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Supership・アップベイダー・Socket CTO対談。KDDIグループ企業の開発環境、技術交流とは?

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KDDIグループが、M&Aでオープンインターネットに本腰

東京・南青山「骨董通り」に面したオフィス。木の香りが残るフローリングの共有スペースには筋トレマシンやエアロバイクもある。マシンにまたがってフィットネスしながら、コードを書くエンジニアもいるという。

置かれたデスクやソファのデザインがまちまちなのは、このオフィスが複数のスタートアップが集結した事業体で、それぞれ元のオフィスにあった家具などをそのまま持ち込んだからだ。

それぞれがSyn.ホールディングスの傘下で、オープンインターネット領域を先導するさまざまな技術やビジネスを展開している。

グループ全体の経営方針を策定するのが、2014年10月に設立されたSyn.ホールディングス。KDDIが、オープンインターネット領域における新たな戦略「Syn.(シンドット)」構想を打ち出したのと同時期に設立され、KDDIのオープン領域における事業拡大を推進する役割を担っている。

Syn.ホールディングスは2015年9月、スマホ領域で独自のサービスと技術を展開するスタートアップのM&Aにも乗り出した。

一つが、スマホアプリ向け動画広告配信の独自技術を持つアップベイダー。もう一つが、ECサイトなどの訪問者に自動で接客を行うスマートフォン向け接客プラットフォーム「Flipdesk」を開発・運営するSocketだ。

さらに、11月にはすでにSyn.ホールディングス傘下にあったスケールアウト、nanapi、ビットセラーの3社を統合して、Supershipという会社を新たに設立した。

統合やM&Aの対象となった5社(現在は、Syn.ホールディングスの下にアップベイダー、Socket、Supershipの3社体制)は、それぞれ麻布十番、道玄坂、原宿などにオフィスを構えていたが、2015年1月以降順次、南青山オフィスに集結。個々の開発スタイルを維持しながらも、グループとしてシナジー効果を追求し始めた。

スマホで狭くなったインターネットを再度広げるシナジーを追求

こうした急ピッチなM&Aの背景を語るのは、元スケールアウトの創業メンバーで、現在はSupershipの取締役でCTO室・室長を務める山崎大輔氏だ。

Supership株式会社 取締役 CTO室 室長 山崎 大輔氏
大学卒業後、半導体メーカーを経てヤフージャパンに入社し、広告システム開発全般に携わる。2006年スケールアウトを設立し、DSPを主軸とした「ScaleoutAdPlatform」を提供。2013年medibaに買収され、KDDIグループ入り。

「インターネット利用がPCからスマートフォンへ移行するにあたって、便利なはずのインターネットがときに窮屈に感じられることがあります。スマホアプリはたくさんインストールするけれど、頻繁に使うアプリは限られている。また、リンクで繋がっていたPCインターネットと異なり、一つひとつのアプリが独立しているため、それぞれ小さな窓からパターン化したインターネットを見ている感じ。私たちはこうした現状を打破したいと考えました。

まさにSyn.構想もその一つですが、特定企業が特定の場所でユーザーを囲い込むのではなく、各サービスが緩やかに連携することで、互いのユーザーを相互に送り合える環境を創りたいと考えました。これによってユーザーも、インターネットサービスの本来の広がりを実感できるのではないでしょうか」

ただ、そのためにはアライアンス企業の充実と共に、KDDIグループとして複数のインターネットサービスやアドテクノロジーを融合し、そのシナジーを発揮する必要がある。それが、今回のM&Aやオフィス統合の背景だった。

例えば3社が統合してできた新会社Supershipは、アンサー、nanapiという有力なインターネットサービスブランドを持つと同時に、広告配信プラットフォームなども展開しており、アドテクノロジーにも強みを発揮する。

「とはいえ、アドプラットフォームとしてすべてのサービスメニューをカバーしているわけではありません。Google、Facebook、Yahoo!など世界のプレイヤーと肩を並べるには、まだまだラインナップを拡充する必要があります。

企業のマーケティング予算がテレビからデジタルへシフトする今、クライアントの立場に立てば、動画だったらこの会社、リスティング広告だったら別の会社と頼むような、投資分散は避けたいところでしょう。

我々がグループ一丸となることで、さまざまな課題をワンパッケージ・ワンストップで解決できるようになる。デジタルマーケティングに関する商材ラインナップを増やすためにも、今回の統合やM&Aは意義が大きいと思います」

グループのインフラと技術基盤を積極活用し、飛躍するスタートアップ

動画広告配信のアップベイダーはスマホアプリ向けでは一定のシェアを持っている。

配信システムだけでなく、スマホ利用中に動画広告を表示するプレイヤーソフトを独自に開発しているという実績もある。

アップベイダー株式会社 代表取締役CEO兼CTO 佐野 宏英氏
「2週間くらいの研修で『経験○年』の札を付けられて」SI業界に入り、転職して自社企画ウェブサービスの開発者・事業担当者に。2013年末にスマートフォン向け動画広告配信のアップベイダーを設立。一エンジニアとして好きな仕事はサーバーサイドのインフラチューニング。

「ただこれまでは企業規模も小さく、システム力という面では弱かったことは否めません。しかし今回、Syn.ホールディングスのグループに入ることで、とりわけSupeshipが持つ強力な技術基盤を利用することができるようになりました。テレビCMと連動したスマホ動画広告など、新しい試みも臆することなく提案できるようになります」
と、アップベイダー代表取締役CEO/CTOの佐野宏英氏は抱負を語る。

