神戸暴走 持病を持つ人の自動車運転を制限出来ないのか?

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神戸暴走 持病を持つ人の自動車運転を制限出来ないのか?

神戸自動車暴走の容疑者は持病で薬を常用

 JR三ノ宮駅前(神戸市中央区)で乗用車を暴走させ歩行者ら5人に重軽傷を負わせる事故を起こし、自動車運転処罰法違反(過失致傷)の疑いで逮捕・勾留された容疑者は「持病があって薬を常用していた」旨の供述をしています。

容疑者は「事故直前の記憶がない」とも供述しているため、兵庫県警は自動車運転処罰法の「危険運転致傷容疑」も視野に入れた捜査を進めてきました。

これを受けて、神戸地検は容疑者の「鑑定留置」を神戸地裁に請求し、3か月間の鑑定留置が認められています。
今後は、事故原因に対する持病の影響などについて詳しく調べることになります。

病気が原因で危険運転致死罪が適用されるケースとは

 「危険運転致死傷罪」と言えば、飲酒や薬物乱用を原因とする悲惨な交通事故がすでに社会問題化していますが、飲酒や薬物乱用だけでなく、「病気」が原因で正常な運転が出来ずに死傷事故を起こした場合にも処罰されることがあります。

その場合、①「病気」のために正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、②そのような状態にあることを認識しながら自動車を運転し、③その結果、「病気」のために正常な運転が困難な状態に陥り、④人を死亡あるいは負傷させた、という4つの要件が全て満たされたときに「危険運転致死傷罪」が成立します。

 ここでいう「病気」とは、自動車を運転するにあたって危険とされる症状に着目し、運転免許の欠格事由とされている病気の例をも参考として政令で定められています。具体的には以下のとおりです。

(1)自動車の運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する「統合失調症」
(2)意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがある「てんかん」(発作が睡眠中に限って起こるものを除く)。
(3)「再発性の失神」
(4)自動車の運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する「低血糖症」
(5)自動車の運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する「そう鬱病」(そう病及び鬱病を含む)。
(6)重度の眠気の症状を呈する「睡眠障害」

持病を持つ人の免許取得や更新を阻止できないのか

 兵庫県警によると、この容疑者は過去に複数回の事故歴があり、昨年(2015年)も事故を起こしていました。
ところが今年4月に免許更新をしたばかりだったと言いますから、免許の更新を阻止できなかったのか、という問題も浮上します。

 実は、2014年6月から施行された改正道路交通法では、運転免許の取得時や更新時に「病気」等に関する「質問票」に回答することが義務化されています。
意識障害を伴うてんかんや睡眠障害の持病を持つ運転者が死傷事故を起こすことが相次いだからです。

質問は以下の5問であり、これに「はい」「いいえ」で答えることになります。
(1)過去5年以内において、病気(病気の治療に伴う症状も含む)を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある。
(2)過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が、一時的に思い通りに動かせなくなったことがある。
(3)過去5年以内において、十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中、活動をしている最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある。
(4)過去1年以内において、次のいずれかに該当したことがある。
① 飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続けたことが3回以上ある。
② 病気治療のため、医師から飲酒をやめるよう助言を受けているにもかかわらず、飲酒をしたことが3回以上ある。
(5)病気を理由として、医師から運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている。

 この「質問票」に「はい」と回答したために、即座に免許の更新を拒否されたり、免許が停止されたり、取り消し処分になることはありません。
後日、医師の診断をもとにあらためて判断されることになります。

なお、この「質問票」への回答は義務であり、虚偽回答をすると「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されますので、注意が必要です。

(藤本 尚道/弁護士)

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