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【長時間労働の是正が成長のカギ】人事のプロが指摘する「今、企業が取り組むべき人事的な課題」とは?

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年間500社もの企業の人事部、人材開発部門に取材を行い、企業の人材採用や、人材開発についての現状に詳しい中央大学大学院客員教授の楠田祐氏。人事担当者向けセミナーやインターネットラジオのパーソナリティなども精力的にこなす楠田氏。企業の人事の課題を知り尽くし、企業経営者、人事担当者との人脈も広い。氏は一昨年、ワーキングマザーの就労環境の整備不十分などを理由に、「女性の活躍推進の流れに黄信号が点っている」と警鐘を鳴らしたが、最近になって育児休暇取得後に復職したワーキングマザーたちの声から、今の日本企業が抱える人事的な課題に気づいたという。どんな課題なのか、詳しく伺った。

楠田 祐氏

中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授/戦略的人材マネジメント研究所 代表

大手エレクトロニクス関連企業など3社を経験した後に、人材開発・育成を手掛けるベンチャーを立ち上げ社長業を10年経験。2008年に企業への人事戦略アドバイスを行う戦略的人事マネジメント研究所を設立し、年間500社もの人事部門を訪問する。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究するほか、多数の企業で顧問も担う。著書に『破壊と創造の人事』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。昨年6月、企業が抱える人事的な課題を歌った著書と同名のCD『破壊と創造の人事』をリリースし、アーティストデビュー。セカンドアルバム『残業イルミネーション』も好評。

時短勤務の「ワーママ」が抜擢されにくい土壌を危惧

産休・育休の充実により、出産を機に退職を選ぶ女性が減り、育休取得後の復職率も高まっています。そして、ワーキングマザーをサポートする「イクメン」も確実に増えています。

しかし、ワーママに詳しくヒアリングすると、旦那さんは子どもを保育園に送ってくれるものの、お迎えはママの役割というケースがほとんど。つまり、子育て中の女性社員は総じて、時短、もしくは残業なしの時限勤務を余儀なくされているのが現状です。「イクメン」が徐々に市民権を得つつあるものの、時短・時限勤務まで容認されているとは言えません。そしてワーママは皆、「時短・時限勤務、お迎えは、私の担当でいいんです」と割り切っている。

2020年までに女性管理職の比率を30%にするとの数値目標が掲げられ、今年4月からは女性活躍推進法もスタートするなど、女性に追い風が吹いているように見えます。しかし、お迎えが必須となれば、少なくとも子どもが小学校に上がるまでは時短勤務が続きます。今の日本企業の評価体制では、ワーママに管理職のチャンスはなかなか回って来ないでしょう。

この状況を、私は危惧しています。なぜなら、時短勤務が評価されにくい現状は、女性の活躍推進に黄信号を点すだけではなく、すべてのビジネスパーソンにとってマイナスであると気付いたからです。

ワーママ、介護者だけでなくすべての社員に「早く帰る理由」がある

そもそも、「働く時間に制約がある」のは、ワーキングマザーだけではありません。親の介護をしている人も同じです。団塊世代が70代に突入することで、介護休暇を取得する団塊ジュニア世代は今後さらに増えるでしょう。

かといって、会社がワーキングマザーや介護者のサポートばかり手厚くしたり、プラス評価をしていては、それ以外の人との不公平感が強まり、不満が噴出する恐れがあります。

私は、これからの企業は「すべての社員に早く帰る理由がある」という前提で人材マネジメントをすべきだと考えています。お迎え、育児、介護だけでなく、スキルアップのためにビジネススクールに通いたい、ボランティア活動に注力したい、趣味の時間を作りたい…なども、立派な「早く帰る理由」であるはず。長時間労働を極力減らし、全ての社員の労働時間をできるだけ平準化して、皆が早く帰れるような環境が整備されれば、時短のワーママや介護者など、あらゆる立場の人が正当に評価され、抜擢される土壌ができるでしょう。

社員の「自己実現」を応援することが、企業の成長にもつながる

加えて、長時間労働が是正されれば、ビジネスパーソン一人ひとりの人生がさらに豊かになり、企業の成長にもつながるとも考えています。

ある大手商社では、残業ありきの働き方を抜本的に見直し、3年前から「朝型勤務」制度を導入しています。22時以降の深夜勤務を禁止し、20時以降の勤務も原則禁止、そして朝5時~8時の早朝勤務にはインセンティブを支給。これにより、多くの社員が8時前に出勤し、夜は定時退社。どんなに遅くなっても20時までには退社するようになったといいます。結果、残業が減ったことによる光熱費が減少のみならず、社員の生産性自体も向上したのだとか。

あるIT企業では、子どものお迎えのため毎日18時には退社しているワーキングマザーを、人事担当役員に抜擢しました。それにより人事部門では、「上司が帰る18時までにできるだけ仕事を終わらせねば!」と皆が報告事項や打ち合わせ、承認が必要な業務などを効率的に進めるようになり、結果、当人だけでなくメンバー全員が18時過ぎに帰れるようになったとのこと。そうなると、ほかの部署も「人事部門が早く帰っているんだから、自分たちも見習わないと」と働き方を見直すようになり、長時間労働が是正されて残業減少、生産性の向上につながったそうです。