KDDIグループ入りが自社のインフラ技術の拡大を意味するという点は、Socketも同様だ。

同社が開発するのは、ECサイトなどが自社サイト内のコンテンツをコントロールしながら、ユーザーの行動に応じてWeb接客ができる「Flipdesk」。サイトを去ろうとする顧客に「カートに商品が残っていますよ」などとメッセージを送れる。

株式会社Socket 執行役員 CTO兼アートディレクター 生内 洋平氏
生家商売の自主流通米・園芸作品・反物仕立て・販売をはじめ、大学研究室との共同研究、自身の音楽活動・音楽レーベル運営・デザイン企業所属等を経て、各種大手企業・スタートアップ・自治体等の広報デザイン・システム開発業務に従事。 2012年11月にCEOの安藤氏とともに株式会社Socket創業。2014年9月にリリースしたスマホ接客プラットフォーム「Flipdesk」の企画開発全般に関わる。

「KDDI傘下に入ることで、インフラの規模が拡大しました。Supershipが持つアドテクも活用しながら安定的なサービスが展開できるようになります。自社サイト内だけでなく、他のサイトと連携した販促サービスなど、新しい施策の可能性も出てきました」と、CTO&アートディレクターの生内洋平氏は語る。

互いの良さを吸収するために、グループ内勉強会を開催

3つの会社はインターネットサービス・Webテクノロジーという点では共通するが、開発体制は異なる。

アップベイダーがわずか4人のエンジニアで配信システムと動画プレイヤーを開発するのに対して、3社合併で急に所帯が増えたSupershipはエンジニア40人体制。

同じネット広告という事業を展開しながらも、ユーザーとスポンサー、どちらに近いかで開発スタイルやスピードが違ってくる。

「月に何千億というアクセスを支障なくさばくアドテクのノウハウ」(Supership山崎氏)、「Web接客は新しいサービスなので、PDCAをいかに速く回すかが鍵。1日1機能を追加するようなスピード感覚が重要」(Socket生内氏)、「UI重視でユーザーが使いやすい動画プレイヤーを作る」(アップベイダー佐野氏)というように、技術の力点の置き方も微妙に異なる。

それぞれのアドバンテージを融合するためには、まずそれぞれの会社にどんなエンジニアがいて、どんな技術を得意としているのかを知らなければならない。

そこで彼らは今年の5月、グループ内エンジニア勉強会を開いて、お互いの技術資産を披露・共有した。グループ内に約60人いるエンジニアのうち40人が参加した。ライトニングトークで自己紹介をした後、ディスカッションを経て飲み会へ。

▲エンジニア交流会のときの集合写真

「お互いCTO同士やマネージャークラスでは面識があるものの、1人ひとりのメンバーはお互いを把握しきれていませんでしたから、有意義な勉強会でした。継続的に開催するための実行委員会もでき、次回のテーマを検討中です。各社の相互ノウハウを融合するためのフレームワーク作りが始まっています」(山崎氏)

テックカンパニーの未来

KDDIグループで、オープンインターネット領域の旗振り役を任じる3つの企業。共に目指すのは、テクノロジーによってビジネスを拡大させる技術主導の「テックカンパニー」だ。

ただ、単なる技術系スタートアップと異なるのは、バックにKDDIがいること。「KDDIには、しかるべき資本としかるべきシステム、しかるべきビジネスがあったので、安心してジョインした」と山崎氏も振り返る。

「我々がビジネスを拡大させるためにも、私たち自身が少ない時間でもパフォーマンスが出る仕組みを生み出さないといけません。結果的にそれは、エンジニアが長く働ける環境作りにもつながります。昨今のスタートアップ界隈は、ここを頑張れば未来の果実があるから、今は耐えろと永遠に言い続けるようなところがあります。けれど、それではテックカンパニーとは言いがたい」と山崎氏は指摘する。

「少ない時間でもパフォーマンスがでる仕組み」とは、しかし、言うは易しだ。

「やはり、できるエンジニアを採用し続けることが重要ですね。ダメなエンジニアがダメなシステムを作ってしまうと、ダメージが大きい。逆に優れたエンジニアが優れたシステムを開発すれば、それは何倍にもなってパフォーマンスの向上につながっていく」(山崎氏)

アドテク関連技術は、今こそブルーオーシャンだ

最後に今後の人材採用の話。それぞれのCTOに採用ニーズを聞いた。

「いますぐ必要なのは、スマホアプリのSDKを開発するエンジニア。この経験者は業界的にも希少価値。地味な仕事ですが、それを職人的にこなせる人がいれば」(アップベイダー佐野氏)

「エンジニアでありながら、デジタルマーケティングというビジネスもわかる人が理想。アドテク業界は一時人気でしたが、単に流行っているからという理由だけで入った人たちは、今は別の領域に流れている。だからこそ“逆張り”のチャンス。インターネットが続く限り、アドテクはなくならない。最先端のアドテクを究めたいというエンジニアにとっては、いまこそがブルーオーシャンです」(Supership山崎氏)

「伸び盛りのエンジニアが欲しい。一つの言語や技術に凝り固まらず、異種技術もサクッと吸収して、サービスのアイデアをどんどん出して、それを実装できる人。なかなかいませんけれどね(笑)」(Socket生内氏)

それぞれ人材像は異なるが、共通しているのはテクノロジーとサービスを融合できる人ということのようだ。

採用はこれまでと同様、個別企業で行うが、その会社には当面必要のない技術でも、他のグループ企業では有用な技術ということがあるかもしれない。グループ内での相互紹介にも積極的に取り組むという。これもオフィス統合がもたらした利点の一つだろう。

(執筆:広重隆樹 撮影:設楽政浩)

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