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児玉誉士夫 日韓国交正常化で竹島密約引き出しに貢献した

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 児玉誉士夫といえば、戦後最大の疑獄スキャンダルであるロッキード事件(*1)の中心人物として知られる。その児玉が1965年の日韓国交正常化の立役者としてどんな役回りを演じていたのかということはあまり知られていない。だが韓国政府も児玉の貢献に対し1971年に、二等樹交勲章を贈っている。それだけではない、CIAとアメリカ国務省もこの功績を大いに賞賛した。

【*1:1976年2月に明らかになったアメリカ航空機メーカーのロッキード社を中心とする贈収賄事件】

 なぜなら、日韓国交正常化は、アメリカにとっても大きな利益だったからだ。つまり、当時世界最貧国レヴェルにあった韓国にアジア一の経済国である日本が経済・技術援助を与えれば、韓国を軍事的・経済的に援助しているアメリカの負担がその分だけ軽減されるということだ。

 したがって、アメリカ情報機関は、李承晩政権(*2)のときから、日本の政界に日韓国交正常化を促してきた。だが、韓国側の要求があまりにも法外なために不首尾に終わっていた(韓国側の要求については後述)。

【*2:1948年から60年までつづいた反日独裁政権。国際法に反して勝手に軍事境界線を日本海と東シナ海に引いたことで悪名高い】

◆大物右翼は「親韓家」だった

 1963年に朴正熙(*3)が政権を握ったころからCIAと国務省は、日本の政治家ではなく、彼らを上回る影響力を韓国に対して持つ児玉を利用することを考え始めた。

【*3:日本陸軍士官学校出身で満州国軍中尉だった、現在の韓国大統領・朴槿恵の実父】

 とはいってもこれはネットで根拠もなく書きたてられているように、CIAや国務省が児玉をスパイにしたということではない。「ネット右翼」や反日韓国人が聞いたら仰天するだろうが、この大物右翼は、もともと韓国のためになにかをせずにはいられない「親韓家」だったのだ。

 というのも、父の破産で一家離散し、児玉少年がソウル近郊に住む腹違いの姉に預けられたとき、孤児同然の彼に唯一情けをかけてくれたのが現地の韓国系日本人(日本統治下では朝鮮人は法律上日本人だったのでこう呼ぶ)だったからだ。身内にさえ冷たくされた児玉は、生涯その恩を忘れることはなかった。

 児玉に恩返しの機会が巡ってきたのは、朴が1961年にクーデターによって軍事政権を樹立したときだった。民主主義的手続きによらない暴力的手段で政治の実権を握った彼は、その政権を認めてもらうのに苦労した。

 朴にとってアメリカに次いで重要な国であった日本においても状況は同じだった。与党自民党の大物政治家はみな、様子見を決め込んで、いつ消えるともわからないこの独裁者に会うのを避けた。そこで、児玉は、自民党の有力政治家の大野伴睦と河野一郎(*4)に働きかけて、当時の首相・池田勇人との会談を実現させた。日韓の関係が少しでも改善することを願ってのことだった。これによって朴政権は日本政界に認められ(*5)、児玉は朴の恩人となった。

【*4:ともに党内大派閥の長で、児玉から政治資金の提供を受けていた。/*5:国家としての正式承認は日韓国交正常化のとき】

 その後の1964年の2月23日、アメリカの女性実業家・ジャーナリストが児玉を国賓としてアメリカに招待するようCIAに要請した。

 この女性は、名をラス・シェルドン・ノウルズといい、南アメリカについての記事やラジオ・レポートをアメリカのプロパガンダ放送VOAに提供していて国務省とCIAと深い関係があった。

 彼女が考えたのは、「政治家から学生運動からやくざまで動かせる」児玉を自家薬籠中のものにするために、国費でアメリカに招待するというものだった。

 これに対して古参のCIA局員は、「マフィア(Cosa Nostra)を国賓として招けといっているようなものだ」と反対した。だがCIAは、児玉の影響力を利用するという、ある種タブーのこのアイディアを、日韓国交正常化工作に活かすことにした。そのことをCIA「児玉誉士夫ファイル」のなかの公文書が示している(詳しくは拙著『児玉誉士夫』に譲る。※著者=有馬哲夫)。

 しかし前述のように、児玉の日韓関係改善のための動きは、アメリカ情報機関の思惑とは関係なく、児玉が彼の恩人の国と母国との断絶状態をなんとかしたいという思いから起こったものだ。アメリカ側がしたことも、CIA文書を読む限り、児玉に資金を与えるとか便宜を与えるとかではなく、彼が動きやすいよう根回しをしただけだった。だが、彼のような大物フィクサーのバックにアメリカ機関がついていると日韓の政府要人に思わせるだけで、絶大な効果があった。

