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声優 梶裕貴インタビュー後編「全身全霊で役と作品のことを考えられる役者でありたい」

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人生の多くの時間を費やす「仕事」において、自分の「好き」を見つけ、その「好き」を行動に起こしていくことで、人生をより豊かなものにできるのだと思います。

その好きを見つける応援をするため、アニメニュースや声優の旬な情報を毎日更新するニュースサイト「アニメイトタイムズ」と連動して、さまざまな「働くヒト」に光を当て、その過去から今、そして未来について伺い、働く楽しさ、働く意義をお届けしていきます。

その第5回目のゲストは、大人気アニメ『進撃の巨人』の主役であるエレン・イェーガー役や『ギルティクラウン』の桜満集役、そして2016年4月から放送予定のオリジナルアニメ『キズナイーバー』の主役・阿形勝平役を務める、声優の梶裕貴さんにお話を聞いていきます。

インタビューの前編(※)では梶さんのプロフェッショナルとして活躍するまでのお話を。後半では現在のお話に加え、マネージャー視点からの梶さんについてお話を伺いました。 ※前編はこちら>>声優 梶裕貴インタビュー前編「何に対して頑張っても全てが自分の力となる、それが声優」

 

『進撃の巨人』が声優人生に大きな変化を与える

━━仕事をやっていて、いままでで一番嬉しかったことはなんですか?

梶裕貴(以下、梶):初めてアニメのオーディションに合格した時は嬉しかったですね。その時は「これで人生を変えられる!」と思いました。

あとは、アニメ『進撃の巨人』のエレン・イェーガー役に出会えたこと。

『進撃の巨人』という作品によって、アニメファンのみならず多くの方に原作や他のアニメを知っていただく機会が生まれたので、自分の声優人生において、何かが大きく変わった瞬間だと思います。

━━そうした嬉しかった出来事の反面、大変だったことは何だったのでしょうか?

梶:やはり、のどのケアですね。それこそ『進撃の巨人』をやらせていただいていた時期は特にそうだったのですが、叫んで、怒鳴って、死ぬ気で敵と戦うような役でしたので、他の番組の飲み会にお誘いいただいても、どういう風に顔を出すのか悩みました。

さらには、たとえ仕事がない日でも遊ぶのではなく、そこで病院に行くのか、それともあえて家で休んで温存するのか、そういったことも含めて、プロとしての意識が試された時期でした。

━━のどのケアとは、具体的にどういったことをするのですか?

梶:一番はのどを休ませることですね。ただ、仕事をしつつだとどうしても休ませること自体難しかったりするので、それ以上に悪化しないように、風邪など引かないようにマスクをしたり、乾燥にも気をつけていますね。

あとは病院でいただいた漢方薬を飲んだり吸入したりと、できることはそんなに多くはないので、その中できちっとケアをしつつ、全力でお芝居をしていく感じですね。

また、役者の気持ち・芝居は生モノなので、そういった準備の部分を最初から計算できていないと演技が安定しませんし、一つの作品で良い芝居ができたからといって、他の作品がダメだった、では済まないので。

━━そういった感じですと、どうしてもオフはなくなってきますね。

梶:そうですね。常に何かを吸収できないかと考えてしまうタイプなので…。でもそんな自分も、録画しているバラエティ番組を見たりするとホッと一息つけますね。

ドラマや映画も好きで見るのですが、やはりどうしても仕事のスイッチが入ってしまうので、仕事にあまり関係のないバラエティ番組や旅番組を観ていると癒されます。

━━さまぁ〜ずさんの番組とかですかね……(笑)?

梶:そうですね。さまぁ〜ずさんの番組はほとんど録画しています(笑)。それが自分のスイッチを切り替えられる瞬間ですかね。

 

演じる上で徹底的に準備を。現場では柔軟に変化を

━━何をしていても仕事に繋げようとしちゃうと思うのですが、そうした中でも参考になった出来事や体験はありますか?

梶:もう参考になることだらけというか……現場に行けば、他の役者さんのお芝居を観て多くのことを学べますし、家で映画やドラマを観ていても学べますので。

そうした中で、最近は「生っぽい表現」というのを探っています。日常のシーンだからといって、普通通りにただ喋るだけでは、作品として映像化した時にのっぺりしたものになってしまう。そこに奥行きを持たせる必要があるというか、リアルとリアリティの違いを明確にしていく必要があると思うんですよね。

━━リアルな体験で感じたものを、キャラクターを通して発信していく際に、キャラクターに合わせながらリアリティを出すのですね。

梶:そうです。どんな役を演じても、核にあるのは自分自身なので。自分が考えうる世界の話の中で役について掘り下げ、「この役だったらこういう言い回しになるんじゃないか」ということを考える作業が大切なんじゃないかなと。

━━多くの役者さんがいる中で、何かを演じる際に他の人たちと差別化する場合、どういったことを意識しているのでしょうか?

