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慰安婦合意 日本は韓国が関係改善せざるを得ない時まで辛抱

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 昨年末の「慰安婦問題」解決のための日韓合意が実現に向けて動き出したかのように見える。日本政府が10億円を拠出する元慰安婦の支援財団は、今年6月末の設立を目指している。しかし同時に、看過できない動きがある。

 去る4月26日、韓国の朴槿恵大統領は、韓国メディアとの懇談会でソウルの日本大使館前に設置された少女像の撤去について「(日韓)合意で言及もまったくされなかった問題」と発言したのだ。「合意事項の一つ」とする日本側と真っ向対立する朴発言の裏には何があるのか。前在韓国特命全権大使の武藤正敏氏が読み解く。

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 慰安婦問題において、これまで譲歩するばかりだった日本だが、今回の合意では安易な譲歩は見せなかった。昨年は日韓国交正常化50周年の記念の年であり、この機を逃せば、韓国は合意をまとめる口実を失う。加藤達也・産経新聞前ソウル支局長への無罪判決も関係改善のシグナルであったと言えよう。日本は、韓国が関係改善に向けて動かざるを得ない時点までよく辛抱したといえる。

 こうした先例をつくった意義は大きい。今後の最大の関心事は「合意」が正しく履行されるかどうかであるが、少なくとも朴大統領は、先頭に立ってこの問題に取り組んでいると私は見る。

「合意」が発表されたとき、元慰安婦支援施設「ナヌムの家」の元慰安婦が激しく抗議した際、朴大統領は「この合意は最善を尽くした結果である。これを無効と言えば、今後どの政府もこうした難しい問題には手をつけられないだろう」と反論した。これまで挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)など元慰安婦の立場を“代弁”してきた組織からの抗議に対し、まったく言いなりであった韓国政府首脳としては異例の発言である。

 こうした発言や、韓国政府自ら財団をつくり元慰安婦を支援するといった合意内容からも、韓国側の本気度が窺える。

 実は、韓国国民も「合意」を受け入れ始めている。5月半ばに発表された読売新聞と韓国日報社の合同世論調査では、日韓関係が悪いと答えたのは日本が66%、韓国が82%だった。1年前に比べて日本19ポイント、韓国7ポイント改善している。また、「日韓合意」については、韓国で「評価しない」と答えたのは73%だった。「日韓関係が悪い」と答えた82%と比べると、9ポイントも少ない。「納得はできないけれど、しょうがない」という雰囲気が表れていると私は見る。

 慰安婦問題の解決へ向けた動きを軌道に乗せたいのが朴大統領の本音だろう。それには、韓国政府がつくる財団にできるだけ多くの元慰安婦に参加してもらう必要がある。しかし、ひとたび「少女像を撤去する」と表明してしまえば、合意全体への反対が燃え盛ることは必定で、財団自体が有名無実になる。まずは元慰安婦に財団からの支援金を受け取ってもらい、「この問題は解決した」という雰囲気を醸成させ、その上で少女像の問題に取り組むつもりではないか。つまり、「少女像」は解決への入口ではなく、出口なのだ。

 朴大統領の“掌返し”発言は、こうした状況下で国内を説得するためだったと考えることができる。今回の朴大統領の発言を日本側が受け入れるわけにはいかないが、それでも直情的に反応するのではなく、冷静な視点を持ちたい。

 日本が騒げば騒ぐほど、少女像の“価値”が上がることを肝に銘じなければならない。日本の一部の国会議員は少女像が撤去されなければ10億円を支払うべきではないと主張しているが、それも避けるべきだ。

 日本が10億円を拠出しなければ、間違いなく合意は破綻する。そうなって喜ぶのは誰か。

 韓国国内で「合意反対」を叫び続ける「挺対協」である。日韓合意により、挺対協はその存在意義まで問われかねない立場に追い込まれた。かりに挺対協が政権と対立して合意を潰せば、韓国国内からも批判が起きるかもしれない。そんな苦しい状況で日本側がこれを潰してくれれば、まさに渡りに船だ。日本側の不誠実さを言い触らし、各地に少女像を設置して歩くことだろう。

 私はこれまで「日韓合意」について、韓国内で批判は度々されるだろうが、それに対して日本の政治、メディアが冷静でいられるかどうかが重要だと述べてきた。関係改善は緒に就いたばかりだ。いまこそ私たちは状況を俯瞰し、総合的で客観的な視座を持つべきだろう。

※SAPIO2016年7月号

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