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『千日の瑠璃』28日目——私は扉だ。(丸山健二小説連載)

 

私は扉だ。

甚だしく美意識に欠けてはいるかもしれないが、頑丈なことではまほろ町随一の扉だ。私はたった今玄関に取り付けられて、その風変りなビルを完成させた。うわベは平凡そのものでも、しかし私の内側には分厚い鋼鉄の板が二枚も仕込まれていた。私を横眼で見ながら素早く通り過ぎる町の人々の眼には、ありありと好奇と恐怖の色が入り混じっていた。そこが私の付け目だった。

役場の間延びしたチャイムが正午を告げる頃、私を町工場で作らせた三人の世故に長けた男が、ばかでかい乗用車で乗りつけた。見るからに粗野で、それとわからぬように小型の武器を帯びたかれらは、小指がないげんこつで私をどんどん叩き、矯めつ眇めつ眺め、内側にふたつもついているかんぬきが、確実に、しかも素早く掛けられるかどうかを念入りに調べた。そして、ただ若いだけではなく、颯爽としている長身の青年が、「試しにぶっ放してみるか」 と言った。

だが、その夜私をめがけて発射された銃弾は一発もなかった。三人の男はきょうからビルの住人となり、まほろ町の住民となった。私は、底知れぬ潜勢力を有するかれらの世界と、法律しか頼るものがない人々の世界を、きっちりと隔てた。夜更けに現われた、病気のために恐れを知らぬ少年が、拾ったチョークを使って私の上に落書きをした。稚拙な絵は、鳥のようでもあり、また、髑髏のようでもあった。
(10・28・金)

丸山健二×ガジェット通信

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