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星野リゾート 強さの秘密は「現場主義」か

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 2016年最も注目されるホテルトピックの一つに「星のや東京」の開業がある。運営は全国各地に宿泊施設を展開する「星野リゾート」である。

 予約の取りにくい宿としてリピーターも多い全国各地にある星野ブランド。人気の秘密を探るべく、ホテル評論家の瀧澤信秋氏が本拠地のある長野県軽井沢町に向かった。

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 星野リゾートは、星のや東京も含めた最上級ブランドの「星のや」、温泉ブランドの「界」をはじめ、リゾートホテルブランドである「リゾナーレ」など、国内各地への多彩な展開で知られる。形態は所有/運営受託など様々であるが、いずれの施設も業績は好調で、旧態型施設の再生にも定評がある。

 筆者は星のやの本拠地である「軽井沢エリア」に馴染み深い。星のや軽井沢をはじめとした軽井沢エリアの施設が建設されているころ、近隣に定住していたこともあり思い入れがある。とはいえ、その後の星野リゾートがみせた多角的な施設展開については、多くのメディアに注目され情報拡散してきたことから、評論家としてはニュートラルに距離を保ち特段取り上げることはなかった。

 ところが、今回の「星のや東京」開業トピックはさすがに無視できず、記者発表会に参加した。結果、果たして星野リゾートは、宿泊料金に見合ったハードやサービスを提供できているのかという思いを抱くことになった。多くのメディアから情報発信されているような、星野リゾートのポジティブな情報と実態の乖離は無いのか──ということである。

 かような経緯で、星野リゾートの原点である軽井沢エリアの「星のや軽井沢」「ホテルブレストンコート」へ取材に出向いた。

 過去様々なホテルを取材してきたが、カリスマのいる組織は、肥大化する中でカリスマ性が末端の綻びをオブラートに包む。ゲストに非日常の時間・空間を提供するホテルは特にイメージを重視するだけになおさらだ。

 一般人がイメージする星野リゾートといえば、星野佳路代表の存在感だろう。星野リゾート=星野代表という印象を持つ人は多い。自身も長年星野代表のメディア露出を見てきて、星野リゾートには末端にまで“星野代表イズム”が浸透、トップダウンの完璧なマニュアルが存在しているのだろうと推測していた。

 ところが、実際出向いて意外だったのは、あくまでも「現場主義」を貫いていることだった。

 例えば軽井沢であれば、自然の中に存在する日本の原風景に身を置くことが一貫して意識されている。よく考えられた施設のコンセプトや、吟味されたグルメのクオリティの根底にあるのは「信州へのリスペクト」だ。軽井沢に限らず各施設がそれぞれの土地に根づく風習・慣習、文化を尊重しているという。

 それらは「土着のホスピタリティ」とも評せるだろう。風土を意識しゲストの体験に落とし込むことを星野リゾートは重視するが、かような組織において権限委譲は当然なのかもしれない。

 外資系ラグジュアリーホテルに代表されるような、都市型高級ホテルで見られる、背筋が伸びるような隙のないサービスの追求は、結果としてホテルを均一化させていく。どこへ行っても同じように完璧だ。「サービスマニュアル」という言葉があるように、サービスは利益を追求する手段という側面もあるのだろう。

 ところが、今回出向いた施設で共通していたのは“自主性”や“柔軟性”だ。少なくとも接したスタッフ全員が、実に楽しげにゲストへ説明し案内する。つい余計なことまで喋ってしまい失礼しました、と詫びられるシーンも何度かあった。当方が取材という立場を知っているだろうから接客は用心深くなるのが普通だが、こちらが聞く前に裏話まで飛び出てくる。とにかくゲストと接するのが嬉しくて仕方ないといった様子。

 昨今「おもてなし」が一人歩きし様々な手法で商品化されているが、おもてなしの原点は心の追求だ。スタッフのパーソナリティを鑑みることなく、一定のルールに縛られるサービスのマニュアルではない。お金に換算できない、咄嗟に出る行動や言葉におもてなしのエッセンスはある。

 もちろんサービスには外せない基本はありマニュアルも重要。しかし、ゲストが斬新に感じる土着のホスピタリティは、現地に長い時間身を置くことによって生み出される。事前にマニュアルは用意できない。リゾート地への展開という条件もあるのだろうが、結果として星野リゾートという有名ブランドにして、それぞれの施設ならではの個性や、ゲストとの絶妙な距離感が生まれている。

 星野リゾートは生産性を重視しているという話を聞いたことがある。経営には必須なことかもしれないが、生産性を合理性の追求としたら、軽井沢の滞在で見たことはあまりに乖離している。もちろん施設や設備、スタイル、料金、ゲストそれぞれ求めるものやコスト意識も違う。中には違和感を持つゲストもいることだろう。

 確かに、ホテルサービスという点からはまだ進化の途上ともいえる。一方で星野リゾートのファンは、完璧さばかりを追求するサービスや、施設それぞれの持つ個性、新鮮な距離感を楽しんでいるかのようだ。そうした、現代のユーザーに受け入れらやすい斬新さも星野リゾートファンにとっては魅力なのかもしれない。

 星野リゾート。その取り組みや経営手法、施設展開ばかりが注目されるが、一貫しているのはそれぞれの土地にある風土や文化へのリスペクトだ。そこにはもはやカリスマはいない。

●写真提供/瀧澤信秋

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