“呑める蕎麦店”からの原点回帰。 「いつか、自分で育てた蕎麦の実で自分の蕎麦を打つ!【木曽路】

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会社をずる休みしたり無理して借金こしらえたり。そこまでしてもやり遂げたい、いわゆる“悪魔の趣味”というものがあります。有名なのは釣りですが、蕎麦もその一味じゃないかというのが僕の持論です。なぜ人は蕎麦にハマってしまうのか。その理由を考えるともなく福岡市民憩いの大濠公園付近をぶらぶらしていたら、やっぱり来ちゃいました

「石挽き手打ち蕎麦地酒 木曽路(以下、木曽路)

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店の近く「港町」の交差点。大濠公園から歩いて10分程度で旨い蕎麦にありつけます。

「ぉおお、久しぶりですなぁ!」

ご主人である宮崎義満さんのでっかい声と満面の笑みに、たちまち胃袋の巾着はゆるみ、どばーっと蕎麦欲が湧いてきます。

思うんですけど、人が店や料理を好きになる理由って、素材へのこだわりとかそういったことより店の人との相性に尽きるんじゃないかと、宮崎さんとの久しぶりのご対面に感じ入ってしまいました・・・・・・。

では、皆さんにはなんのこっちゃまったくNGな説明なので、ここから、真面目に木曽路さんの魅力、お伝えさせていただきます。

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外観は、およそ蕎麦店のそれではない雰囲気ですが、実は和紙をコラージュしたもの。見た目で、判断してはいけないのです。奥が深いのです。

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モダーンな雰囲気の店内。左手奥には小上がりの個室、右手奥にはご主人や2代目との会話も弾む対面式のカウンターを備えた座敷席があります。

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びっくりするような有名人が普通に蕎麦を啜っていたりもする店内奥の座敷席は予約制・・・ですが時々スルーしてカウンターに陣取る常連さんもいたりします。

木曽路のハジマリの話。

創業はバブルのずっと前。当時から蕎麦の店を名乗ってはいましたが、カレーでもなんでもある食堂然とした店でした。今のような蕎麦専門の店になる大きなきっかけは、2つ。1つは現在地への移転、もう1つは長男猛さんの“2代目継ぐ”宣言でした。

「高校時代、親父が連れて行ってくれた千葉の有名な蕎麦店を目にした瞬間、僕の中の蕎麦店の概念がひっくり返ってしまった」。外には外車がずらずらと並び、中では洒落た大人たちが昼から蕎麦で酒を呑み楽しんでいたのだそう。最も印象深かったのが、石臼で蕎麦の実を挽いて蕎麦粉を作っていたこと。「自家製粉すれば自由に蕎麦を表現ができる、と思ったんです。蕎麦の旨さに圧倒されながら、その発見にワクワクしました」。父と息子が理想とする蕎麦店が、この時ピタリと定まったそうです。

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蕎麦には、電動式の石臼で挽いた蕎麦粉を使った「せいろう(760円)」か、手動式の石臼で挽いた写真の「粗挽きそば(880円)」があり、それを組み合わせた定食、コースも人気。

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実際に店で使う蕎麦の実の見本。九州の6種の他、全国から取り寄せているそう。生産者とのコミュニケーションにも積極的で、当然、目利きにもこだわっています。

取りあえず乾杯より、“とにかく蕎麦”が木曽路の信条。

蕎麦屋さんでしょ、それ当然。と突っ込んだあなた。違うんですよ、木曽路の現状は。夜に限っていえば、酒をアテで楽しむのが主流となっているようで、中には「さっき飲んだ日本酒の一升瓶見せて」とリクエストするお客もいるほど人気が高いのです。「小さい蔵を応援している酒屋の親父がおってですな、九州唯一のとか珍しい日本酒があるとです。そのこだわりは相当なもんで、飲食店でもなかなか取引してもらえんそうです」とご主人。そのなかなか希少な一本が、ここにはずらずらと並ぶのだから“この現状”も納得というか、当然というべきか。とにかく、日本酒好きにはたまらん店になっているようです。

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取材時にあった日本酒を3種見繕ってもらった。「見る人が見れば分かる日本酒です」とご主人。

