメロン大学のMRなどが紹介されています。

<インライン動画:SIGGRAPH 2016 – VR Village Trailer>

https://www.youtube.com/watch?v=-deT4jmPga0

▼NVIDIA、VRの次世代技術アイトラッキングのSMIと提携(2016.07.21)
http://www.moguravr.com/smi-eyetracking-vr/
フォービエイデッド・レンダリングと呼ばれる眼球の中心窩の特性を利用した描画手法で、視野の中心部のみ高解像度のレンダリングを行い、周辺部は低解像度で描画する手法で、描画に必要となる処理が軽減するとされています。おそらくVR酔いにも効果がありそう。これは体験せねばですね。

▼デジタルドメイン、シュレックやカンフー・パンダをVRに(2016.07.23)
http://www.moguravr.com/digital-domain-dreamworks/
おそらく展示では「VRならではの演出」を見ることができるのではないでしょうか。

告知:初日からディープなイベントを開催します

最後に、現地に向かう人に向けた情報、筆者自身のイベントの告知です。

初日の日曜日、10:00 am – 11:30 amから、会場のAnaheim Convention Center, ACM SIGGRAPH Theater, Hall Cにて、IVRCのBoF会議を開催します。SIGGRAPH 2016 BoFのトップに掲載中。エントランスロビー付近のいい場所で、「IVRCを通して育ったVR研究者たち」というテーマでビデオと軽いトークセッションを開催します。

Agenda – “Researchers in VR from student competition”
10:00-10:05 Opening
10:05-10:15 Susumu TACHI (Univ. of Tokyo): IVRC (tentative)
10:15-10:30 Masahiko INAMI (Univ. of Tokyo, E-Tech Chair): SIGGRAPH E-Tech (tentative)
10:30-10:45 Hiroo IWATA (Univ. of Tsukuba): Striking Back To SIGGRAPH
10:45-11:20 Panel video session: Memoires – IVRC to SIGGRAPH
Panelists
– Hideyuki ANDO (Osaka Univ.)
– Hiroyuki KAJIMOTO (Univ. Electro Communications)
– Hikaru TAKATORI (Univ of Tsukuba) CHILDHOOD to BigRobot
– Shota SUGIMOTO (Keio Univ.) Jack and Beanstalk
– Guy LeBras, Laval Virtual
11:20-11:25 Announcements
– International Video Session http://ivrc.net/2016/en/video/
– Laval Virtual ReVolution 2017: TransHumanism++ http://www.laval-virtual.org
11:25-11:30 Conclusion / Photo session

筆者の挨拶に始まり、世界のVRのパイオニアである東大・舘先生による「IVRCについて」、SIGGRAPH 2016 E-Techチェアの稲見先生がEmerging Technolgies開幕直前にご登壇、加えて10年ぶりの参加で『BigRobot』を発表する筑波大学の岩田先生が「SIGGRAPHへの逆襲」と題した基調講演を行います。さらに、後半は過去のIVRC参加者のその後の活躍を紹介として、電通大・梶本先生、大阪大・安藤先生、Laval VirtualよりGuy LeBras氏、筑波大学「CHILDHOOD」(IVRC2014優勝作品)高鳥氏(BigRobotで参加)、慶應義塾大「ニョキニョキ豆の木」(IVRC2015優勝作品)杉本氏ほかをお呼びして、蔵出し映像を中心に全体で1時間半で凝縮してお送りします。

例年のBoFはいつも100人以上の参加者が集まる人気セッションなのですが、今年は事前に集まった映像と資料を見ていても参加価値の高いものと感じます。主催者がワクワクしている状態です。ぜひ会場でお会いしましょう!

さて、そろそろ飛行機が米国に到着します。
次回以降の更新をお楽しみに!

※編集部より。「白井博士に質問したい!」という方は、Mogura VRのTwitterアカウント(@MoguraVR)宛に 「#白井博士のVRおもしろ相談室」というタグをつけてリプライで質問をお願いします。VRに関する質問に白井博士が面白く、真面目に答えてくれると思います!

白井博士(しらいはかせ)/文・絵

1996年 東京工芸大学工学部写真工学科卒、1998年 東京工芸大学大学院工学研究科画像工学専攻修士課程修了。キヤノングループが開発した産業用ゲームエンジン「RenderWare」の日本市場立ち上げを経て、2001年 東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士後期課程に復学。2003年博士 (工学)の学位を取得。2003~2004年に財団法人NHKエンジニアリングサービス・次世代コンテント研究室、2004年末にフランスに渡り、国立工芸大学(ENSAM/ParisTech)客員研究員。VRによる地域振興、国際VR作品公募展Laval Virtual ReVolutionを2006年より主催。2007年より帰国し、日本科学未来館科学コミュニケーターを経て、現在、神奈川県の大学でVRエンタテイメントシステムの開発者を育成しながらVR作家として活動。

「白井博士の未来のゲームデザイン -エンターテインメントシステムの科学」(単著)、「WiiRemoteプログラミング」(共著),日本科学未来館企画展 GameOn公式図録「ゲームってなんでおもしろい?」(インタビュー協力),「ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2」(執筆協力)など。
blog: http://aki.shirai.as/
Twitter: @o_ob

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