コミュニティ賃貸ができて1年、住人・地域とのつながりはできた?

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コミュニティ賃貸ができて1年、住人・地域とのつながりはできた?

持ち家に比べ、短期間での住み替えがしやすい賃貸住宅。土地の水に合わなければすぐに転居できる気軽さの一方、ひとつの土地への帰属意識は薄くなり、深い地縁も生まれにくい。

そんななか、“コミュニティ賃貸住宅”をコンセプトに掲げ、住人同士、さらには住人と地域とのつながりを積極的に生み出そうとする物件がある。2015年春、東京の下町に誕生した6棟11室の賃貸住宅「PARCO CASA」だ。誕生から1年が過ぎた現在、コミュニティはどこまで醸成されているのか? 現地を訪ねてみた。

交流は住人の負担にならないペースで。ゆっくり、ゆっくりと

この日はちょうど、屋外共用スペースにて入居者同士によるバーベキューが行われていた。じつは『SUUMOジャーナル』では1年前、物件完成後ほどなく行われた交流イベントにも顔を出しているが、その時もバーベキューだった。さすがはコミュニティ賃貸住宅。常日ごろ、こうした活発な交流が行われているのかと思いきや…

「こうやって住人全員が集まるのは年2回だけです。春と秋のバーベキューのみ。今回が3回目ですね。それ以上やると、住人の方々にとっても負担になってしまうでしょ。それに、あまり頻繁だとせっかく集まる機会の重みもなくなる。ただ、回数が少ないぶん、住人にはなるべく参加してくださいと呼びかけていますし、みなさんこの数少ない機会を大事にしてくださっているように感じますね」

そう語るのは「PARCO CASA」オーナーの田口昌宏さん。2人の兄弟とともに物件の大家を務め、こうしたイベントをはじめコミュニティづくりの仕掛けも自ら発案している。

「このバーベキューも僕たち大家が発起人です。でも、もう3回目なので住人さんたちが主体的に動いてくれていますね。僕らがやったのは日時の調整と告知、備品の準備くらい。その他の段取りは住人同士が話し合って決め、前日までに各家庭で食材の下ごしらえなんかも済ませてくれていた。

もともとコミュニティ賃貸住宅の名のもとに集まってきた人たちなので、コミュニケーション能力も高いし、ご近所づきあいに抵抗がない。ここをつくったときに思い描いた、豊かな交流が育まれる賃貸住宅という理想に向けて、確実に前進していると思います。ただ、先ほども言ったように、住人さんに負荷がかかってしまうような過度な交流は今後も避けたい。ゆっくり、ゆっくりですね」(田口さん)【画像1】オーナーの田口さん(写真左)。住人にとっては頼れる大家さんだ(写真撮影:榎並紀行)

【画像1】オーナーの田口さん(写真左)。住人にとっては頼れる大家さんだ(写真撮影:榎並紀行)

町内会との接点をつくり、地域への帰属意識を高める

田口さんは「ゆっくり」という言葉を何度も口にする。住人同士の交流や地域とのつながりをさらに促進しコミュニティを強固なものにしていきたいが、そのスピードや距離感にはかなり気を配っているように見受けられた。

「ここは賃貸ですが、長く住む意向を持ってくれている人が多い。だからこそ時間をかけて住人と住人、さらには住人と地域をじっくり馴染ませていくことができるはずです。ただし、回数は絞りつつも互いに接点を持つ機会は絶やさないようにしていきたいですね」(田口さん)【画像2】バーベキューではあまりお目にかかれない、手づくりバウムクーヘンにも挑戦。こうしたメニューも住人からの発案(写真撮影:榎並紀行) 【画像2】バーベキューではあまりお目にかかれない、手づくりバウムクーヘンにも挑戦。こうしたメニューも住人からの発案(写真撮影:榎並紀行)【画像3】回す係は子どもたちに人気。行儀よく順番を待つ(写真撮影:榎並紀行)

【画像3】回す係は子どもたちに人気。行儀よく順番を待つ(写真撮影:榎並紀行)

完成と同時に入居した住人は2年目の春を迎えたが、この1年間で少しずつ地域との接点を持ち、帰属意識も高まっているようだ。

「PARCO CASAでは住人全員が町内会に加入しています。私が町内会の役員をやっていますので、町内会のお祭りや行事などにもご参加くださいと、住人の方にお声掛けさせていただいている。例えば昨年は3年に1度のお祭りが地域であったのですが、PARCO CASAからも何人か参加してくれました。あとは、物件の隣の公園での清掃活動とか、ラジオ体操、ビンゴ大会、正月の餅つきなんかにも少しずつ来てくれるようになっていますね。今年の夏は公園で盆踊りもやる予定なんです」(田口さん)

