東京農工大「農学部のオリジナル焼酎」と「工学部のメロンパン」【学食巡礼】
学食巡礼 第4回:東京農工大の学食、どちらを食すか
東京農工大学は農学部が府中市、工学部が小金井市にある国立大学である。
もともとは東京農林専門学校と東京繊維専門学校という二つの学校であったのだが、1949年(昭和24年)に統合されたのである。
そのような経緯もあって農学部と工学部のキャンパスが別れているので、学食もそれぞれに設けられている。学食巡礼者としては悩ましいところである。
こちらは農学部キャンパス。驚くほど広大な敷地には講堂や研究棟、温室や耕地・農地・牧場が収まっている。お馬さんもいる。
直売所「農工夢市場」は花盛り
南門を入ってすぐにあるのが農産物直売所「農工夢市場」である。
野菜や加工品などすべての販売品は実習の産物だ。
見給え、このフレッシュな野菜の数々。
もちろん季節によって種類は変わるのだが、野菜が多く採れる夏は開店前からものすごい行列ができるという。この日も近所の人たちがつめかけており、入場規制がかかっていた。
里芋やサニーレタスなどの季節の野菜が多く並んでいたが、ひとつ紹介しておきたいのはのらぼう菜(150円)である。主に東京都西部で多く栽培されるアブラナ科の葉野菜で、すこしエグみのあるところが春らしい。
こんなでっかい大根も150円という値段で買えるのが人気の秘密である。葉っぱ付きである。
野菜だけではなく、加工品も見どころだ。
大学で加工した味噌、ジャム、そしてカ◯◯◯
味噌は2種類。エンレイ大豆の田舎味噌と津久井農場で取れた大豆の味噌。後者は大豆に甘みがあるとのこと。大豆の生産も味噌への加工も大学内でやっている。
お客さんに聞いたところ、友人や親戚に分けてあげると「どこで買ったの?」とたいへん評判が良いらしい。
キウイフルーツは果物(150円)も売っているが、それを加工したジャム(400円)もある。
意外に売れていたのが乳酸菌飲料(400円)。もちろん大学で採れた牛乳を大学で加工したオリジナル品。水で薄めて飲む、例の飲み物である。2本購入した老婦人は「市販のものよりも甘くておいしいのよ」と自慢気に話していた。
農工大オリジナル焼酎に大久保利通卿の威光あり
ほとんどの商品は生産も加工も学内で行なっているのだが、一部例外がある。焼酎と乾麺については原材料は大学で、加工は提携工場で、となっている。
米、麦、芋と3種類ある農工大の焼酎「賞典禄」は卒業生に人気で、会報が届くタイミングで注文が来るらしい。そして地元のそば店も大量に買っていくという。この日もすでに3本は売れている。
「賞典禄」の銘柄は、大久保利通が明治維新の功労により下賜された手当「賞典禄」を駒場農学校に寄付したことに由来する。駒場農学校は、現在の東大、筑波大、農工大の農学部の元となった学校である。
木陰にて寄り道アイスの母娘連れ
農工大オリジナルのアイス(160円)もおいしい。一番人気はミルクだそうである。フレーバーはミルクに抹茶に紅茶、あとここにはないがモカの4種。
女子高生とお母さんの二人連れが、アイスを仲良く食べていたりするステキな光景もある。この日たまたま来たらしいのだけど「おいしいです!」と満足そうである。
思わずひとつ、直売所近くのベンチでさっそくいただくことにした。コク深い牛乳のうまみがしっかりとありながらさわやかにキレる、これはいいアイスである。
きれいな花が咲く、鉢植えもあります。季節のうつり変わりを感じますね。
また、農工夢市場で最も人気がありリピーターも多いのは秋のマコモタケ。このキャンパスで収穫されるイネ科の野菜である。珍しいということもあるが、まずおいしいのである。
ブルーベリーもキャンパスで120種類ほど栽培しており、5~6月がシーズン。生のままでも販売されるがジャムに加工もしているという。
