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パイオニアたちの姿に心酔! 映画 『カンパイ! 世界が恋する日本酒』監督インタビュー

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日本酒業界に生きる3人のパイオニア

7月9日(土)に公開される映画『カンパイ! 世界が恋する日本酒』は、日本酒業界に生きる3人の男を主人公としたドキュメント・フィルム。この人選が実にユニークで、とても見応えのある内容になっています。

まず、岩手県二戸市「南部美人」の五代目蔵元、久慈浩介さん。

蔵元というのは、いわば経営者。酒造りを担当するのは杜氏(とうじ)と呼ばれるリーダーを中心とした職人たちで、経営と実務は完全分業が日本酒の世界では当然のルールとなっていました。

それを久慈さんは、蔵元でありながら自ら酒造りにもたずさわります。また日本酒輸出協会という団体を立ち上げ、世界に日本酒を発信するスポークスマンとしても活躍してきた、業界改革者のひとりでもあります。

ふたり目の男性は、日本酒伝道師のジョン・ゴントナーさん。

雑誌の日本酒特集などでもおなじみですね。国内外で日本酒の真価を伝えるべく活動を続ける、来日28年目のジャーナリスト。アメリカ・オハイオに生まれ、英語教師として1988年に来日、翌年たまたま飲んだ日本酒に魅了されます。それは運命的な出合いでした。作品中、彼はこう語っています。

時間があれば飲み屋さんに足を運んで、知らない銘柄を飲んでみたんです。酒屋さんにも通っては質問をくりかえし、常連になって。「このお酒の味わいと似てるのはどれ?」なんてね。日本語は当時まだまだ下手だったけど、みんな親切にしてくれましたよ。(ゴントナー氏)

そしてあるお店ですっかり馴染みとなったゴントナーさん、春のお花見に誘われます。

そのとき『ジャパンタイムズ』で働くアメリカ人と出会いました。日本酒をすすめられたけれど、あまりいいものではなかった。断ったんですよ。そしたら彼が「日本酒は嫌いかい?」と聞いてきたので、「大好きだよ。だからこそ、それは飲まない」って返事をしたら、「どれだって一緒だろう、日本酒なんて」と言われ、反論しました。そこから日本酒談義になって、彼が「面白い。それを書いてくれないか」となったんです。(ゴントナー氏)

そこが、日本酒伝道師としての彼の起点となりました。現在は日本酒の魅力を教えるセミナーを国内外で開催したり、日本酒輸出のアドバイザーとしても活躍されています。

3人目は、外国人として初の杜氏となった、フィリップ・ハーパーさん。

イギリス・コーンウォールに生まれ、オックスフォード大学を卒業。彼もゴントナーさんと同じく、英語教師として来日しました。同僚と飲むうち日本酒に興味を抱きはじめ、教師を2年勤めた後「日本酒に関わる仕事をしたい」と決意、奈良県の酒造メーカー「梅の宿」の蔵人(杜氏の下で働く人)となります。

現在「梅の宿」の会長である吉田暁氏は「最初(働きたいと聞いたときは)冗談で言っているのかと思った。けれど、3度ぐらい(働きたいという意思を告げに)来たんですね」と述懐。そして入社を許され、ひたすら酒造りに邁進。その働きぶりを見て吉田会長は「世界にも、大和魂をもった男性はいるんだな」と思ったそうです。

小西監督インタビュー「情熱と人柄は言葉を超える」

日本に来て、引き寄せられるように日本酒にたずさわり、働き続けるふたりの外国人。そして蔵元の息子として生まれ、積極的に海外に日本酒の魅力を発信しつづけるひとりの日本人。その映像化の狙いを、監督にうかがいました。

監督の小西未来さんは、南カリフォルニア大学映像学科で学び、現在もアメリカ在住。映画ジャーナリストとしても活動され、ハリウッド外国人記者クラブにも籍をおかれています。本作では脚本、編集も担当されました。

──この映画を製作したいと思われたきっかけはなんだったのですか?

私は日本酒についてまったく知らなかったんです。ロス、ニューヨーク、ロンドンなど、各地で現地の人と和食を食べる機会がありますが、その際に「日本酒のセレクトはお願いするね」と言われてしまう。本醸造と大吟醸の違いも知らなかったんです。このままじゃまずいな、と。

あるとき、ビバリーヒルズでユダヤ人を対象とした利き酒会に呼んでいただく機会がありました。そのとき「南部美人」の久慈さんに出会ったんです。正直、久慈さんの英語力はそれほど高くないんですよ。でもコミュニケーション能力が高くてどんどん自分のファンを増やしていく。それ以来、久慈さんで日本酒のドキュメンタリーをつくれないか、と考えるようになったんです。

──そこにゴントナーさんや、ハーパーさんが加わったのはどうしてなのですか?

