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伊藤直也氏がCTO就任、舘野祐一氏が技術顧問に──『一休』の開発体制はどう変わる?

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エンジニアの開発力向上に本格的に取り組むために

2012年にグリーを退職した後、フリーランスのエンジニアとして複数のWebスタートアップ企業の技術顧問に就任し、各企業の開発組織をテコ入れしてきた伊藤直也氏。

その活躍は常にWeb業界の話題だが、2016年4月には、これまで技術顧問として関わってきた、株式会社一休の執行役員CTOに就任することが発表された。これに伴い、Kaizen Platform Inc.とハウテレビジョン以外の技術顧問契約は継続せず、当面は一休CTOが「本業」ということになる。

はてな、グリー、さらにフリーランス時代を通じ一貫してWeb業界のエンジニア組織はどうあるべきか、理想のエンジニア集団を率いるマネージャーにはどのような資質、どのような論理と発想が必要なのかを鋭く提起してきた直也氏。はたして一休では何をしようとしているのか。

▲株式会社 一休 執行役員CTO システム本部長 伊藤 直也氏

「一休にはこの2年間、技術顧問として毎週顔を出していました。以前からCTO就任の打診は受けていたんですが、2015年12月の組織改編を機会に、執行役員制度やCTO職も新たに設けることになったことで、再度オファーを受けました。これだけ言ってもらえると断り切れないですものね(笑)」

一休はWebサービス企業ではあるが、その事業の骨格はホテル、レストランに営業して予約・送客業務を代行するというもので、いわゆるITベンダーではない。しかしこういう企業こそ、サービスとWebの世界をつなぐ役割が、技術職出身の役員には強く求められるのだ。

もともとどんな業態の会社であれ、エンジニアなど技術職出身の人が企業のマネジメントやボードメンバーに参加すべきだというのは、直也氏の持論でもあった。

「技術職出身のマネジメント人事が弱い企業ではエンジニアの位置づけが曖昧なまま執行が行われるということがままあります。エンジニアの成長を前提とした人事評価制度がなかったり、ビジネス課題とエンジニアの間に垣根があったりする。
エンジニアが働きやすい環境を作るためには、全社的な制度改善が必要だと思っていましたが、技術顧問としてはそこまで言い出す権限はありませんから、誰かがやるべきだとは思っていました」

ほかに誰がいるというのだろう。強く要請されたから仕方なくではもちろんなく、直也氏は日頃考え続けていた課題を実現する場として、あらためて一休を選んだのだ。

一休には、まだやるべきことはたくさんある

一休は今年で創業16年目を迎える。Webの世界では老舗ともいわれる。事業も成熟期・安定期に入ったと思われがちだが、実は「まだまだやることがたくさん、むしろこれから」という。

「ホテル予約事業は、海外OTAの参入もあり群雄割拠。デジタルマーケティングの隆盛もあって、システム開発はより活発になってきている。一休はラグジュアリーと呼ばれる高級ホテルや旅館に特化して、そこを強みにしていますが、手は抜けない。インバウンド需要にきちんと対応していくなど新たな課題もあります」

さらに、10年前から手掛けてきたレストラン予約事業も急成長している。

「一休はレストラン予約のオンライン・トランザクション数は国内トップクラス。この業界を牽引する役割も求められています」

こうした企業の中でCTOとしてやるべきことは、2年にわたる技術顧問時代に見えてきた課題の解決ということになる。

「一休は、もともと創業者の森正文さんのポリシーもあって、ボトムアップでワイワイとした雰囲気で伸びてきた会社。社員を細かく管理するより、好きにやれと。言い替えれば“ノー・マネジメント”の会社だったんですね。反面、トップダウンによる意志決定を浸透させるベクトルが弱かった」

技術の共通基盤をどのように構築するのか、技術標準化や技術投資を誰が決定するかということが戦略的にできていなかった。

「顧問のときはデプロイやテスト自動化とか、情報共有のためにSlackを導入するという環境面の改善を重点的にやっていました。それも最初は戸惑う人も多かった。全員が成功体験のイメージをつかむまでにはちょっと時間がかかりました」

社内には業務改善に積極的に取り組みたいと、直也さんに相談をもちかけるメンバーもいた。

「いろいろ改善も進めたんですけど、顧問のときはなんだかんだいっても関わりは限定的ですから、本当に解決すべき問題を炙り出せていたかというとちょっと自信がないところもあった。“芯を食っていない”感じというか。ただ、これからは僕がCTOとして本格的に取り組むことで、僕の責任も含めて、ちゃんとできるようになるんじゃないかと思っています」

技術かサービスかではなく、両方やる

Web企業のエンジニア組織を作り、エンジニアのモチベーションを高めるために重要なのは、必ずしも「技術的に尖っていること」ではないと直也氏は言う。

「優れたサービスのホテル、旅館、レストランをユーザーに紹介し、ホテルなどにきちんとお客様を送るというのは、社会的に求められる重要なミッションです。僕ら自身も一休を利用してよくホテルや旅館に泊まりにいきます。そういう社会に求められる事業をWebサービスのカタチで実現していることに、まずエンジニアは誇りを持ってほしい。そしてあくまでもこの”サービス”をよりよいものにするのが、エンジニアにとって最優先のミッションなんです。技術が最優先事項になってしまってはいけない」