火曜日の13~14時、木曜日の12~13時が営業時間で、木曜日は学生さんも店頭に立つ。販売、生産、加工だけでなく流通を学ぶ機会となっているのだ。あと、昼休みにアイスを買いにくる学生さんも多いらしい。
工学部「エリプス食堂」はお洒落なカフェ
さて、こちらは小金井の工学部キャンパス。農学部から自転車でがんばって走って20分くらいである。
ここには学食がふたつある。
取材するのは業者さんが運営している工学部学食「エリプス食堂」のほう。
東京農工大学140周年記念会館エリプスの中にある、おしゃれなカフェ風の学食である。昼休み中の学生たちにリサーチしたところ、メロンパンと味噌ラーメンは食べたほうがいいとのこと。
3年生の学生さんも「農学部の友達もここに来たらメロンパンを買っていくって言ってます」と教えてくれた。
とにもかくにもメロンパンがすごいらしい。
そして、なによりも気になったのは農工バーガー。
いまどきこれだけちゃんとしたハンバーガーが250円というのが学食らしい事実である。
▲農工バーガー(250円)、メロンパン(100円)、アイスコーヒー(150円)
まずは農工バーガーをいただく。
チキンフリッターがジューシーかつクリスピー。トマトとアボカドのウワモノが新鮮でさわやか。そしてバンズそのものがやわらかくてうまい。マジうまい。数量限定なのが残念なくらい見事なハンバーガーである。
そして待望のメロンパン。誰もが薦めてくるメロンパン。近所の人もあちこち配るために5、6個まとめ買いしていくというメロンパン。
これが半分に割った断面。
これが割ってる最中。とにかく中身がすごくやわらかい。そして外側がさくさくしている。さくさくシェルの中がふわっふわ。しっかり発酵しているのがわかる。変わり種メロンパンではなく、王道を行くメロンパンでまっすぐにおいしい。これは人気があるのも納得である。
このクオリティで100円というのも驚きである。
それもそのはず。この学食は自前のオーブンを持っていて、パンはすべて自家製なのである。開店前からどんどんパンを焼いており、営業中はほとんどフル回転なのである。
充実のラインナップ。
カウンターの上に堂々と並べられていたカレーパン(130円)のうまそうなこと。学食離れしたパン屋さんの実力なのである。
農工味噌ラーメンの濃厚な味わい
さて、学生にレコメンドされた農工味噌ラーメン(360円)にもチャレンジ。
しゃれた器がイカしている。
野菜が多いので女性にも人気があるという。厨房で働く高橋さんのお話によると、スープと油のバランスにこだわっているとのこと。豆板醤の辛さににんにく油の風味、濃厚な味噌のうまさ。麺も学食にありがちな早ゆで麺とは違い、ちゃんとした生麺のようである。
濃厚な味噌の味。そう。
農工と濃厚をかけている。てっきり「農工味噌ラーメン」だと思っていたら正式には「濃厚」だったのだ。だって併記してある英語では大学名表記ではないか。
いろいろお教えて頂いた高橋さんからこの話を聞いた時には爆笑してしまった。がんばりすぎである。
高橋さん、大いに語る
そんな高橋さんからはほかにも興味深いお話をたくさん聞くことができた。
バターチキンカレー(400円)もまた人気メニューとのことだが、これはスパイスも自前で調合した完全オリジナルだという。パンもバターチキンカレーもオリジナルレシピで自作している学食なんて浅学ながら聞いたことがない。
そして唐揚げにも力を入れて販売している。なにしろのぼり旗まで掲げている。世の中に唐揚げが嫌いな人はほとんどいないと思うのだが、それにしても作り置きしないで揚げたてを提供し、ソースは5種類も用意しているという熱意はすごい。行列も絶えないという。
また、ご飯の大盛りはいわゆる「昔ばなし盛り」。茶碗をふたつ合わせた感じで、山盛りのてんこ盛りになるという。大柄な男性、そしてたまに女性も注文するとのこと。
いま販売を休止しているのだが特徴的なメニューにSランチがある。SはステーキのS。ランチは昼食のランチ。ステーキランチだ。
