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【『世界から猫が消えたなら』著者 川村元気氏の仕事論】「あれっ」という違和感。それがアイディアの芽になる

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川村元気(かわむら・げんき)

1979年、横浜生まれ。 上智大学文学部新聞学科卒業後、映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。120万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮﨑あおい出演で映画化、2016年5月14日より東宝系で公開。近著にハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』(KADOKAWA刊)などがある。

映画『告白』『悪人』『モテキ』など、

数多くのヒット作を手掛ける

映画プロデューサーである。

また、初めて書いた小説

『世界から猫が消えたなら』が

120万部を突破するなど、

多方面で活躍。なぜ川村氏は、

ヒットを出し続けられるのか?

過去の方程式は使えない。だから今の“違和感”を大事にする

よく「ヒットの方程式は何ですか」と聞かれるのですが、そんなものはないんです。大衆の心は魚影みたいなもので、すぐにどこかに行ってしまう。そのため過去の方程式は全く使えないんです。ただ、自分も魚影の一部なんです。自分も大衆の一人。だから自分が「あれっ」と思ったこと、つまり“違和感”をすごく大事にしています。

例えば、2016年4月に『理系に学ぶ。』という本を出したんですが、それもきっかけは「あれっ」と思ったことから。ある日、自伝映画の主人公がいつのまにか理系ばかりになっていることに気づいたんです。映画の主人公といったら音楽家や作家、政治家が定番だったのに、いつの間にか、マーク・ザッカーバーグやホーキング博士、スティーブ・ジョブズといった理系に変わっていた。映画の主人公になるということは、世界の主人公でもあるということだと僕は思っています。なので、これは理系の時代がくるぞと。

実はそう感じたのは2年前なんです。まだそのころは、人工知能もこんなに騒がれてなかったし、大学は理系だけでいい、なんて議論をされることもなかった。でも、“自分の中に生まれた違和感は掘り下げてみる”というモットーに従って、理系の人たちとの対話を始めたんです。2年間にわたるその連載がまとまって本になったのが、2016年の4月。そしたらちょうど世の中で「理系ブーム」が起こっていたんです。

アンテナを張るのではなくて、自分の心の声を聞く

これまでの映画や小説づくりも、きっかけは何でもない気づきなんです。「あれっ、なんか変だ」というくらいのもの。でもその「あれっ」を大事にして掘り下げて、映画なり本なり何かの形にしていくと、ちょうどそれができ上がる2年後くらいに、世の中に大きなムーブメントが起きることがある。自分が「あれっ」と思うことは、自分以外の多くの人たちもなんとなく感じていて、それが世の中のムーブメントとして出てくるまでに2年ほど時間がかかるということかなと思っています。

狙ったところに針を落とすのではなくて、自分が「あれっ」と思ったことを大事に育てていく、という感じでしょうか。多くの人がなんとなく感じていて、でも口に出していないことを大きな声ではっきりと言う。そしてみんなに「わたしもそう思っていた!」と賛同してもらうのが僕のつくりかたなんです。

だから、どんな企画も自分が観たい映画、読みたい本、知りたいことから始めます。ただし、みんなが言い出してからでは遅いと思っています。すこしだけ早く、「あれっ」に気付くことが大事なのではと。

よく“アンテナを張る”という言い方がされていますが、アンテナを張るといろんなことがたくさん入ってきてしまって、何がいい情報なのかわからなくなってしまうことも多い気がします。大事なのは何を知っているか、ではなくて何が大事なのかに気付くことだと思っているので、僕は自分が見て感じたことを何より大事にしています。

もちろん、“誰もやっていないこと”という視点も大事です。目新しいものや誰もやっていないことにヒットの芽があることは確かですから。でもそれは大コケする可能性も多分に秘めています。だから、少なくとも「自分だけは引っかかった」という確証が欲しい。もし、「あれっ」と思ったことをやり始めたのに誰も集まってこなかったら、もう一度、自分に問います。「本当に引っかかっていたことなのか」と。もう、何度でもしつこく検証します。それで違っていたら道を変えればいい。自分が間違っていると思えば、柔軟に道を変えることも大事だと思うんです。