若い人は特に、仕事以外にもさまざまな興味・関心、やりたいことがあるはず。長時間労働でそれを制限され続けると、人はやる気を失い、他社への転職を検討しますが、この2社のように「残業を減らし、社員一人ひとりのプライベート(=自己実現のための活動)を支援する土壌」がある会社であれば、仕事へのモチベーションが上がり、帰属意識も高まるのだと考えています。

一方、仕事に人生を捧げてきた団塊世代の中には、「定年後に何をしていいかわからない」という人が少なくないようです。70を超えて「自分の人生は仕事しかなかったのか?」と後悔しても、時すでに遅し、です。これから生きがいを見つけようと奮起しても、徐々に「健康寿命」が近づき、やりたいと思ったことすべてには挑戦できないかもしれません。

20代、30代のうちに「自身の生きる目的とは?自己実現の方法とは?」を考える機会を設け、そのための活動時間を確保することが、企業にとっても、働く個人にとっても、ますます重要になると感じています。

ダイアログ(対話)が盛んな組織は、社員のモチベーションを高める

先に挙げた2社のように、「長時間労働を減らし、社員一人ひとりの自己実現の時間を確保し、生産性を上げる」ためには、「上司と部下のダイアログ(対話)を増やす」ことが有効です。

対話を増やすことで、上司が部下の価値観を理解できるようになれば、一人ひとりの意向に沿ったミッションを任せたり、仕事のモチベーションを高めるようなフィードバックができるようになります。少なくとも、お迎えや介護、勉強や趣味などのために早く帰ろうとする部下に、「この忙しいときに!そんなんじゃ昇進できないぞ!」などと暴言を吐いて、モチベーションを著しく低下させることはなくなるでしょう。

すでに欧米では、「ダイアログ中心の評価体制」に注目する企業が増えています。日本企業においては、1年に一度や半年に一度といったペースで、上司と部下の振り返りが実施され、その内容で評価が行われるケースが多いですが、時代の激しい変化に伴い事業や商品、サービスのライフサイクルが短命化している今、1年に一度や二度といった長期スパンの振り返りでは、正しい評価がしにくいとの考えから、「普段のダイアログによるリアルタイム評価が適切だ」との声が高まっているのです。

ある米国企業において、半期に1回の振り返り面談で評価を決めた場合と、振り返り面談はせず普段の働きぶりを見て評価を決めた場合に分けて、部下の納得度を調査したところ、後者のほうが納得度が高いという結果が出たそうです。

半期に1回の面談だけでは、部下は「普段の自分を見ていないくせに、簡単に評価してくれるな」と不満を抱きます。実際、上司側も「半期に1回の面談」という制度に甘え、普段の部下の働きを丁寧に見ることがなくなります。

しかし、「普段の働きぶりから評価を決める」となると、上司も部下も対話を増やさざるを得ません。上司は部下に話しかけ、どんな仕事にやりがいを感じているのか、何を志向しているのかをできるだけ聞き出すことで、正当な評価をしようと努力します。部下のほうも、自分を知ってもらうことで正当に評価してもらいたいから、自分から積極的に話しかけるようになります。

そしてその過程で、仕事やキャリアに関することだけでなく、お互いの価値観や、自己実現方法などが見えてくるようになります。すなわち、ダイアログを増やすことが、「皆が納得のいく評価」と「自己実現方法への理解」につながり、部下の仕事へのモチベーションと帰属意識の向上にもつながっているのです。

企業選びの際の、評価基準の一つとして有効

日本でも、一部のベンチャー企業においてこの評価制度を取り入れる動きがでています。年次管理、年功序列がいまだ残る日本企業ですが、社員一人ひとりの自己実現を応援してモチベーションを上げ、企業の成長力を高めるためにも、ダイアログ評価は必須。将来的には、企業の成長力を図る一つの物差しにもなるでしょう。

ビジネスパーソンが就職やキャリアアップ転職を志す際には、仕事内容や給与・待遇だけでなく、今後は「無意味な長時間労働を減らす努力をし、社員一人ひとりの自己実現の時間を確保しているかどうか」「上司と部下のダイアログ(対話)を重視しているかどうか」もぜひ確認してほしいですね。

前者については、「企業のトップが自分の言葉で発言しているかどうか」で判断できます。先に例で挙げた大手商社は、社長が自ら、ホームページやマスメディアのインタビューなどで働き方の意識改革について語っています。

後者は、面接などの場でズバリ質問しても、マイナスに取られることはありません。上司と部下のダイアログが盛んな企業は、評価の納得性だけではなく、風通しのいい社風や、目的に向かって一丸となれる土壌があるはず。社員一人ひとりがイキイキと働ける企業である可能性が高いと判断できます。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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