『園子温という生きもの』大島監督インタビュー「被写体が嫌がるドキュメンタリーはパワーがある」

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昨年『新宿スワン』『ラブ&ピース』『リアル鬼ごっこ』『映画 みんな!エスパーだよ!』と4本の新作が公開され、日本で最も多忙な映画監督となった園子温監督。ガジェット通信でも度々インタビューを敢行し、その発言を紹介してきました。

鬼才・破天荒・俳優に厳しいなど過激なイメージの強い園監督ですが、「それは園子温の一面でしかない」と園監督に376日に渡り密着したドキュメンタリー映画が『園子温という生きもの』。現在、新宿シネマカリテほか公開中です。

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本作でメガホンと撮ったのは、2014年に放送された「情熱大陸/映画監督・園子温」(MBS)を演出した大島新監督。番組放送後の2014年9月から開始された撮影は、2015年9月までの一年にわたって続けられ、雑誌で取り上げられることもあった園の密着ドキュメンタリーとは取材期間の長さ、濃密さにおいても一線を画するものになっています。

今回は大島新監督に作品についてインタビュー、ドキュメンタリーについて、園監督の魅力について、色々とお話を伺ってきました。

大島新監督

―『園子温という生きもの』大変面白く観させていただきました。監督が撮影された『情熱大陸 園子温』も拝見したのですが、映画になるとよりしっかりと園監督について知る事が出来たと感じたのですが、尺の長さは意識されましたか?

大島:僕はテレビの出身ですので、テレビ的な作り方に違和感を持っているわけでは無いんですよね。日々の忙しさの中でしっかり1時間、2時間の映像を観るのが難しい事もあるでしょうし、30分ほどの尺がちょうど良いというのも分かります。でも園さんに関しては、もうちょっと撮りたい、もっと長い時間でも観てもらえるだろうなと思ったんですね。とにかくはちゃめちゃですから、テレビのサイズでは収まりきらないんですよね。規制の厳しく無い映画で見せたいと。

『情熱大陸』の撮影時は、園さんが企画していない大手系の作品を手掛けていたので、“本来の園子温”というものを完全に撮れたわけではなかったんですね。それで、終わり頃に園さんの自主制作である『ひそひそ星』の撮影にもうすぐ入るという事を聞いて、『ひそひそ星』を作っている園子温を撮りたいと思いました。

―なるほど、園さんにとってより想いの強い『ひそひそ星』という作品に携わっている時だからこそ見える姿もあるのでしょうね。大島監督が園作品を初めてご覧になったのはいつですか?

大島:『紀子の食卓』ですね。初めて観た時はすごいな、と素直に思いました。その後の『愛のむきだし』からの活躍も見ていました。でも、人物ドキュメンタリーとしてこの人を撮りたい、人として興味を持ったのは震災後ですね。

―私も当時『ヒミズ』を観て、世の中的に「震災の描写を入れるのははやすぎる」という批判があった事もよく覚えています。原作ファンも多いですし。でも、そのチャレンジが素晴らしいと思いましたし、個人的にその選択がとても好きでした。

大島:僕も同感です。『ヒミズ』もそうですし『希望の国』は、もっとストレートに震災について描いているので、批判は多かったと思います。でもその批判している人間は何をやったのだ、と僕は心から思っていましたし、やらないよりは絶対やっている方が良いと感じたんですね。日本の表現者としては特異であり、良い仕事しているなと尊敬します。

―この『園子温という生きもの』では、そうした映画製作にまっしぐらな園監督も見れますし、一方で自宅にいる時の静かな静かな園監督も見れますし、すごく面白いですよね。

大島:園さんって普段はちょっと偽悪的というか、ヒールを演じている所がありますよね。昔は尖っている時もあったかもしれないですけど、今は全然。優しい方ですし。シャイです。この映画もご覧になっていただいたのですが、自分を観るのがイヤでずっと片目を閉じていたそうです。後は「俺がイヤなシーンに限って、皆が良いと言う」って(笑)。そう言っていただけたのは、僕としては成功だなと思います。

今までもそうなんですけど、被写体が手放しで喜んだものに関しては観る側からするとインパクトに欠けるんですよね。被写体のとっての何らかのイヤなものや見せたく無いものが写っている事が、ドキュメンタリーとしてパワーがあると言いましょうか。

―監督が個人的に印象に残っているインタビューやシーンはありますか?

大島:神楽坂さんが出ているシーンですね。最初は普通のインタビューだったはずが、あのシーン自体がドキュメントになったなと。後は、福島で現地のおじさんと園さんが話しているシーンがありますが、あそこは「僕が思う園子温」という姿で、良いなと思った場面は思い切って長く使っています。

―そうして色々な方にお話を伺って、改めて感じた園子温らしさというものはありますか?

大島:表現するという事への欲求がすごく強い。ただ、僕はこれまで色々な作家さんを取材させていただいて、第一線で活躍されている方は皆さんそうだと思います。園子温らしさというのは、なかなか言葉にするのは難しいのですが、ダメな所もいっぱいあって、それを隠さない所が良いな、と思うんですよね。

―今回、監督に取材させていただくにあたり、監督が園さんにインタビューをしている資料を拝見したのですが、「岩井俊二はこうだ」とか「是枝作品は」とか、園さんって結構他の監督の特徴を研究されているのだな、と驚きました。

大島:意外ですよね。特に岩井俊二監督や是枝裕和監督に対しては、「(自分は)同世代なのに遅れてきた監督」という気持ちが強いのではないでしょうか。園さんもデビューは早いんですけどね。その後映画を撮れなかった時期が長いと思うので。だからこそ今、すごい勢いで映画を撮られているのだなとも感じますし、表現方法の新しさもそうです。「映画はインターナショナルでなくてはいけない」と園さんが言っていますが、確かにそうだよなと思うんですよね。

―今後、大島監督が撮ってみたい、インタビューしてみたいと思う人物はいらっしゃいますか?

大島:今回、この作品を観てくださった方に言われて、自分でもやりたいなと思ったのは角川春樹さんです。僕はこれまで、唐十郎さんや、見城徹さんといった伝説的な人物も撮影させていただきましたが、面倒なオヤジ担当と思われているのかも(笑)。でも、自分でも確かにそういう所もあるかもしれない、と思うんです。それは僕が大島渚の息子であるし、ファザコンであるという事も関係しているのかもしれないですね。

―監督がこれから撮られる作品もとても楽しみにしております。本作の園監督もそうですが、角川春樹さんは今の若い方は詳しく知らない方も多いでしょうし、ぜひ若い方に観ていただきたいですよね。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

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『園子温という生きもの』
http://sonosion-ikimono.jp

(C)2016「園子温という生きもの」製作委員会

園子温監督の過去インタビュー

『新宿スワン』園子温監督&山本又一朗プロデューサーにインタビュー 二人をうならせた綾野剛の役者魂とは?
https://getnews.jp/archives/954194 [リンク]

『TOKYO TRIBE』園子温監督インタビュー「“日本映画はこうあるべき”って指令を受け取ってない」
https://getnews.jp/archives/654670 [リンク]

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藤本エリ

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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