9勺800円~。

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九州ではこの店だけに卸しているという長野県産の醤油を使った「そば味噌(210円)」。信州味噌と蕎麦の実の素朴で力強い味わい、日本酒にも良く合います。

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冷えてもふっくらの「木曽路の玉子焼き(930円)」。驚きの食感、自分の舌で確かめてください。写真はこぢんまりしてますが、すっごくボリューミーです。

バゲットもグラノーラもすべて蕎麦?それにしても酒のアテ、旨いです。

実は2代目、単なる蕎麦職人ではなく、東京渋谷にある有名店で日本料理の基礎をみっちりと学んだ和食の料理人でもあります。だし巻き玉子からして、他のそれとはまったく別物の食感、目を丸くするほどの旨さです。蕎麦以外もかなりのもの。「そば味噌」などの正統派蕎麦店のアテから、自家製のバゲットを使ったサイドメニューや果てはワッフルやジェラートといったスイーツも揃う多彩さ。しかも、そのほとんどに蕎麦を用いるという職人気質。ヨダレが垂れると同時に、頭が下がる思いです。

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蕎麦のバゲットは蕎麦を使ったパテなどと一緒に味わえる単品メニューで楽しめます。グラノーラ(もちろん蕎麦使用)など店頭販売用のお持ち帰りの品もあります。実はこれらは、2代目の妻・香菜さんがプロデュースしたものです。

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「Cafe Kisoji」のブランドロゴもかわいい、蕎麦の実を使ったグラノーラ。

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国内でも数店でしか使われていないという、手動式の石臼。2代目は「手挽き石臼」と呼んでます。

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しかし、2代目は“この現状”に満足していません。

「酒はあくまで蕎麦の味を引き立てるものの一つ。昨今流行の“酒が飲める蕎麦店”というスタイルも、江戸の昔もさることながら当店でも20年以上も前から実践してきたことですし、そろそろ蕎麦店として原点回帰を目指したい」。同世代で頑張る東京の有名蕎麦店のオーナーらをはじめ、ジャンルを超えた食のプロ達との交流にも積極的で、視野が広がる一方で蕎麦に対する考え方はますますストイックになっているのだそう。

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「機械式の石臼を使い出して10年以上になりますが、自分の手で挽きたくなったんです。実は母の田舎が蕎麦伝来の地と言われる対馬で、ダメ元で手動式の石臼がないか訊ねてみたら、これが奇跡的に見つかったんですよ」。京都の職人に新たに“目立て”をしてもらった先祖伝来の石臼からは、機械式の石臼の微細なそれとはひと味違う、粗挽きの蕎麦粉が作られるそうです。

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創業者の宮崎義満さんと2代目の猛さん。真面目で実直なところはそっくり、さすが親子です。義満さんは、奥の座敷で天ぷらを揚げてくれます。これが旨いのなんの。圧搾法の菜種油を使いネタの風味を引き立てつつ、後味さっぱりに仕上げます。

「たぶん、江戸時代の人は、こんな蕎麦を食べていたんだと思いますよ。ゆくゆくは店専用の蕎麦畑を持って、自分で蕎麦の実を育ててみたいですね」。創業者の父は「猛のよかようにやればいいんですよ」といつもの豪快さはどこへやら、2代目に向ける眼差しはとても温かで優しげでした。

※値段はすべて税込(2016年5月現在)

お店情報

石挽き手打ち蕎麦地酒 木曽路

住所:福岡県福岡市中央区荒戸1-10-13

電話:092-712-8253

営業時間:11:00~LO14:30/17:30~LO21:00

定休日:日曜日

ウェブサイト:http://soba-kisoji.jp

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書いた人:

にぶん さぶろう

アマチュアバンドから、出版社のアシスタントを経てコピーライター事務所に潜り込んだはいいが、突如シャチョーが書けない病にかかり恋も仕事も経済的余裕も雲散霧消する中、ごくナチュラルに自立=フリーに。容赦のない大手企業から心温かな中小企業、果ては見知らぬ「トモダチのケッコンシキのアンナイジョウ書いて」までいぶし銀のMacでコチコチ、誰かのための生きる文字を綴る。コチコチ。

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