自然豊かな鎌倉に住む[上] リアル津波映像公開で防災意識を啓発

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自然豊かな鎌倉に住む[上] リアル津波映像公開で防災意識を啓発

鎌倉市が公開したリアルな津波シミュレーション映像が話題だ。1年間で2000万人以上も観光客が訪れる鎌倉の駅や象徴的な場所が次々にCGの津波にのみ込まれていく衝撃的な映像、それを制作した背景は? 東日本大震災、熊本地震と大規模地震が続く地震列島日本、新しく鎌倉住民になった筆者が気になる質問をぶつけ、自らの防災意識も大きく変わった。

海が魅力だからこそ、津波映像で市民や観光客の防災意識を啓発

さっそく鎌倉市役所を訪ね、防災安全部総合防災課の防災担当である窪田さんに話を伺った。

–津波のシミュレーション映像、各方面でかなりの話題になっていますね。

はい、鎌倉市民及び鎌倉に観光等で訪れる方々を対象につくったものですが、平成28年4月1日に公開して数週間(4/25取材時点)ながらおかげさまで多数のHPでの視聴、市内外からのDVD貸し出し依頼、取材などの反響が寄せられています。

–リアルな津波CG作成にあたっては、反対意見などもあったのでは?

海に面した鎌倉市では、津波対策は重要課題として継続的に取り組んできました。今回のCGもその一環で、鎌倉市に津波が来た場合の被害想定や取るべき行動について、視覚的に訴えることで更なる啓発を狙ったものです。鎌倉の重要な観光資源でもある「海」は、一方で津波というリスクも持ちます。そこで、情報をオープンにして、今いる場所のリスクを正確に伝えることを選択しました。映像化にあたっては、市民や観光協会の方にも関わってもらいながら制作しましたが、こうした趣旨を伝えて理解を求めた結果、大きな反対意見はありませんでした。

–このような映像公開は全国初? 鎌倉市は防災面で進んでいるのですか?

各都道府県、市町村はそれぞれ環境条件等が異なりますし、一概には比べられません。鎌倉市は自然に恵まれている分、海・低地・山や崖などに囲まれているので、複合的リスクに備えて継続的に防災計画に取り組んでいます。津波のシミュレーション映像化が一番早かったのはおそらく静岡県で、約5年前に東海地震を想定した映像を静岡県地震防災センターのTSUNAMIシアターで公開。ホームページ等での公開は鎌倉市が初めてです。また日ごろの避難訓練等の立ち合いを通じて、市民の防災への関心も高いと感じています。【画像1】鎌倉を象徴する小町通り、七里ガ浜、腰越で津波が発生した場合のシミュレーション映像。限られた時間でどう行動するべきか、真剣に考えざるをえないリアルさ(画像:鎌倉市津波シミュレーション動画)

【画像1】鎌倉を象徴する小町通り、七里ガ浜、腰越で津波が発生した場合のシミュレーション映像。限られた時間でどう行動するべきか、真剣に考えざるをえないリアルさ(画像:鎌倉市津波シミュレーション動画)

自然豊かな鎌倉市で安心安全に住むためのアドバイス

–鎌倉市の防災面での取り組みについて、具体的に教えてください。

万が一津波が発生した場合、混乱なく安全に避難することができるよう、これまでも津波注意の看板や海抜表示、避難施設へ向かう道路に津波避難経路の路面シート、津波襲来時に緊急避難先として協力してもらう津波避難ビルの指定などを行ってきました。路面シートは細く入り組んだ道の多い鎌倉で高台の方向が分からないときや土地勘がない観光客でも避難方向が分かるようにしてあり、整備可能なところから優先的に設置しています。【画像2】左:電柱に取り付けられた津波注意の「海抜表示板」。 右:市役所前交差点にあった「津波避難経路路面シート」は避難場所である源氏山公園までの距離、方向、海抜を表示(写真撮影/長井純子) 【画像2】左:電柱に取り付けられた津波注意の「海抜表示板」。 右:市役所前交差点にあった「津波避難経路路面シート」は避難場所である源氏山公園までの距離、方向、海抜を表示(写真撮影/長井純子)【画像3】景観を守るための条例で建物の高さが制限されている鎌倉市。津波襲来時に緊急避難先となる「津波避難ビル」にはこのような標識があるので最寄りの避難先を確認しておこう(写真撮影/長井純子)