自分の中の違和感を見つけることが

大事だと川村氏は語る。

しかし、多忙な生活の中で、

心の変化を見逃さないことは、

とても難しいこと。

どうやって感性を磨いているのか。

苦手なものにあえて首を突っ込む。そうしないと生き残れないと思っている

僕は自分に課していることがあるんです。それは“苦手なものに首を突っ込む”こと。2014年に『仕事。』という宮崎駿さんや、坂本龍一さん、糸井重里さんらとの仕事の対話集を出したんですが、それもそのひとつ。僕はそれまでいわゆる“巨匠”と呼ばれる方たちとほとんど接点がなく、多くが同年代との仕事だったんです。そういう巨匠たちは自分とは別、と距離を置いてしまう方法もある。でも、どんな巨匠にも自分と同じ30代のころもあったわけで、きっと挫折とか恥ずかしい経験とか、自分と共通することもあるんじゃないかと。それで、おっかなびっくり訪ねていって「30代のときに何をしていたんですか?」と話をうかがいました。そうしたら、たくさんの発見があって。

今回上梓した『理系に学ぶ。』も同じです。僕は昔から数学や物理、化学や生物といった理系に関するものが苦手だったんです。ひどい理系コンプレックスがあって、逃げるように私立文系大学に進みました。それで映画会社に入社して、映画を作って小説を書いて。もう理系とは離れて暮らせると思って内心ホッとしていた(笑)。でも、時代の流れは違っていたんです。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツと、いつの間にか、時代を動かしているのは理系になっていた。ならば、苦手な理系に話を聞きに行こうと。そしたら、やっぱり発見がとても多かったんです。

例えば人工知能に関して。メディア・アーティストの真鍋大度さんや、東京大学大学院准教授の松尾豊先生に話を聞きに行ったんですが、目からうろこの連続でした。僕の勝手なイメージで、理系は人間を見ていないと思っていたんですが、実際は真逆。人工知能をどんどん掘り下げていくと、「人間って何だ?」ということに行き着くんです。コンピュータに何かをさせようという学問ではなく、「人間にしかできないことは何だろう?」ということを探る仕事だともいえると思いました。僕ら文系より理系人のほうが人間を深く見ている。つまり、“人間がこれから欲しいもの、これから不要になるものがわかっている”ということです。ジョブズがアップルを作ったように、そういう人たちから大ヒットが出るのは当然だなと。

理系が世界を作っていく時代で、どうやって文系は生き残っていけばいいのかって、自分も含め多くの人が考えることだと思いますけど、やっぱり「学ぶ」ことしかないと思う。苦手だからと遠巻きに見ていないで、話を聞きに行くしかない。そうすれば苦手だった人とも共通点が必ず見い出せる。そうしたら「今度は一緒に仕事してみましょう」となる。いきなり世界が広がりますよね。違うジャンルの人と仕事をすれば、自分の強みを見い出すこともできます。生き残るヒントをもらえるんです。

苦手なものに飛び込んでみるのは、確かに最初は緊張します。人は未知のものに対して最も恐怖を感じますから。でも、やってみると意外と楽しんですよ。僕は今でもバックパッカーとして貧乏旅行をしているんですが、見知らぬ僻地の町に行くと最初はストレスを感じます。でも、2、3日もすると町の様子がわかってきます。ここには美味しいレストランがある、ここは危険なエリアだと。それってすごく面白いんですよ。わからないものがわかってくる過程がすごく好きなんです。人間としての能力が開花していくというか。だから、苦手なものや知らないものにあえて飛び込んでみる。これはずっと続けていきたいと思っています。

感じることがあったら、何かを手放してもやってみたほうがいいと思っています

映画『世界から猫が消えたなら』の原作となった小説のテーマを思いついたのも、些細な出来事からなんです。ある日携帯を落としてしまって、やることもなくなり外を観ていたら大きな虹が出ていた。皆が気付いているかなと思い、電車の中を見回したら、僕以外の乗客全員が携帯を見つめていて虹に気付いていなかった。そのときに「何かを得るためには、何かを失わなくてはならない」という小説のテーマを思いついたんです。

