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新国立競技場の木製椅子は「1脚9万円」「維持費100億円」

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 5月31日、自民党の五輪・パラリンピック東京大会実施本部(橋本聖子・本部長)が新国立競技場の観客席に木製椅子を導入するよう政府に要請した。

 競技場をデザインした建築家・隈研吾氏が「杜のスタジアム」をコンセプトとしていることを踏まえ、〈観客が直接触れる箇所に木材を使用することで、「日本らしさ」をより強く感じさせるものになる〉(要望書)と唱えたのである。

 確かに「杜のスタジアム」なら木製の座席も悪くなさそうだ。だが、要望書では計画変更によって膨れあがるコストについては一言も触れていない。

 内閣官房・整備計画再検討推進室によると、「すべての観客席を木製に変えると予算は2~3倍になる」という。

 もともとの建設計画では観客席(6万8000席)はプラスチック製で、予算は20億円だった。変更すれば最大60億円、1脚あたり約9万円になる計算だ。さらに──。

「旧国立のプラスチック椅子は15年程度で交換していましたが、木製だと最短で2年ごとに再塗装、7年ごとに交換が必要になる。維持費は50年間で数百億円となる可能性がある」(同前)

 少なく見積もって100億円としても、維持だけで年間2億円かかるというのだ。また、「これほど膨大な木製椅子の発注実績は過去になく、調達に30か月以上かかる可能性がある」(同前)というから、2019年11月という竣工期限まで危うくしかねない。

 そもそも、新国立の建設計画が大幅に見直されたのは、当初のザハ・ハディド氏の案に3000億円超の建設費がかかることから批判が集まったことにある。それを受け、再コンペで決まった隈氏のプランでは、総工費は1490億円に圧縮された。そんな経緯があったにもかかわらず、今になって「椅子のために100億円」という話には唖然とさせられる。

 それにしても木製にするだけで、なぜそこまでコストが跳ね上がるのか。建築エコノミストの森山高至氏が解説する。

「ザハ案にあった開閉式屋根がなくなり、隈案では観客席の上に屋根はあるものの、雨風の影響を受ける。防腐処理のための塗装を施しても、数年に1度は塗り直しが必要になるし、プラスチックに比べて耐久性も低い。加えて、型に流し込むといった機械での大量生産もできません。木を使うには手間とコストが必要なのです」

 スタジアムの観客席に木製椅子を導入した例がないわけではない。Jリーグ・セレッソ大阪の本拠地「キンチョウスタジアム」(2万人収容)は今年4月、メインスタンド最上部280席分(上部には屋根がある)にヒノキ製の座席を導入した。

「1人分ずつ独立した座席ではなく、ベンチシートです。材料は地元・大阪の木材業者から仕入れました。加工・設置費を含めた費用は2000万円です」(施設運営部の多田弘美・部長)

 1席あたり7万円強。交換前のプラスチック製座席は約2万5000円だったというからコストは約3倍だ。

※週刊ポスト2016年6月24日号

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