賃貸でそこまで密接に地域とつながることは珍しい。周囲との関わりを深め、顔なじみを増やすことは、例えば子どもの見守りや防犯・防災に対する共有意識にもつながる。また、地元のお祭りに参加し神輿をかつぐことは、子どもたちにとって一生の思い出になるだろう。

また、今回のバーベキューにはPARCO CASAのプランニングから関わり、管理も請け負うハウスメイトパートナーズの担当者も参加していた。大家と住人だけでなく、管理会社までもが近い距離でコミュニケーションしているのだ。こうして日頃から顔を合わせておけば、日々の暮らしで困りごとがあった際も気軽に相談しやすいに違いない。【画像4】台車で遊びだす子どもたち。誰かしら大人が必ず子どもたちの側につき、見守っていた(写真撮影:榎並紀行) 【画像4】台車で遊びだす子どもたち。誰かしら大人が必ず子どもたちの側につき、見守っていた(写真撮影:榎並紀行)【画像5】お兄さんに遊んでもらう少年。いい笑顔だ!(写真撮影:榎並紀行) 【画像5】お兄さんに遊んでもらう少年。いい笑顔だ!(写真撮影:榎並紀行)【画像6】一方、年長組はしっかりお手伝い(写真撮影:榎並紀行)

【画像6】一方、年長組はしっかりお手伝い(写真撮影:榎並紀行)

とはいえ、まだまだ種蒔きの段階。ゆくゆくはPARCO CASAの住人から町内会の運営に関わる人材が出てきてほしいと田口さんは願っている。

「このあたりの地域は高齢の住人が多く、若い世帯が少ない。だから町内会としても、若い賃貸の入居者の方が運営に参加してくれることは大歓迎なんです。長く住んでいると見えにくくなっている細かい問題点も、外から来た人のほうが敏感に察知できたりしますからね。まずは気楽なイベントから参加してもらって、少しずつ次のステージに移行していく道筋をつけるのが私の役目だと思っています。それも3年くらいかけて、徐々に徐々に、ですね」【画像7】バウムクーヘンも徐々に形になってきた(写真撮影:榎並紀行)

【画像7】バウムクーヘンも徐々に形になってきた(写真撮影:榎並紀行)

課題は後継人づくり。地域を次世代へ引き継ぎたい

住人にも話を聞いてみた。

「全ての住人の顔や名前が分かるというのは、やはりすごく安心ですよね。こうしたバーベキュー以外にも、住人同士でホームパーティーをやったり、ボウリングに行ったりと、交流も生まれています。ただ、みんな仕事もライフスタイルも異なるので、互いの負担にならない距離感は保っている。それは田口さんの意向もあるし、住人自身も無理のない心地よいコミュニケーションを心がけているように感じます。

地域の行事への参加も、あらかじめ田口さんが情報を絞って、参加しやすそうなものだけをこちらに伝えてくれる。コミュニティ賃貸というとベタベタした交流があるようなイメージですが、決して押しつけがましくない、ちょうどいいつながり方ができていると思います」(20代ファミリー・入居歴1年)

「以前は葛飾に住んでいて、3日前に越してきたばかりです。葛飾では特にご近所づきあいはなかったので、こういうコミュニティがあるのは心強いし、これからの暮らしにワクワクしています。特に子どもにとってはすごくいい環境だと思いますね。防犯面で安心というのもありますが、家族だけでなく、住人や地域の大人たちと接する貴重な機会を与えてあげられる。幼いころから大人にふれあい慣れておくのは、子どもの将来のためにも良い経験になると思います」(20代ファミリー・入居歴3日)【画像8】新旧の入居者によるLINE交換の図。日々のコミュニケーションはSNSで行うという(写真撮影:榎並紀行) 【画像8】新旧の入居者によるLINE交換の図。日々のコミュニケーションはSNSで行うという(写真撮影:榎並紀行)【画像9】こちらではプチママ会が発足(写真撮影:榎並紀行)

【画像9】こちらではプチママ会が発足(写真撮影:榎並紀行)

どうやら田口さんの思いは、住人にも伝わっている模様。最後に、PARCO CASAが目指すゴールを聞いてみた。

「最終的にはここの住人のなかから、私の後継人をつくっていきたい。私も10年後は60歳になり、今のように第一線で活動できることは限られてきますから。町内会でも発言力を持ち、地域活動の担い手となれる人が出てきてくれればいいなと思っています。地域というのは次の世代へと引き継いでいかなければなりません。とても大きな課題ですが、やはり少しずつ進めていきたいですね」(田口さん)●取材協力

・PARCO CASA
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