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PL野球部 最後の夏が終わるまでの1年の歩み

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 甲子園制覇7回、春夏通算96勝を誇るPL学園野球部が“廃部”に追い込まれた。62期生となった12人の3年生の中に、かつて当たり前だった特待生はいない。いわば普通の高校生である彼らはこの1年、「超強豪校の最後の部員」の看板を背負う重圧と戦い続けてきた。

 PLに起きた異変を2年にわたって追いかけてきたノンフィクションライター・柳川悠二氏が、「最後の夏」への軌跡をレポートする(文中敬称略)。

 * * *
 2014年4月に入学した3年生は入学当初から多くの困難に直面していた。一つ上の世代までは学園が積極的に選手勧誘を行い、特待生を受け入れていたものの、62期生には特待生が一人もいない。全員が一般入試で入学してきた生徒だ。

 その62期生が最上級生となって迎えた昨秋の大阪大会は汎愛高校に敗れた。延長11回表に勝ち越しながら、逆転サヨナラ本塁打を浴び、全盛期には考えられなかった地方大会での公立高校への敗北。そのことは彼らの負い目となった。

 この春の最初の練習試合は3月19日。先発はエースの藤村哲平。初回から制球が安定せず4失点。1回途中で捕手が本業の主将・梅田翔大がリリーフした。試合は0対14というスコアに終わった。

 その日からしばらく、藤村は右肩の炎症によって投げられない時期が続いた。これ以上、選手が欠けたら春季大会出場もままならない。そのため予定していた練習試合を急遽、取りやめたこともあった。

 4月16日に行われた春季大会初戦の相手は私立の太成学院。先発のマウンドには梅田があがり、9点を奪われながらも最後までマウンドに立ち続けた。

「このユニフォームを着ている以上、伝統を汚すわけにはいかないと思っています。12人という部員で、戦力の底上げがないので、意識の高さが、向上につながる。精神的な面の底上げをしていきたい」(梅田)

 翌週の練習試合では、全選手が青光りする頭になって現れた。太成学院戦の日の夜に、風呂場にバリカンを持ち込み、五厘刈りにしたという。その理由をセンターを守る安達星太にねたところ、「気合いっす(笑)」という明快な答え。

 梅田は打ち込まれたが、一週前とは投球フォームが違った。ためを作って左足をクロスステップする。球威のない梅田の、球の出所を少しでも打者にわかりにくくする工夫だった。試合後、梅田は明かした。

「真っ直ぐに勢いがないことに課題を感じていた。プロ野球選手の動画をユーチューブで観て、参考にしました。恥じない行動と準備をして、何点差を付けられても、最後まで食らいつき、そして逆転するPL学園の野球を貫きたい」

 梅田らは伝統校の最後の部員という重責も背負っていた。大事そうに抱えた梅田のキャッチャーミットには「球道即人道」という部訓が刺繍されていた。

 最後の夏は、確実に、急速に近づいてきていた。練習試合の度に、スポーツ紙記者の姿が増えていった。5月に入って行われた私学大会から、チーム状況は少しずつ上向いてゆく。エースの藤村がマウンドに帰ってきて、早稲田摂陵を相手に9対1で勝利する。

 私学大会の次の相手は履正社。さすがに春の大阪王者には、場外に消えた2本を含む4本塁打を浴びて大敗を喫したものの、貧打に泣いていたチームが強豪から3点を奪った。

 その日の試合後のことだ。バスに乗り込もうとしていた部員の前に、ひとりの男性が現れた。

「26期の主将でした」

 そう自己紹介したのは、現在、履正社医療スポーツ専門学校で野球部を指導する森岡正晃である。最後の部員を前に、森岡は涙ながらに語った。

「ゴメン、泣き虫やからね。今も野球人として指導ができているのはPLで学んだおかげです。12名で戦っている君らを見たら、感動と勇気をもらいました。最後までしきってしきってしきり通せば、絶対に神様が見捨てることはない。悔いのない夏にしてください」

 森岡が口にした「しきる」という言葉──。

 PLのナインは打席に入る直前や守備位置に就く前に、ユニフォームの胸のあたりを握りしめる。1980年代の黄金期、野球少年たちがこぞってマネをしたこの所作は、学園の母体であるパーフェクトリバティー教団(PL教団)における「おやしきり(祖遂断)」という宗教儀式で、部員たちが握っているのは首からぶら下げたアミュレットと呼ばれるお守りだ。

 心の中で「お・や・し・き・り」と唱え、普段の力が発揮できるように祈りを捧げる。

※週刊ポスト2016年8月5日号

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