ただ、放っておくと、急いでサービスを実現するために、エンジニアが技術的に妥協してしまうということが起こりうる。

「技術かサービスかではなく、両方。継続的なサービス提供のためにも、安易な技術的妥協をしないこと。技術で妥協し始めると中長期的にはサービスの質も落ちてきます。『技術的に妥協せず頑張っていいことあるんですか』という問いには、そういうエンジニアをきちんと評価しますというのが、CTOとしての僕の答えになります」

エンジニアが目指すべきロールモデルの設定は、ある意味、トップダウンでやるしかない。

「新しい価値観を伝播させるってことですから、メッセージ発信ひとつとってもパワーが必要です。これまでのボトムアップ組織のいいところを消さずに、いかに納得感のある方向性の組織を作り上げるかが、当面の僕の課題です」

レガシーシステム問題とどう取り組むか

現在、一休のエンジニアは約40名。宿泊事業部とレストラン事業部のそれぞれにシステム部門があり、社内横断組織として技術基盤やインフラを担うシステム本部がある。各事業部のエンジニアにはそれぞれの事業責任者とCTOにダブルでレポートする義務がある。

一方、企画専任の部門というものが存在せず、エンジニアもまたビジネス企画をカバーするようになっているのも一休のエンジニア組織の特徴だ。営業とエンジニアが直接話をして、顧客の課題解決に取り組む。こうした組織の仕組みを意識的に整理しながら、直也さんはエンジニアに接するようになった。

「僕の考えを伝え、メンバーの意見を聞くために、CTO就任後すぐに社内の全エンジニアとの1対1の面談を始めました。これはよかった。それぞれが、一休という会社の何をよしとしているのか、何を変えてほしいと思っているのかが、すごくよく伝わってきました」

16年にわたってWebサービスを提供してきた会社だけに、古い技術がまだ残っていたり、それを最新技術を使ってリファクタリングするには相応の負担が必要になることもある。いわゆる「レガシーシステムをどうするか問題」だ。

「ビジネスで勝ち残ってきた企業はいずれもそうしたレガシーを抱えてるもんなんです。一休もまた例外ではない。CTOになった以上、これにもきちんと手をつけていきたい。レガシーな基盤をどういう形で変えていくか、およその道筋は見えてきました。漸進的な進化は始まっています」と自信を見せる。

ここで最近の風潮について一言。

「新し物好きのエンジニアは、レガシーコードが嫌い。それはわかる。見たくない、というのもわかります。しかし、長くやっていれば負債は少なからずできていくもの。そういう負債ときちんと向き合い、目を背けずどうやって改善していくかを考える・・・こういうことはこれから益々重要になっていくと思うんです。少なくとも、僕はそういう決意をもってCTOを引き受けました」

覚悟の決め方が、相変わらず直也氏らしい。

43インチ4Kモニター、OKです

技術的にはこれまで遅れがちだったスマートフォン向けシステムの開発も強化したいという。開発者の環境作りでも、最近は「43インチの4Kモニターが欲しいんですけれど…」という類の要望を積極的に裁可している。プログラマーにはたして4Kモニターが必要かという議論はあるにしても、「それで生産性が上がるのだったら、いいんじゃないですか」。

技術顧問時代から、社内の技術勉強会を積極的に開催してきた。最近も、スマホアプリ開発、モダンJavaScript、DDD(Domain-Driven Design)など最新技術の社内普及を仕掛ける。

CTO就任後、社内に次々とメッセージを発するようになった。例えば、「技術の将来は誰にもわからない。そうした不確実性を乗り越えるためには、人材と技術の多様化によって一人ひとりのカバレッジを広げるしかない」。

どういう職場が理想的か。安心して働けるという社員の「心理的安全性」と、「責任意識」のマトリクス図を見ながら、「心理的安全性が高く、一人ひとりが責任が重い組織こそが理想」と結論付けた。「一人ひとりが絶えず学習を続けながら、そうした組織を目指そう」──CTOのメッセージには迷いがない。

「こうした課題を言語化できるようになったのも、この数年にわたって複数の技術顧問を続けていたからだと思います。その経験を一休CTOとしてこれから最大限に発揮していこうと思います」

CTOとしては採用戦略立案も重要な任務になるが、最近、ちょっと驚くニュースが入ってきた。はてな時代の元同僚で、クックパッドでCTOを務めた舘野祐一氏。クックパッド退社後の去就が注目されていたが、このほど直也さんの後任として一休の技術顧問に就任することが決まったという。

伊藤直也と舘野祐一。二人の“レジェンド”がコミットすることで、一休はどう変わるのか。今後のサービス展開とエンジニアたちの行動に目が離せなくなった。

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(執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康)

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