梶:それについては、自分たちがどうこう意識するものではなく、お芝居に触れてくださった方がそれぞれ感じられることなのかなと。役者自身は、その役のお芝居のことだけ考えればいいと思っています。そもそもそれぞれが持っている声、楽器は違うので、同じことをしようとしても必然的に差分が出てくるものだと思います。

そして、同じ声でも表現の仕方が違えば、全く別の人物に聞こえてくるはずなので、他の人を意識するということはあまりないですね。

━━なるほど。では演じる際に気をつけていることは何なのでしょうか?

梶:先ほどの話でもあったのですが、まずはしっかり準備していくことですね。自分の中で演技プランはしっかり準備しつつも、良い作品をつくる上で、現場で求められていることにすぐに対応できるようにしておくこと。臨機応変に、柔軟に対応する必要があるので、自分の中での芝居イメージをあまり具体化させすぎないようにしています。

そもそも家でリハーサルをする時はまず自分一人な訳で、相手のセリフの雰囲気も、結局は自分の中での想像に過ぎないので。

現場に行き、実際に他の役者さんの演技を聞くと「こういう風に表現するのか」と刺激を受け、自分のプランから少しずつズレていくものなので、頭の中で限界まで考えつつも、現場に出たら一旦フラットな状態にし、その場で出てきたものに対して答えていくのが声優のお芝居なのかなと思います。

━━多くの人は、一つひとつの仕事に対してどうしても完璧に準備できず、中途半端な感じになってしまうことが多々あると思います。

梶:それについては、我々の仕事は、全てが自分に返ってくる仕事でもあると思うので、それぞれ役者自身の自己責任、プロ意識の問題になってくると思います。常にチームで動いている仕事であれば、その痛みを何人かで分け合うことができますが、個人の場合、その痛みは全て自分への評価に直結します。

なので、その危機感は常に持っていなければいけないなと思いますね。「この人と一緒に仕事をしてもつまらないな」と、思われたらそれまでですし……。

 

社会を巻き込むような作品に求められる役者になる

━━梶さんが声優という仕事をやる上で、描いていきたい未来像はありますか?

梶:全身全霊で役や作品と向き合える役者であり続けたいなと思います。あとは昨年30歳になり、自分の立ち位置も変化してくると思いますので、その年齢に合った年相応の役や引き出しをつくっていけたらなと思います。

━━年齢に合ったというのは、なかなかは難しいですよね。30代は初めての体験でありつつも、それっぽさを醸し出していくには……。

梶:自分自信の姿がアニメ作品内に投影されるわけではないので、年齢の表現に関して言えば、すごく技術的な話になると思います。

実写のように、わかりやすく白髪にすればいい、という訳ではないですし。これまで10代、20代の役が多かった中で、今まで以上に模索し続けながら、今後10年間をどう過ごしていくかで、30代としての表現の幅が決まっていくのかなと。

━━実際に30代はどういう経験をしたいですか?

梶:これは役に活きる話かはわかりませんが、英会話とキックボクシングはやってみたいですね。あとは富士山に一度は登りたいなと。

そのためにはプライベートの時間をつくり、大事にしなければならないので、まずは仕事とのバランス、そして体と心のバランスを考えて過ごさなければなと。

━━キックボクシングは体づくりでですかね?

梶:そうですね。 もちろん心も鍛えられると思いますし。英会話については、旅行の際に自分自身で何でも解決できるほうがいいですし、喋れたほうがより世界も広がると思うので。富士山は、単純に日本一の山なので一度は登っておきたいです(笑)。

━━最後に、梶さんは役者という仕事を通じ、世の中に残していきたいものは何かありますか?

梶:先ほどお話したことにも繋がりますが、僕自身が云々というよりは、自分が関わった作品、演じた役が、より多くの人に親しまれることが一番かなと思います。

その時代時代の人たち・社会を巻き込みながら、何かを伝えられるような作品に関われる役者に…そこに必要とされるような役者になっていきたいです。

━━常に前線で走り続ける梶さんが、これから前線に立って走ろうとしている若者に対して何かメッセージがあれば、お願いします!

梶:いろいろと生き辛い時代かもしれません。僕も当然、良い思いばかりしているわけではありません。「夢」や「チャンス」なんて、言葉の持つイメージほどキレイなものではないかもしれませんが、実は意外と近くに転がっていて、それは、誰の人生をも変える力があると思います。

しかし、そのチャンスを掴むには、絶対的に努力や我慢、自己管理能力など、いろいろなものが必要になってくると思います。

楽しいことばかりではないですし、辛いことも沢山ありますが、そういったもの全て含めて「人生」であり、そして「仕事」というものだと思います。皆さんもいつか、そういった素敵な仕事と出会っていただけたら僕も嬉しいです。

━━ありがとうございました! ここからは普段から梶裕貴さんを支えているマネージャーの田中さんにお話を伺ってまいります。

 

何事にも真摯に向き合う、梶裕貴の流儀

━━梶さんとお仕事されている期間は結構長いのですか?

