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格安歯科医「インプラントを!」でも別の歯科医「抜歯不要」

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 東京・山手線の駅から歩いて1分ほどの狭い雑居ビルに、その格安インプラント・クリニックはあった。梯子のように狭くて急角度の階段を上って2階に着くと、受付には地味な中年女性。

 問診票の記載を手早く済ませ、4階の検査室へと案内される。途中の3階奥では、ちょうどインプラント手術を行なっていた。特に隔てるものもなく、病院の手術室のような清潔区域ではない。あっけにとられて、しばらく見ていると、手術着の歯科医らしき女性と目が合った──。

 全国各地でチェーン展開する格安インプラント・クリニックが台頭している。ウェブサイトには、〈インプラント1本7万円~〉〈実績3000症例〉などのコピーが躍る。

 2か月ほど前、筆者はちょうどある歯科クリニックで“奥歯を抜歯したほうがいい”と診断されていた。それで格安インプラント・クリニックに自然な形で潜入したのだ。

 検査後、30代前半と思しき男性歯科医が、X線とCT画像をチームで検討したいので、翌週に再び来るように告げた。

 このクリニックでは検査とカウンセリングの費用はタダ。しかも家族や友人を紹介すると、1万円の商品券をもらえるキャンペーンを実施中だ。医療機関とは思えない商魂である。

 3日後──。

「この歯は、抜かなきゃいけないと思うんですねー」

 先週と同じ歯科医はX線画像を見ながら、奥歯2本を抜いて、インプラントを打つことを勧めてきた。

「うーん、隣の歯も厳しいんじゃないかなぁ。頑張って残してもあんま将来性がないかもしれない。それだったら、一度にやっちゃった方が楽だと思うな」

 歯科医が勧めるインプラントは、このクリニックで最も価格の高いタイプだ。

「インプラントの会社は300社あるんですけど、ココが一番いい。王様っていわれている。ただ、値段が高い。2本で80万弱くらい」

── 一番リーズナブルなタイプはどうですか?

「ワンピースのタイプね。15万円のは銀歯の値段なんで、白くしたいなら20万円です。一応これでもできると思います」

 歯科医は、筆者の意向を確認しないままインプラント手術に向けて、翌週に抜歯の予定を入れた。手術は誰がやるのか聞くと──

「僕がやります。このグループで一番やっていますから。この3年で2000件を余裕で超える。僕が手術する人は“アタリ”ですよ」

 この若い歯科医は、最後までインプラントのリスクに一言も触れなかった。

 本当に抜歯しなければならない状態なのか? 「抜かない歯医者」を標榜し、自身のHPには〈セカンドオピニオン承ります〉と記している東京・渋谷のサイトウ歯科医院の斎藤正人院長は、まずこういった。

「そのインプラント医はあなたの歯を触診したのかな? 触りもしないで正しい診断はできませんよ」

 そして、斎藤氏は筆者の奥歯を触り、揺らぎがないことを確かめて断言した。

「画像診断と触診の結果、100%抜歯する必要性はない。根の治療から始めれば、歯を残せる可能性は十分にあります」

 インプラント手術の経験も豊富な入谷治院長(Advanced Care Dental Office、東京・錦糸町)は、X線画像だけでは正確な診断は困難としたうえで、「このケースは根尖病巣(※歯根の先に膿の袋ができている状態)なので、抜歯を考える必要はゼロです」と所見を述べた。

 安易に歯を抜いて、インプラントに誘導する歯科医は確かに存在している。

 いま、歯科医たちの関心がどこにあるのか。客観的に示しているのが、学会の会員数だろう。

 歯を残す上で、最も重要となる根管治療を研究する「日本歯内療法学会」の会員数は2255人。一方、インプラントを行なう開業医たちの組織である「日本口 インプラント学会」は、1万4461人。実に6.4倍の開きがある。

 自由診療のインプラントと比べて根管治療が利益にならないのは確かだが、多くの患者は自分の歯を残したいと願っている。歯科医と患者のギャップは大きい。

●レポート/岩澤倫彦(ジャーナリスト)

※週刊ポスト2016年7月15日号

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