久慈さんだけの映画にすると、どうしても「南部美人」のコマーシャル的に解釈されてしまうおそれがありますよね。日本酒を題材とする以上、多角的にとらえたかった。異なる立場にいる複数のプロに出演してもらいたい……と考えたとき「日本酒業界に関わる外国人」が浮かんだんです。久慈さんは海外で、言語や文化の壁を乗り越えて日本酒の魅力を発信している人ですし。

──ゴントナーさんやハーパーさんも、母国語や生まれ育った文化は違えど、日本で日本酒にたずさわって生きている人ですもんね。運命的な出会いをしてしまった異邦人。

3人ともアウトサイダーなんです。そこが僕には響きました。僕も海外に暮らして20年が経ちますが、いまだに日常的な不自由を感じます。ハーパーさんやゴントナーさんが体験した苦労を想像しただけで、気絶しそうになりますよ。でも彼らは伝統的な世界で日本人から認められるという成果をあげている。久慈さんにしても、世界20数カ国に「南部美人」を売り込んでいる。情熱と人柄は、言葉を超えるんだと彼らを見ていて思います。

──ドキュメンタリーなのだけれど、いつしかドラマ映画を見ているような気になりました。初の外国人杜氏、アメリカ人で日本酒伝道師、海外で日本酒の良さに気づいてもらおうと奮闘する蔵元……みな開拓者ですね。その生きざまが交差する編集がすばらしかったです。

ありがとうございます。単なる3つの短編の寄せ集めにはしたくなかったんです。3人の人生は日本酒を軸にしていても基本的に交わることがありませんが、同時進行で描くことで大きなうねりのようなものを作り出そうとしたんです。スティーブン・ソダーバーグ監督の『トラフィック』の構成が参考になりました。私はノンフィクション専門の作家というわけではなく、フィクション製作もしたいと思っていますが、現在のところは『カンパイ! 世界が恋する日本酒』の続編をつくりたいと思っています。

──ありがとうございました。次回作、心待ちにしています!

最後にひとつ。

「南部美人」も東日本大震災で被災した蔵元のひとつです。震災直後、自粛ムードが広がり「お酒を飲んで楽しむ」ということが後ろめたく感じられた人も多かったと思います。そのとき、久慈さんが動画サイトからこんな発信をされたのをご存知でしょうか。

「ああ、あの人か!」と思われる方も多いでしょう。

この映画では、久慈さんの友人である福島・浪江町の鈴木酒造店、鈴木大介杜氏も重要な人物として描かれています。「磐城寿」で知られる鈴木酒造店は津波により、全壊。山形県長井市に拠点を移され、酒造りをふたたび始められました。その鈴木さんが、浪江町にあった蔵元跡を訪れるシーンは、この映画のクライマックスのひとつとなっています。

震災と日本酒、ということも描かれた映画です。

多くの日本酒好き、そして日本酒に興味のある方におすすめしたい『カンパイ! 世界が恋する日本酒』は、7月9日からの公開。本作を見たら帰りに日本酒が飲みたくなること間違いなし。帰りはぜひぜひ“寄り道”の余裕をもってご覧ください。

作品情報

『カンパイ! 世界が恋する日本酒』

監督:小西未来

エグゼクティブ・プロデューサー:駒井尚文、スージュン

プロデューサー:柳本千晶

出演:フィリップ・ハーパー、ジョン・ゴントナー、久慈浩介

2015年/日・米/日本語・英語/95/カラー
配給:シンカ

© 2015 WAGAMAMA MEDIA LLC.

2016年7月9日~、シアター・イメージフォーラム他全国順次公開

ウェブサイト:http://kampaimovie.com/


書いた人:白央篤司

フードライター。雑誌『栄養と料理』などで連載中。「食と健康」、郷土料理をメインテーマに執筆をつづける。著書に「にっぽんのおにぎり」「にっぽんのおやつ」(理論社)「ジャパめし。」(集英社)がある。 facebook:atsushi.hakuo ブログ:独酌日記

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