やっぱり何か感じることがあったら、何かを手放してもやってみたほうがいいと思っています。安定とか安全を求めることは誰にとっても自然なことだと思います。ただ、安定とか安全は、結果的に危険な道にいくことがある。安定や安全を求め過ぎて何も手放さないと、どんどん行き詰った道にはまっていってしまうと思います。

人が感動するときって、予定外に何かが起こったときですよね。思いがけず起こったことに、人は泣いたり笑ったりするわけです。だから心の中に予定外が起きる余地があったほうがいい。あと半分くらいで死んでしまう人生なんだから、なるべく感動する道を選んだほうが幸せだと僕は思っています。

それに、そもそも絶対に安全な場所なんてないんだから、知らない場所に行っていろんな人に会って、そこから学んで、少しでも自分が生き残れる力を身につけておきたいと思っているんです。だから、苦手意識を乗り越えてでも巨匠の方や理系の人に会いに行って、いろいろ教えてもらうんです。

僕は「こうしなくてはならない」というこだわりを極力持たないように心がけています。あるとすれば、“変わり続けること”にこだわっている。時代も変わるし、置かれる環境も変わる。自分の考えも変わる。だから、自分の気持ちに敏感になって、正直に行動することが大事だと思っています。

もし、仕事がつまらないと思っているなら、今、興味を持っていることを始めてみるといいのかもしれません。興味があることなら勉強も苦じゃなくなる。僕も理系の人たちに会いに行く前、いろいろ調べることが多くて大変だったんですけど、興味を持っていることだったので、どんなに忙しくてもできたんです。

実際に働いてわかったのは、好きなことを仕事にするべきだ、ということ

僕は10代のころから年間300本観るくらい映画が好きだったんです。就職活動しているときに、「本当に好きなことは仕事にしないほうがいい」という先輩がいて、映画と離れたところで仕事をしたほうがいいのかなと思ったこともあったんですけど、今、実際に働いてみて思うのは、「仕事は絶対、好きなことをしたほうがいい」ということ。よく、「入社当時は劇場のチケットもぎりの仕事をしてたそうですが、辛くなかったのですか」と聞かれますが、そんなの全然、苦労じゃないです。好きな映画の仕事をしているんですから。むしろ、映画に関わっていなかったらどうなってただろうと思います。起きている時間のほとんど仕事をしているわけですから、好きじゃない仕事をするのは、かなりつらかっただろうと思います。

こういう話をすると、「でも、好きなことで食べていくのって難しいですよね」という話になると思うんですが、そのために必要なのが、やっぱり“勉強する”ってことだと思っています。「理系に学ぶ。」で対談したマサチューセッツ工科大学メディアラボ所長の伊藤穣一さんが言っていたのですが「コンフォートゾーンから出て、新しいジャンルで学ぶこと」がとても重要だと思っています。自分の知っている世界で楽しくやっているだけではクオリティは上がりません。そもそも新しいことをしなくちゃ、面白くないですしね。

【information】

『理系に学ぶ。』川村元気著

120万部のベストセラー小説『世界から猫が消えたなら』の著者で、映画プロデューサーの川村元気氏が、解剖学者の養老孟司氏、「ニコニコ動画」の生みの親・川上量生氏、メディア・アーティストの真鍋大度氏、任天堂の宮本茂氏、外科医の天野篤氏など時代をけん引する理系のトップランナー15人に、「これからの時代の生き残り方」「ヒットの仕掛け方」「ビジネススキルの磨き方」「テクノロジーの可能性」などを聞いた。理系はなぜヒットを次々と飛ばすことができるのか。理系が時代を作っている時代に文系の強みとは何か。そして文系と理系が組んで何ができるのか。ヒットメーカー同士の対談だけに、普段のインタビューではなかなか聞けない本音トークが多く、非常に斬新でためになる内容となっている。時代に取り残されないために読んでおきたい一冊。ダイヤモンド社刊

※リクナビNEXT 2016年5月11日「プロ論」記事より転載

EDIT/WRITING高嶋ちほ子 PHOTO栗原克己

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