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最期まで自分らしさを貫いたアルツハイマー型認知症の女性の話

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認知症看護認定看護師の市村です。看護師として、たくさんの認知症の方と関わってきました。どの方も素敵な方ばかりで、かけがえのない想い出として残っています。今回はそのなかで、女性として今でも私の憧れであるKさんという女性についてお話したいと思います。

最初はヒステリックで嫌われていた

Kさんは、老人ホームに入居していたのですが、暴言や暴力などのBPSD(心理・行動障害)が原因で、私が勤務する精神科の認知症治療病棟に入院されました。被害妄想が強く、関わろうとするスタッフに対して「何なのよ!」「私に何をするつもり!?」と叩いたり噛みついたり、なかなかの攻撃性でした。

正直スタッフには嫌われていました。私もなかなか介入ができず、もどかしい思いがありましたが、どのスタッフに対しても同じようにはっきりと拒否する姿が、なんとも凛としていてかっこいい人だなと思うようになりました。

キャリアウーマンだった過去

入院してしばらく経ち、入浴などの清潔ケアや食事などは拒否が続いていたのですが、少しずつコミュニケーションはとれるようになってきました。機嫌のいいときを狙って、色んな話をしていくうちに、キャリアウーマンで独身を貫き、自分のためにお金を使い、おしゃれを楽しみ、ひとりで海外旅行へ行き、週末はディスコで踊っていた、という話を聞かせてくれました。

今の時代であれば、そのような生き方をしている女性は珍しくありませんが、Kさんの時代では厳しい目で見られたそうです。

「今の時代に生まれたことを幸せに思いなさい!」
「人の目を気にせず生きていきなさいよ!」

これは、Kさんに何度も怒るように言われ、今でも私の心で生きている言葉です。

拒否もワクワク受け止める

もともとの性格も影響していたと思うのですが、機嫌のよいときと悪いときの差が激しく、とくに清潔に関するケア(入浴、清潔、口腔ケア)はなかなか受け入れてもらうことができませんでした。私もあの手この手で試しましたが、「騙そうとしたってそうはいかないわよ!」といつも怒られていました。

でも、私はそのやり取りが毎日楽しみで、「今日はKさん、どんな返しをしてくれるんだろう!」と、ワクワクしていました。周りのスタッフもそんなKさんの気丈さに愛情をもつようになり、みんなでそのやり取りを楽しむようになったところ、少しずつですが清潔ケアを受け入れてもらえることができるようになりました。

入れ歯をはずすくらいなら死んだほうがいい

Kさんは、若い頃とてもおしゃれな方だったようで、ADLが全介助の状態になっても、外見へのこだわりが非常に強い方でした。そのなかでも、義歯をはずすことにとても抵抗が強く、毎食後、Kさんとの戦いが勃発していました。Kさんはとても美人だったのですが、義歯をはずすと一気に顔が老けてしまうのです。それがわかっていたので耐えられなかったのでしょう。

何日も義歯をはずさず口腔ケアができなかったため、さすがに心配で少し無理強いしてしまったときがあったのですが、「入れ歯をはずすくらいなら死んだほうがいいわ!!」と猛烈に怒られたことは今でも忘れません。それまで他のスタッフよりも仲が良かったのですが、このあとしばらく口をきいてもらえませんでした。本人が嫌がることはしてはいけないと痛感した出来事です。

最期の日

入院から1年ほどが経過した頃、もともと持っていた身体疾患が急激に悪化し、最期はあっという間でした。こんな言い方は看護師としてダメなのかもしれませんが、ちゃんと私の夜勤で亡くなってくれました。しかも、夜勤帯の一番忙しくない時間帯を選んでくれたので、最期までゆっくり仲良くすることができました。周りのスタッフからも、「市村さんの夜勤のときを待っていたんですね」と言われましたし、私自身もそう思いました。

患者さんや利用者さんがなくなると、しばらく淋しくてグズグズしてしまうのですが、Kさんが亡くなったときは大切な人生の相談相手を失ったようで、しばらくぼんやりしていました。

あれから10年近くが経ちますが、今でもなにか女性としての生き方に迷ったときは、「Kさんだったらなんていうかな」と考えたりします。

この記事を書いた人

市村幸美

准看護師として数年間勤務した後、進学コースへ進み看護師免許を取得。認知症治療病棟への配属をきっかけに認知症ケアに興味をもち認知症ケア専門士、認知症看護認定看護師を取得する。「認知症をもつ人が受ける不利益をなくする」ことを使命と考え、現在は現場での実践や教育などさまざまなフィールドで介護・福祉に携わっている。またブログ『認知症専門のナースケアマネ市村幸美の【美Happy介護】』やSNSを通して介護職だけでなく一般の人に向けても認知症や介護を前向きに受け止めてもらえることを目指している。

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