◆ゴールは日本の軍事的自立

 児玉は、日韓双方の首脳との裏交渉によって、対馬はもちろん竹島についても韓国の領有権の主張は認めない、ただし、竹島の主権については、こののち棚上げし、双方とも主張しないという「竹島密約」を引き出すことに貢献した。戦争賠償金についても、額では譲歩したが、戦争賠償金ではなく経済援助という名目にするという条件を勝ち取る上で大きな役割を演じた。この事実は、2005年8月26日に公開された韓国の外交文書やそれらをもとにしたロー・ダニエルの『竹島密約』で明らかにされている。

 これまで日韓国交正常化交渉の立役者は、大平正芳や岸信介とされてきたが、それまでの日韓の交渉を見れば、これら表の政治家の正面切った外交交渉ではとても達成は無理だったことがわかる。朴の恩人・児玉の気長で柔軟な裏交渉とアメリカ情報機関の支援が不可能を可能にしたのだ。

 形としては、これらの情報機関の工作に児玉がアセットとして使われたことになるが、現実には、利害が共通するところでは、彼らと児玉が互いを利用し合ったということだ。

 ただし、両者が目指す最終ゴールは、互いに違っていた。アメリカ側はあくまで自国の負担の軽減がゴールだったのに対し、児玉の最終ゴールは日本の軍事的自立だった。これは児玉がGHQによって巣鴨プリズンに投獄されたときから悲願としてきたものだ。つまり、軍事的に自立しない限り、日本はアメリカのいいなりにならざるを得ないということだ。

 しかし、駐留アメリカ軍を撤退させ、軍事的に自立するとなると日本一国だけでソ連や中国から身を守ることはできない。近隣諸国と何らかの形で軍事同盟を形成することが不可欠になる。その場合、日本とは一衣帯水の韓国を抜きにすることは考えられない。韓国をできるだけ日本に近寄せておくことが不可欠だ。イデオロギー優先で現実を見ない左翼に比べて、現実改変志向の右翼はリアリストだ。

 1965年日韓国交正常化が成ったあと、朴の恩人にして、日本から巨額の経済援助を引き出した功労者の児玉は、大韓航空など韓国の財閥系企業のコンサルタントとなり、国交回復ビジネスから利益を得た。それを大野や河野などの政治家につぎ込んで岸のあとの総理大臣にしようとした。駐留アメリカ軍なき独立国家日本という悲願を達成するためだ。

 しかし、これはCIAから秘密資金などを受けた自民党有力政治家に阻まれた(*6)。児玉は手塩にかけた中曽根康弘が首相になるのを見届けたあとの1984年に、夢半ばにしてこの世を去った。

【*6:2006年公開の国務省の文書によればCIAから秘密資金を受け取った「自民党有力政治家」とは、岸のほかに池田勇人、佐藤栄作も指している可能性がある】

「竹島問題」は、1993年に大統領になった金泳三が密約を破ってからは、束の間の人気回復のために韓国大統領が常套的に持ち出すカードにされてしまった。

 日本の経済援助によって可能になった「漢江の奇跡」も、韓国の歴史教科書の記述からもわかるように、まったく評価されず、それを成し遂げた朴正熙大統領も韓国の権利を日本に安売りした裏切り者とされている。それを実の娘にして現職の朴槿恵大統領さえどうにもできない。

 日韓の足の引っ張り合いをロシアや中国は面白がっている。アメリカも内心ではこれを喜んでいる。仲裁者としての自分の存在感が増し、両者を御しやすくなるからだ。ヨーロッパ人は、こういった日韓(あるいは日韓中)のごたごたを侮蔑的笑いを浮かべながら楽しんでいる。

 児玉に復活ねがって、日韓がアメリカ抜きの軍事同盟を結ぶようなことがあれば、どれほどアメリカが慌てるか、ロシアや中国にどれほど脅威を与えるか日韓両国民によく教え諭してもらいたい。

●こだまよしお(1911─1984)
福島県生まれ。7歳で母を亡くし、8歳の時に朝鮮に住む親戚の家に預けられる。日本本土に戻り様々な右翼団体を転々とし、日中戦争のさなか児玉機関を運営し始める。戦後、A級戦犯の疑いで笹川良一や岸信介らと同じく巣鴨拘置所に送られた。その後、政財界のフィクサーと呼ばれ活動するが、ロッキード事件で起訴され、判決が出る直前に没する。

文/有馬哲夫(戦後史家)
【PROFILE】早稲田大学社会科学部・大学院社会科学研究科教授。著書に『「スイス諜報網」の日米終戦工作』(新潮選書)、『原発・正力・CIA』(新潮新書)、『アレン・ダレス』(講談社)など。

※SAPIO2016年8月号

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