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日本一リッチな村 村民は「努力で豊かになったわけでは…」

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 日本の市区町村の数は全部で1873(政令指定都市の行政区を含む)。北海道から沖縄まで、人口、面積、自然環境などまさに千差万別だ。そのうち、最も財政に余裕がある(お金がある)村とを、ノンフィクションライターの前川仁之氏が訪ねた。

 * * *
 日本一豊かな村、愛知県飛島村は、名古屋駅から電車とバスを乗り継いで約40分。交通の便が良いとは言えない立地にある、人口約4500人の村だ。

 財政力指数(1.0であれば収支バランスが取れていることを示し、1.0を上回ると、国から自治体に与えられる「地方交付税交付金」の原則支給対象外となる)は毎年連続で「2」を超え、ダントツで日本一。

 90歳のお年寄りには20万円、95歳には50万円、100歳には100万円の長寿奉祝金を渡している、リッチな村だという。そんなにリッチなら、総身ににじみ出た余裕が五感に訴えてくるに違いないと期待しつつ、近鉄蟹江駅前でタクシーを拾う。次のバスには30分もあるのだ。

 蟹江川、日光川、そして善太川、と伊勢湾に通じる水路を渡り、タクシーは飛島村に入った。田んぼと畑ばかりが広がる平地を走ってゆくとやがて左手300mほど向こうに巨大な建物が一つ二つ三つ固まっているのが見えてくる。

「あれが役場です。隣が飛島学園で」

 飛島学園とは、小・中一貫の村立学校だ。村の豊かな財力は教育にも発揮されており、この村では毎年中学2年の生徒たち全員をアメリカに派遣している。生徒たちは姉妹都市であるカリフォルニア州リオビスタ市にホームステイし、シアトル、サクラメント、サンフランシスコといった西海岸の都市を巡り、学校訪問や工場見学などで見識を広めるのだ。費用は村持ちだという。

 役場の入口の円柱には伊勢湾台風の時の到達水位が刻まれていた。1.95m。高い。伊勢湾台風と言えば今からもう60年近く前の災害だ。それがこの堂々たる役場の玄関先にあるということは、村の歴史の中で伊勢湾台風が占める位置を示しているのだろう。

 役場に入り、取材に来た旨を告げると「取材は受けません」と断られた。

 役人への取材はあきらめ、一般村民を探すことにした。タクシーからちらりと見えた竹之郷神社に向かって歩いていると、初老の男性に出会った。取材の主旨を話すと「それなら役場に行かれるといい」と言う。役場で断られたいきさつを話すと、そうかあ、となにやら納得した様子。

「以前もマツコデラックスの番組で取り上げられましてな。そういう、茶化すような番組でもなんでも村長さんが取材受けてたから、議員さんから怒られたみたいですよ」

 興味本位に取り上げられて傷つく村民もいるのだろう。幸い、本誌を見た男性は「真面目そうだ」と納得し、今年度の予算が記された村の広報を持って来てくれた。そこには手厚い住民サービスの数々が書かれている。夫婦一組につき5万円の結婚祝金支給。一人10万円の児童養育奨励金。18歳までの子供医療費支給。太陽電池を設置するなら1kW当たり10万円の補助、というのもある。

「まあしかし、村民の努力で豊かになったのとは違うからなあ」

「いえいえそんなことないでしょう。やっぱりなにかしら、工夫があったのでは?」

 男性は少し黙っていたがやがてにっこり笑った。

「なにもない」

 歳入の半分以上を占める村税約32億のうち24億8000万円が固定資産税。これらは三菱重工をはじめ、南部の臨海工業地帯に工場を置く企業から上がる。

 そしてこういう状態になったきっかけが、昭和34年9月26日の伊勢湾台風(台風15号)だった。飛島村は死者132名、全半壊計586戸という壊滅的な被害を受ける。当時は貧しい村で復旧もままならなかったが、やがて愛知県が名古屋港西部臨海工業地帯構想を打ち出したことで一気に状況が好転するのだ。

 伊勢湾台風で破壊された昔の堤防の先はどんどん埋め立てられていった。工業地帯の造成が完了すると、自動的に飛島村に編入される。これが昭和46年のことで、今の豊かな飛島村の基盤ができあがった。

「そういう意味では、伊勢湾台風で亡くなって見えた(亡くなられた)方々の犠牲があって、今のこの裕福な村があるんでしょう」(前出の男性村民)

 村に富をもたらした地の利は、災害の危険と表裏一体だ。来るべき大地震に備えて、村ではこの4月に北拠点避難所を完成させ、来年までにもう一か所、津波一時避難所を建設する予定になっている。

 また、人口減少を食いとめるために、12月からの販売に向けて分譲住宅の開発にも取り組んでいる。圧倒的に豊かな財政を持ってはいても、悩みは尽きない。

※SAPIO2016年8月号

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