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『トットてれび』で向田邦子演じるミムラ 壮絶役作りで憑依

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 ドラマを観ていて、役者の魅力に思わず引きこまれた経験は誰にでもあるはずだ。その背景を調べてみることも楽しみ方の一つ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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 ミムラって、いったい何者? 番組を見て、そう感じた人は私だけではないはず。

 NHKの土曜ドラマ『トットてれび』(土曜20:15)は、黒柳徹子の人生を軸に昭和の時代をイキイキと描き出している。黒柳の友人の向田邦子を演じたミムラさん。役者として「演じていた」のだけれど、その横顔はある瞬間、たしかに実在した向田邦子そのものに見えていた。

 そこに向田邦子が座っている。憑依している、乗り移っている。それくらい、実在のイメージと役者とが、ぴたり重なっていた。

 向田邦子はご存じ、『あ・うん』『阿修羅のごとく』『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』などを書いた人気脚本家で直木賞作家。突然の飛行機事故で命を落とした、その数奇な人生。亡くなった後もたくさんのファンを惹きつけ続けている。

 だから、向田邦子という人と直接知り合いではなくても、その人となり、雰囲気、言葉の感じ、質感、匂いのようなものを、多くの読者・視聴者は感じとってきたし共有してきた。

 そうした「誰もが知っている有名人」を演じることほど、難しいことはない。役者が勝手なイメージを作りあげてしまえば反発されるし、単に容姿や外見を真似ようとしても、その人そのものには見えてこない。人の気配、漂わす匂いや雰囲気は、なかなか醸し出せない。

 しかし、ミムラは違った。立ち上ってくる気配を実に見事に再現していた。

 演技の天才? ひらめき? 演じる技術の高さ?

 ドラマで主役・黒柳徹子を演じる満島ひかりならば、「成り切ってしまう天才役者」の一言で片付けていいだろう。実際、満島も黒柳徹子になりきっている。でも、ミムラって、満島ひかりとはまったくタイプの違う役者ではなかったでしょうか?

 今回ミムラが演じた向田邦子は、いったいどんな風に生まれてきたのか? その謎を探ってみたらやっぱり……役作りで、とんでもない努力を重ねていたのだ。

 向田邦子のファンでもあり猛烈な読書家でもあるというミムラは、向田邦子の手書き原稿を参照して、その文字のクセ、筆致を猛勉強して習得していった。練習で300枚を超える枚数を書きまくり、「文字の癖、間違えた時の修正の仕方、時代で変わっていく原稿の使い方などを把握していきました。撮影でもオリジナル原稿通りに書きます。基本的には一つも我流で変えていません。ここまでは役に入るためにも必要かな」(ミムラの公式サイト「MIMULALALA 」)

 しかも、役作りとしてとことん書く練習していくうちに、なんと向田邦子の字を見ると感情までがわかるようになったのだという。

「筆致を似せるには、スピードも同程度である必要があります。落ちるインクの量で線の細さが変わりますので、ゆっくりやるとそれだけの鈍臭い字になるのです。なので、文字を見てスピードも変える。そんな練習を繰り返していると、『あ、向田さんここは少し悩みながら書いたのだな』とか『ここはノリにノッて、思考を原稿に映すのが楽しくてたまらなかったんだな』と、どんな資料にも書かれてはいないであろう情報と共感が、原稿の文字と段落の流れから雨垂れのように少しずつ、ですが確実に私の脳と心に溜まっていきました」(同)

 向田邦子という実在の人にじっくり、しっかりと近づいていく。コツコツと役作りを重ねてきた、凄さ。

 実は、過去に一度、「おまえなしでは生きていけない ~猫を愛した芸術家の物語~」(NHKBS 2011年放送)の中で、ミムラは向田邦子役をやっている。今回は二度目の挑戦。あれから自分の中でさらに向田邦子像を膨らませ、磨きをかけてきたのだろう。地道な、そして迫力ある役作りの努力がいよいよ今回の『トットてれび』の中で輝きを放った。

 しかし、ミムラ自身の役者人生はこれまで順風満帆とは言えなかったようだ。自ら二年間の休業を選択し、離婚も経験。「離婚直後は体調を崩すほど苦しみましたが、陰のある役の依頼が増え、今は離婚の経験が糧になったと思えるようになった。再婚して精神状態も安定しました。この経験を舞台で生かしたい」(産経ニュース 2015.1.10 )。

 ちなみに、向田邦子と黒柳徹子が最初に会った時の会話は、「人生あざなえる縄のごとし」だったという。「人生は、幸せという縄と、不幸せという縄と2本でね、編んであるようなものなのよ」と、向田さんは黒柳さんに語ったとか。

 ミムラという役者の人生も、まさしく「あざなえる縄」のごとし。「不幸せの時間」に遭遇した時苦しみ抜き、人間について考え抜く。深い洞察力をもって。白い縄も黒い縄もしっかりと編み込んでいく人こそ、面白い役者になれる。

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