田中修治(以下、田中):梶の担当を始めてからはちょうど一年たったくらいですね。

━━梶さんをご担当されていますが、ずっとマネージメント業をされていたのでしょうか?

田中:もともとは公務員として働いていたのですが、昔からエンタメ関係のお仕事に挑戦したいという思いもあり、悩みに悩んだ末、転職を決めました。まずはレコード会社にお世話になり、その会社でマネージメントというお仕事を目の当たりにし、この仕事にやりがいを見出だし、改めていちから就職活動をし、いまに至ります。

━━異業種からマネージメント会社に転職し、梶さんと一緒にお仕事して見えてきた、ご本人とはどういったものなのでしょうか?

田中:やはり第一に言えるのは「真面目」ということでしょうか。先日、写真集を出させていただき、その中で本人も自分は生真面目な性格だと語っています。

確かにその通りだなと端から見ていて思います。ひとつの作品に対する向き合い方や、お芝居のつくり方を見ていても感じますし、演出をされる方とのやり取りを聞いていても、何事にも真摯に向き合っているなと感じますね。

━━向き合い方というと具体的にどういった感じなのでしょうか?

田中:自分の納得のいかないところは、きちんと納得いくまでお芝居を突き詰めるというか……ディレクションに対しても、「ここがこうだから、こうではないか」など、作品をより良くしていくために逆提案する姿も目にします。

━━ご本人もお話していましたが、お仕事に対して常に全力な感じですね。そんな梶さんですが、なぜ多くの人に求められているのでしょうか?

田中:梶に対してみなさまからいただくお手紙などからも、「あのアニメや吹き替えのお芝居がすごく心に刺さりました」などのメッセージを目にする機会も多く、お芝居の説得力を評価してくださっているようです。

そういうお芝居を評価されているということが、一番大きいかなと感じます。それはお仕事で関わらせていただくクライアントさんも同じなのではないかと思います。

あとは求められたことに対して、相手が納得のいく形で返す事ができる役者なので、そういうところも大きいのではないかと感じます。

 

挫折の経験が次なる飛躍へ繋がる

━━いろんな声優、俳優の方とお会いするかと思いますが、田中さんから見て、活躍する人の共通点はなんでしょうか?

田中:あくまで主観ですが、何か一つ芯がある人ではないかと思います。「ブレない何かがある人」という部分は共通している気がします。

━━どういうバックグラウンドがあると芯みたいなものができるのでしょうか?

田中:やはり挫折……ですかね。最初から上手くいっている方って、なかなかいないと思います。挫折をし、自分を見つめ直す経験が大事なのかなと思います。

誰しも挫折はしたくないと思いますが、若いうちに挫折をすることが大事かなと。

━━その挫折の仕方も重要なのかなと思いますが。

田中:そうですね。挫折がないと自分を見つめ直す機会はなかなか訪れませんよね。

何が悪くて、何が自分に向いているのかなど、挫折を経験する事で、次のステップに進めるのではないかと思います。

また、挫折から次のステップに進むには、人に必要とされることが大切だと思います。今の自分に出せる力を100%出して向き合い、誰かに必要とされる事でやり甲斐なども見えてきて、自己確立できるのではないかな、と。

━━では、人に求められる、必要とされるにはどうしていけばいいと考えていますか?

田中:先ほどの話になりますが、まずは何がやりたいかを自分の中で明確にすることですかね。そしてやりたいことがなければ、少しでも興味のあることを始めて行けば、何かしら変化していくと思います。

そして人とコミュニケーションを取る事で、自分の中にはない何かを見つけられると思うので、そこから一歩踏み出せたりするのではないでしょうか。

人見知りの人にはハードルが高いですが、一人でバーやこじんまりとした居酒屋に入ってみるとか。

何か動いてみることで、普段、自分では考えてもいなかった新しいことに挑戦する機会ができますので、その中で自分を高めていけるのではないかなと思います。

 

編集後記

「何者かになるため」に人々はさまざまなことに挑戦し、失敗を繰り返しながら「自分」というものを確立していきます。

梶さんは、さまざまなアルバイトを通して、社会への厳しさを痛感しつつも、自信を持ちながら仕事と向き合うことで、多くの人に求められるプロフェッショナルになっていきました。

例え、最初は思い通りの絵を描けなくとも、まずは一歩を踏み出し、楽しい経験、辛い経験全てを無駄にせず、人生を前向きに捉えて前進していくことで、思わぬチャンスと未来を掴めるのかもしれません。

 

※この記事は2016年4月18日にアニメイトタイムズに掲載されたものです。 元記事:http://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1460341643

企画・取材・構成:長谷憲、織田上総介(アニメイトラボ) 撮影:山本哲也

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