【画像3】景観を守るための条例で建物の高さが制限されている鎌倉市。津波襲来時に緊急避難先となる「津波避難ビル」にはこのような標識があるので最寄りの避難先を確認しておこう(写真撮影/長井純子)

また「津波ハザードマップ」(平成25年度)に加え、土砂災害や洪水ハザードマップなど複合リスクも解説した「かまくら防災読本」(平成26年度)、暮らしに役立つ情報も盛り込んだ「鎌倉市暮らしのガイドブック」(平成27年度)などを作成して情報発信してきました。【画像4】左:「津波ハザードマップ」(平成25年度)、「かまくら防災読本」(平成26年度)、「鎌倉市暮らしのガイドブック」(平成27年度)などで繰り返し、分かりやすく防災情報を発信。 右:写真は津波ハザードマップを拡げたところ、同じ内容をホームページでもみることができる(写真撮影/長井純子)

【画像4】左:「津波ハザードマップ」(平成25年度)、「かまくら防災読本」(平成26年度)、「鎌倉市暮らしのガイドブック」(平成27年度)などで繰り返し、分かりやすく防災情報を発信。 右:写真は津波ハザードマップを拡げたところ、同じ内容をホームページでもみることができる(写真撮影/長井純子)

–映像作成後、これからの防災計画は?

防災計画を役所でつくって一方的に発信して終わりにするのでなく、実効的な総合防災の取り組みを目指しています。そのため町内会や自治会単位のワークショップで地域別の具体的な避難ルート検討、避難訓練などを実施しています。昨年度実施したワークショップの内容を基に地域別の「津波避難経路マップ」を作成し、今年度配布予定です。今年度は各町内会などの自主防災組織などで動画や避難経路マップを使って防災意識を啓発するとともに、避難ルートの開拓や整備などにも取り組んでいきたいと考えています。

–現在鎌倉に住んでいる人・これから住みたい人への防災面でのアドバイスを。

津波が来たら、逃げるしかない。高台はどこで、どのように逃げるか。津波シミュレーション映像にはそんなメッセージを込めました。いざというときに少しでも慌てず行動するため、日ごろから具体的な避難計画を想定して、準備をしておくことが大切です。また、鎌倉は海・山・川の自然環境に恵まれている分、災害は地震・津波だけでなく、風水害・土砂災害、洪水・内水など複合的リスクがあります。いざというときに、その場で適切な判断ができるよう努めていますので、日ごろから防災意識を持っていただきたいと思っています。

津波シミュレーション映像を見て、私自身の防災意識と避難計画も大きく変わった。

1年前に自宅を購入する際も、情報収集のため市役所に出向いた。ハザードマップから地震が発生した場合は津波や浸水が心配な地域だと認識したうえで、積極的に情報公開をして親身に相談にのってもらえたことが信頼感につながり、こうして鎌倉市民となった。そのとき、ハザードマップで海抜が高い避難場所を見つけてはいた。だが激しい揺れが続く中、震源地によっては地震発生から8分というスピード感は完全に抜け落ちていたことに今回の映像を見て気付く。自分が無事であっても、持ち出し品は準備不足ですぐに飛び出せないし、周辺のブロック塀などの倒壊で道が通行できない可能性もある。そもそも海抜が高くても、遠いと間に合わない。近くには山の高台もあるが、土砂災害の危険もありえる。

さらに自宅にいるときに震災が発生するとも限らない。ただでさえ方向音痴なので、事前に大まかな地図を頭に入れておくことが必要だし、現場では路面シートの方向指示が本当に頼りになりそうだ。慌てないで落ち着いて、なんて無理だからこそ「さまざまな可能性を想定しておくこと」が重要と思い知った。まだ町内のことも避難場所までの道も分からないことだらけ。

そこで地元住人が集まるバーで、防災対策について聞いてみた。皆さんそれぞれの持論のもと、避難場所を選択・決定していた。地域の避難訓練への参加はもちろん、防災グッズを持ち車いすの祖母を連れて避難場所まで何分でいけるか計ったという人まで! 「8分だよね」という津波映像のメッセージも伝わっていて、想像以上に防災対策への関心が高い。見習って、さっそく避難経路を実際に歩いてシミュレーションすることから始めよう。

被災地の一日も早い復旧と復興を祈って。そして防災知識によって、自然災害による被害を少しでも減らすことができますように……。●取材協力

・鎌倉市防災安全部総合防災課●参考

鎌倉市津波シミュレーション動画

・鎌倉市津波ハザードマップ

・静岡県地震防災センター
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