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あの時話題だった「50℃洗い」でホントに食べものがおいしくなるのか試してみた【理系メシ】

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「50℃洗い」とはなんだったのか

およそ3年前に「50℃洗い」という調理法がブームになった。

野菜でも肉でも何でも、50℃で洗うとおいしくなる!

へにゃへにゃの野菜もシャッキリポンだ!

当時、世の中の主婦が50℃の水で野菜を洗っていたのだ。しかし今やそれも廃れた様だ。一体何があったのか?

あくまでも科学的な視点で、50℃洗いとはなんだったのか、そして、

50℃洗いが廃れたわけが知りたい。

そういうわけで、ヘタレたほうれん草を用意してみた。

まずは4日間放置し、右のヘタレたほうれん草を50℃で洗うことにする。まず50℃のお湯を作る。熱湯をボウルに注ぎ、そこに水を加えながら、レーザー温度計で測る。

ちっ、48度か。お湯を足すと……53℃! あのね、黒ヤギさんたら読まずに食べたじゃないけども、いつまで経っても50℃にならないのね。

行ったり来たり、あなたの気持ちは振り子のようで、これじゃないのか? この50℃のお湯を作る面倒臭さに負けたんじゃないのか、忙しい主婦たちは。

とりあえず洗う。手を入れるとすんげえ熱い。

熱湯風呂でアピールか、おい。

50℃洗いの本によると、ほうれん草を洗うのは1〜2分。なので間を取って1分30秒、洗ってみる。よく考えたら、箸を使えばよかった。

お湯から出してみた。

右が50℃洗いを施したほうれん草だ……なんか、しおれていないか?

確か私の記憶では、50℃のお湯に10秒から20秒間浸し良く洗浄すると、しんなりした野菜も採りたてのようにシャキッとなり、色はよくなり生臭みも消え、より美味しく感じるようになる、だったような気がする。

……ヘンだな。

三つ葉はどうだ? 今度は三つ葉を50℃の湯に入れて洗ってみる。

熱い!

また箸を使うのを忘れた。1分半経過、どうだ?

上が50℃洗い。下がそのまま。何か違うかあ?……うーむ、何が違うの?

50℃洗いが有効な理由は、科学的には3つ考えられる。 野菜の細胞壁をくっつけているペクチン(粘性を出すため、お菓子によく使われる)は低温でも分解するため、弾力が高まった。 野菜に熱が加えられたために、HSP(ヒートショックプロテイン)が出て組織が強化された。 水分の蒸散を防ぐために閉じていた気孔が、熱によって開き、水分を吸収した。

ありそうな話である。HSPは人間にもある。以前、入浴剤で有名な株式会社バスクリンまで話を聞きに行き、だから湯治が効くのか、と納得したものだ。体温を上げるとHSPが細胞を修復してくれるからだ。

じゃあ、シソならどうか?

右が50℃洗いのシソなのだが、むしろ明らかにヘタってしまった。

あれ? ……50℃洗いそのものを疑う前に、まず自分を疑おう。

4日間も放置したことが、ほうれん草やシソには長すぎたのではないか? 蘇生するのにもリミットがあるのだ。死んじゃったらダメだ。

……死んじゃったらダメ? じゃあ肉だったらどうか?

すでに思いっきり死んでいるが、肉も50℃洗いでおいしくなるという。

本当なのだろうか?

鶏肉で試してみる

私は毎週日曜日に「科学実験酒場」という飲み屋イベントをやっている。そこでものは試しにと50℃洗いの肉を出してみた。アルバイトのコスプレアイドル、茉衣ちゃん(この記事の最初の写真右)に鶏肉を洗わせてプレミアをつけることも忘れずに。

焼く。

左が50℃洗いした鶏もも肉。

来ているお客さんにどっちが50℃洗いの肉か教えずに食べさせたら、「こっちが柔らかい!」「うまい! ジューシー!」と5人中5人が50℃洗いの肉に軍配。マジか。

しかし、だ。

洗うことで、肉の繊維の間に水が入り、それでジューシーになったとも考えられる。おいしい唐揚げのコツは漬け汁をひたすらもみ込むことだ。

実験とは対照である。

そこで50℃のお湯で洗った鶏肉と、常温で洗った鶏肉を用意した。

両方が常温になるのを待つ。

これがいつまで経ってもなりゃしない。結局2時間弱かかって、ようやく2つの肉の温度が揃った。野菜も同じだが、温度が冷えてから調理になる。

だから調理直前に洗えないのだ。

つまり、準備と調理で2回、台所を使うことになる……でも、それじゃダメなんじゃないの? お忙しい主婦にそんな手間は。

味の変化がわかるように、シンプルに酒蒸しにしてみた。これが断面。

見た目の差はない。食べてみる……どっちもおいしいではないか

まったく、料理が上手って罪だな。

50℃洗いに根拠がないとは言わない。あるにはあるのだろうとは思う。

しかし、たぶんその変化は微妙なのだ。枯れかけた野菜がシャンと立ち上げるなんて、そういう魔法ではなく、1日程度のしおれが半日程度のしおれになるぐらいなんだろう。

結局、50℃洗いは調理の仕方で左右される程度の変化で、だから廃れてしまった。もし劇的に変わるのなら、とっくに農家が野菜を50℃で洗っているはずだ。ニッポンの農家は、10円でも高く売るために、ほうれん草に顔写真まで貼り付けているのだ。そんな努力をする農家が、出荷前の水洗いを50℃洗いに変える手間を惜しむものか。

お湯を作ったり、洗ったり、何かと面倒なわりに劇的な味や食感の変化はない。手間のわりに魅力が薄いのだ。それに今はそこら中にスーパーがある。もはやスーパーが冷蔵庫代わりだ。新鮮な野菜が毎日買えますからね。

編注)50℃洗いのお湯は約48~52℃にしましょう。43℃以下で洗うと菌が繁殖するリスクがあり、食中毒の原因になります。50℃洗いをしたら必ずよく水をきり、よく乾かし、冷蔵庫で保存しましょう。


書いた人:

川口友万

サイエンスライター。科学情報サイト『サイエンスニュース』の編集統括。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。東京・武蔵小山で、毎週日曜日のみ、肉に電気を流して食べたり、ワインを超音波で振動させて飲むイベントバー『科学実験酒場』を主宰。 サイエンスニュース:サイエンスニュース 科学実験酒場:科学実験酒場 友の会 アシスタント高実のブログ:高実茉衣の♥こあく茉衣にゃん茉衣ペースブログ♥

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