150g以上かな、1センチくらいの厚さの肉を、ファミレスみたいに焼いた鉄板で出すんです(高橋さん)
ジュージューと音を立てる鉄板を学生がテーブルまで持っていく道中で歓声が上がるのだそうだ。この学食で最も高価なメニュー。普通盛りで660円となる。安い。
農工大の学生は、マイペースとのこと。
この学食は友人と話もできてコンセントもあるので、試験期間は図書館代わりに勉強していく学生が多いらしい。携帯電話を充電する学生もいるらしく、それは長居しそうな話である。
しかし、とくに混雑対策はとらず、学生の良識に任せているそうだ。それに、隣には生協がやっているもうひとつの学食がある。お昼時の混雑はふたつの学食で割り振り合うこともできる。
そのかわり、席に座れない人のためにお弁当も売っている。
唐揚げ丼やカツ丼、焼きそばセットなどわりと選び甲斐のあるラインナップであり、教室やベンチなどで食べてもらえるようにという気遣いである。
釜玉うどん大盛りダブル禁止令
学生さんは10円20円の差は大きいので値上げしたくてもできないらしい。
レジ会計の際、財布に10円足りないがために「ちょっと待ってください」と友達に借りたりすることもある。消費税が上がっても小麦粉の価格が上がってもメロンパンが100円のままなのはそういう事情がある。
この学食で最も安いのは釜玉うどん(250円)なのだが、大盛り券は50円である。
かつて大盛をダブルで、という注文が多発したことがあり、さすがに赤字なのでそれは中止にしたそうだ。大盛りダブルで総うどん量は二杯分になってしまうのだ。学食らしい切ないエピソードである。
ふたつの学食
農工大の工学部キャンパスにはふたつの学食が並んでいる。エリプス食堂と生協の学食である。
エリプス食堂の取材が終わってから、生協の学食にいた物理システム工学科の2年生女子たちに話を聞いた。
ふたつある学食の中で、生協のほうで食べている理由はなにか。
彼女たちは3つのポイントを挙げた。
まず「席数」。そして「安い」。さらに「味の自由度」ということであった。
「向こうはたしかにカフェっぽくておしゃれでおいしいけど……」
生協の学食は大ホールがふたつあり、しかも2フロア使える。空いてる座席を見つけやすいのである。
そして、同じ満腹度で考えると生協学食のほうがお値段がちょっとずつ安いのだそうだ。
さらにメニューの品数も多くあり、ちょっとした小鉢を追加することで「味の自由度」が増える。
ついでに言うと、2階に購買があるので教科書やお菓子も買えるから便利ということであった。
さいごに
東京農工大は農学部と工学部で気風や環境が大きく異なる。ふたつの顔を持ち、歴史の古い国立大学である。
農学部の直売所と工学部のカフェスタイル学食。この二面から紹介することで「農工大らしさ」が伝えられているといいのだが、我ながらなんかもう十分に伝わったことと思う。
メロンパンはあまりにおいしかったので、お土産にもう一個買って帰った。あのふわふわさくさくに完全にやられた。
次に行く学食はあなたの母校かもしれない。
そこが女子大であることを私は願っている。
※ 金額はすべて消費税込です。
お店情報
東京農工大エリプス食堂
住所:東京都小金井市中2-24-16 東京農工大学140周年記念会館内
電話番号:042-388-8022
営業時間:月曜日〜金曜日/食堂11:30-13:30 カフェ11:00-17:00
定休日:土曜日、日曜日、祭日
ウェブサイト:食堂 « 東京農工大学140周年記念会館エリプスホームページ
書いた人:
鷲谷憲樹
ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。25年くらい前に学生バイトの仕事で農工大の講堂の椅子や机を床にボルト留めしたことがあります。 Twitter:@nwashy
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