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「『希望』という一語に単純化された未来」――丸山健二の「怒れ、ニッポン!」第8回

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※撮影・丸山健二

怒れ、ニッポン!

電力会社の国営化の話は要するに話だけで沙汰止みとなり、いつの間にやら電気料金値上げの話が当然のごとく浮上してきている。また、この国にあれだけの大被害と大損害を与え、この先数十年ものあいだ苦しめつづけることになった企業のボスが当たり前のような顔をしてその地位に納まり返っている。

国のことを本気で真剣に考えようとするならば、ただ単に国を愛しているというような、非常に曖昧な、あまりにも漠然とした情緒を金科玉条にするのは大きな間違いだ。まずはその前に国家をどういう連中が牛耳っているかを正しく見極め、しっかりと把握しなくてはならない。すべてはそこから始まる。

アスファルトやコンクリートや鉄筋なんぞを使って自然のほんの上っ面を固めただけで自然を押さえ込んだと思い込んでいる、文明人の愚かな自惚れ。自然の驚異や猛威は、かれらの自負心など木っ端微塵に吹き飛ばしてしまう。大自然の端から端までが人間のことを思いやった造りにはなっていないのだ。

新政権はどうやら役人抜きではどうにもならないという無能さを認めたらしく、またしてもかれらに擦り寄ってゆく。「そら見たことか」とつぶやきながらほくそ笑む役人どもの悪辣な顔が目に浮かぶ。これでまた天下御免の役人天国が復活し、というか、ますます勢いづいて、国家は食い物にされてゆく。

放射能の被害が先鋭化の一途を辿っている。そしてそれは反発を感じさせないほど慢性化しつつある。国家と大企業に幻滅を感じた人々は、嫌な響きを持った「希望」という一語に単純化された未来をがむしゃらに信じようとしている。インチキの清澄な光に期待を込め過ぎると、また強烈なしっぺ返しだ。

 

為政者にはこの国を将来どうしたいのかという具体的なビジョンが欠落している。抽象的な、田舎者の情緒を刺激するような、演歌的な、思いつきとしか思えない展望は示すのだが、それ止まりだ。明確な展望もなければ、現実に即した設計図もないまま、その場その場の雰囲気に振り回されているだけだ。

日本人は殊のほか現実の直視を忌み嫌い、希望的観測のみを受け容れる。根拠などまったくないにもかかわらず、中身は同じで外装が変わっただけなのに、毎度毎度浅はかな期待感を抱いてしまうのだ。まるで子どもではないか。子どものように無邪気ならまだしも、その心根は目先の欲で腐りきっている。

(つづく)

丸山健二氏プロフィール1943 年 12 月 23 日生まれ。小説家。長野県飯山市出身。1966 年「夏の流れ」で第 56 回芥川賞受賞。このときの芥川賞受賞の最年少記録は2004年の綿矢りさ氏受賞まで破られなかった。受賞後長野県へ移住。以降数々の作品が賞の候補作とな るが辞退。「孤高の作家」とも呼ばれる。作品執筆の傍ら、350坪の庭の作庭に一人で励む。Twitter:@maruyamakenji

※原稿は丸山健二氏によるツイートより

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