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プログラミング教育から「起業志民」を生み出す──八幡平で始まる「ファースト・ペンギン」

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「スパルタキャンプ」の精神を引き継いで

起業家の家入一真氏(現・キメラ代表取締役)が2013年夏に沖縄で行った、参加費無料の初心者向けプログラミング集中講習会に「スパルタキャンプ(現:ELITES CAMP)」がある。

その講師、運営担当としてフル活動したのが、当時19歳の柏木祥太氏だ。

「独学でプログラムを覚えた私にとって、スパルタキャンプは初めて人に教える体験。毎日ぶっ通しでPHPのコードを書き、ときにはビーチで泳ぎ、夜はみんなで人生やキャリアを語ったり…。特訓の成果か、キャンプ生の中から起業したり、IT業界に転職する人がいたりして、あらためて教えることの醍醐味を知りました」

人に教え、人と一緒に学ぶ面白さは、熱病のように柏木氏をとらえた。その後、交通費は自腹覚悟で、各地でのスパルタキャンプ運営に関わった。

2014年8月に西新宿で企業したのが「NOWALL」(ノーウォール:「No Wall」と「Now All」のダブルミーニング)という会社。

システム受託開発やWebメディア開発もしているが、力を入れているのが、スパルタキャンプの精神を引き継いだ『ELITES CAMP(エリーツ・キャンプ)』や半年間にわたるプログラミングスクール『ELITES(エリーツ) 』などの教育事業だ。

「これからプログラミングは必須言語とも言われていて、関心を持つ人は多いのに、場所や時間の問題などでスタートを踏み切れない人も少なくない。通常の学校だけが教育の場じゃない。教育ってもっと自由なスタイルがあるべきだ、というのが私たちの基本的な考え方」

「ELITES CAMPは土日祝日を全部使って教えるので、平日の仕事への影響は少ない。内容は実践的で、エンジニアとして転職したいという人には、転職エージェントと提携した転職先の紹介も行っています」(柏木氏)

若者の流出を食い止めたい地方自治体のニーズと合致

ELITES CAMPは普段は都内で個人向けに行っている学習サービスだが、最近は法人向けや地域開催にカスタマイズした講習会を新しいメニューに取り入れた。

地方版の最初の試みが、岩手県八幡平市と組んだプロジェクトだ。2015年8月の1回目はRuby on rails、2回目は Swift、そして2016年の2月から3月にかけての5週連続で行われたシリーズは、HTML/CSS編、PHP編、Unity編という豪華3本立て。

「初心者向けに知識ゼロから教えますが、手を抜くことはありません。短期集中授業で、最終的にはIT/Web業界で仕事ができるレベルまで、強制的に成長してもらいます」(柏木氏)

それにしても、なぜ地方なのか、なぜ八幡平なのか。そこには若者人口の流出や少子化など、地方自治体の悩みがあった。

「八幡平市の人口は年々減少し、現在は最盛期の3分の1。このままいくと、2040年には1万6000人まで落ち込むとされています。市内に生まれた若者の3分の1が22歳ごろまでに市外に転出し、戻ってこないのが大きな要因ですが、それは地元の雇用と若者の就職との間に大きなミスマッチがあるため。情報通信産業に就きたい若者が多いのに、その受け皿が市内には少ない」と分析するのは、同市商工観光課の中軽米真人主任だ。

そこで中軽米氏らが2015年に立ち上げたのが、情報通信を中心とした起業を志す人を支援する、「起業志民プロジェクト」だ。

「ネット環境と技術力のある人材さえいれば、場所を問わずに仕事ができるのがIT産業の特徴。八幡平には高速インターネットが通っていてインフラ面では問題ない。地方には仕事がないとよく言われるけれど、不足しているのは仕事ではなく仕事を生み出せるプレーヤー。仕事がないなら、自分たちが仕事を創ればいい──そういう地域のプレーヤーたちを育て、ここで将来、起業・定住してくれる人々を増やすためにも、スパルタキャンプはよい機会だったのです」(中軽米氏)

(※編集註:NOWALLのELITES CAMPは東京にて開催しており、地方版プログラミングキャンプは「スパルタキャンプ」としてブランド展開している)

もともと中軽米氏と柏木氏の出会いは、共通の友人からの紹介だった。中軽米氏が友人に「岩手でもスパルタキャンプみたいなイベントをやりたい」という話をしたら、「スパルタキャンプに参加したことあるし、それ運営してる人紹介するよ」とトントン拍子に話が進み、数週間後には直接会って話をまとめたという。

中軽米氏は地方公務員にしては珍しい(というと語弊があるが)、起業家精神にあふれた人物。

「家業の農業資材販売会社などを大学在学中に起業したこともあったりして、いちおう公務員ではあるものの、考え方の基本は“商売人”。何より自分が自由で面白い生き方をしたいし、そういう志向性を持つ人が増えると世の中が面白くなるな、という気持ちが強かったんです」

その起業家精神が両者を結び付けた。だが、起業志民プロジェクトも企画段階では市役所内での動きは鈍かった。

第2次安倍内閣で地方創生のための交付金が予算化されると、中軽米氏は真っ先に手を挙げた。交付金があればリスクは少ない。スパルタキャンプが参加費無料であるのも、この原資があるからだ。

最初に断崖を飛び降りたペンギンたち

これまで東北有数の高原スキーリゾート安比高原のログハウスを会場にして開かれた「スパルタキャンプ with 起業志民プロジェクト」には延べ60名の参加があった。年齢層も17歳から60代までと幅広い。

なかには「自分が寝ていても利益を生み出せるようなシステムを作りたい」とプログラミングの夢を語る40代の人もいた。

わざわざ東京から参加した人もいる。冬の季節にはスキーを楽しんだりもしたが、基本的に途中離脱の許されない“虎の穴”でスキルを磨いた参加者の中からは、IT業界に転職したり、SwiftでiPhoneアプリを開発したりする人もちらほら現れている。

何よりの大きな成果は、NOWALLに就職したいという地元出身の若者が2名も登場したことだ。

「実は、八幡平市が近々シェアオフィスを開設予定なので、そこにNOWALLの初のローカルオフィスを開設することになりました。当社に来てくれた人も、しばらくは東京で研鑚を積んでもらって、いずれは八幡平に帰ることになります」

いつか、NOWALLが八幡平をITの町に変えるかもしれない。そのとき彼らは「ファースト・ペンギン」と呼ばれることになるだろう。

このスパルタキャンプは、今まさに6月開催Ruby on Rails編の参加者を募集中だ。

スパルタキャンプ【Ruby on Rails編】キャンプ概要

プログラミング教育を通して、地域にエンジニアの種を育て、IT産業の芽を育てること、それが地方創生の鍵を握る──その思いで両者は一致している。ファースト・ペンギンたちの連携が生み出す新しいトレンドは、八幡平だけでなく、他の地域にも広がりそうだ。

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