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幻覚が消えた!音楽療法で判明した認知症高齢者の悲しい記憶

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皆様、こんにちは!6月に入り、暖かい日が増えてきましたが如何お過ごしですか?
今日は、BPSDと音楽療法の効果に関してお話をさせていただきたいと思います。

認知症の症状の種類は大きく分けて2つ

認知症は、中核症状と周辺症状(BPSD)の2つの症状に分類することができます。中核症状は、脳の機能低下により起こります。それに対し周辺症状は、生活や環境、周囲の人との関わり、思考や気分の変化などが原因で起きます。

行動や心理状態における症状のため、人それぞれ現れ方が違い、個人差が非常に大きいのが特徴です。そのため、ケアの方法も認知症の方ひとりひとりで変わってきます。

BPSDってどんな症状をさすの?

BPSDとは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの頭文字を取ったもので、行動・心理症状とも略されます。物盗られ妄想や徘徊、幻覚や錯覚、幻視、不眠、昼夜逆転、睡眠障害、異食、弄便、暴力や暴言、うつに抑鬱、介護拒否など、数え切れないぐらいの種類があります。

ちなみに、レビー小体型認知症でみられる幻視やレム睡眠、行動障害は、BPSDと言われつつも、レビー小体型の病理学的基礎による失われた機能に関する症状という考え方もあり、中核症状と捉えるべきという考え方もあるそうです。

認知症ケアで困ってしまう要因はBPSD

介護者の負担は、BPSDが原因と言われています。余談になりますが、私の祖母は記憶力がかなり低下していますが、BPSDと思われる症状が非常に少ないので、在宅でもケアがしやすいのかな…と感じています。

「これをすれば絶対にBPSDが無くなる!」という治療法はありません。そこで、薬物療法やリハビリ療法(非薬物療法)で、それぞれの症状に合わせて対応することが、BPSDを軽減する近道だと考えられます。

戦争体験のあるA氏(90代・男性)の場合

A氏は、脳梗塞が原因で脳血管性認知症を患われ、脳血管性の特徴であるまだら認知症の症状が顕著に出る方でした。落ち着いているときは、カラオケやTV、CDなどで音楽を楽しまれたり、ぬいぐるみを可愛がられていたり、車椅子で移動されていたり、スタッフや他利用者の方と笑顔で会話されていました。

突然入ってしまうスイッチで攻撃的になってしまうA氏

楽しい時間もつかの間、突然スイッチが入ります。窓の外の電線やアンテナを見て、ものすごい剣幕で怒り、攻撃的になります。

「アメリカ兵が来る!」
「あの飛行機は、ロシア軍だ!米軍だ!」
「やっつけなければ、やられるぞ!!」

そこら辺にある杖や食器、時にはTVまで投げようとします。その際に、他者を攻撃することはないのですが、自分の行動を止めようとする人は敵とみなしてしまうのです。

A氏のいきなりの大声で、他の利用者も不安になられます。食事も摂れなければ、薬も飲めず、横になって休むこともできません。失禁をしていても、トイレに行くことができないため、着替えることもできず。

まだら認知症のため、あとで自分の行動を覚えていることもあり、「迷惑を掛けてしまった」と落ち込むこともあります。朝起きたときから不機嫌な様子だと、戦争をフラッシュバックすることが多い印象でした。ですが、戦争を思い出し、幻覚を見られるきっかけは、なかなかつかめません。

また、不穏の時用にと処方されているお薬があるのですが、落ち着いていない方に飲んでいただくことなんて、不可能に近いです。そのため、落ち着くまで待つしか方法はありませんでした。

幻覚が消えた!音楽療法で知ったA氏の過去

音楽療法の時間で、星影のワルツや大阪しぐれなど、A氏の好みに合わせた曲を演奏しながら、いつものように個人セッションを実施していると、別の方が船頭小唄という曲のメロディーに、自作の歌詞を付けられながらやってきました。何の気なしに、私は船頭小唄を弾きながら歌いはじめました。すると突然、A氏が泣き出したのです。

――――えっ?何か思い出がある曲なのかしら?―――

そう思った私は、その後のセッションで、様子を見ながら船頭小唄を演奏してみることにしました。2回目、3回目もやはり涙を流されながら歌っています。そして、戦友や上官のことなど、自身の戦争体験をおもむろに語り始めたのです。

A氏は、新聞やTVなどをきっかけに戦争体験を話してくれていたのですが、いつも、「自分は逃げ足が速かったんだ」「よく上官にたたかれていた」といった内容のものでした。しかし、船頭小唄を演奏した際の回想では、「戦地で、仲間や上官を見捨ててしまった」という内容でした。

私は、どうしていいか迷いつつ、お話をお伺いしていました。時には、共感し、慰め、傾聴し…。自責の念、後悔の念が強い方は、泣きながら回想されることが比較的多いように思います。

涙を流しながらも、しっかりとした声で最後まで歌いきったA氏は、その日を境に戦争に基づく幻覚を見なくなったのです。寝起きで不機嫌な様子、どこか気持ちが落ち着いていない様子はあるものの、戦争体験のフラッシュバックはなくなりました。大きな声で怒鳴ることや攻撃的な行動も減少し、1ヶ月が過ぎる頃にはほとんどなくなりました。

幻覚が現れる理由、攻撃的な行動のワケとは?

戦友たちと楽しんだ歌、なかでも思い出深い船頭小唄は、A氏の無意識下にとどめてあった情動を発散するきっかけになりました。自責の念や後悔の念を吐き出したことで、「戦友や上官が死んだのは自分のせいだ」という自身の想いを受け止められたと考えられます。情動が幻覚という形で現れ、怒りや攻撃的な行動につながっていた状態から抜け出すことができたのです。

あとがき

今回は、たまたま思い出のある曲を知り心理的な表出ができたことで、BPSDを落ち着かせることができた一例です。心に染みる音楽は、心の中に残った苦しみを癒し、表に出てくる悲しみを軽減させる効果があります。さまざまなBPSDには、必ず根本に理由があります。その理由へ働きかけることがBPSDへのケアには必要だと考えます。

これからも音楽療法を通して、認知症高齢者の心に寄り添っていきたいと思っています。

この記事を書いた人

あきちゃん

大学、大学院と音楽療法について学んだ後、認知症対応型グループホームに勤務。認知症の方とのコミュニケーションの取り方や終末期について多くのことを学び、音楽が様々な記憶と結びついていること、気持ちを落ち着かせるために有効であることを実感。認知症介護実践者研修を修了。現在、介護老人保健施設で介護業務に携わりながら、音楽療法の効果をケアに結びつける具体的な手段を模索中。同居しているアルツハイマー型認知症の祖母(96歳)と出かけることが日課。

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