定年後に親と同居[後編] 38年ぶりに親と暮らすということ

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定年を機に妻と猫4匹と、東京のマンションから関西の実家にUターンして二世帯居住を始めた筆者。前回は会社に行かなくなったことによる生活の変化についてお伝えしました。今回は、38年ぶりに一緒に暮らした親との生活の違いについて紹介します。

思ったほど不便でなかった一戸建て暮らし

Uターン前は、築浅のマンションから築20年の一戸建て住宅への移転だけに、ディスポーザーや食器洗浄機、宅配ボックスがなくゴミ出しも不自由な、何かと不便な暮らしを想像しましたが、案外なんとかなるものです。なぜなら、高齢二世帯の暮らしなので、ゴミの量自体がそれほど多くないうえ、あわただしく出勤する必要もないので日々のゴミ出しも面倒ではないからです。また、誰かが在宅しているので宅配便もたいてい受け取れます。

さらに、近隣への騒音を気にして会話や動作を自主規制しなくてよいのも楽です。もっとも、耳の遠い親と一緒に見るテレビの音量の大きさや、大声を出さないと成立しない会話には疲れます。マンションと違ってペット飼育が自由な点も一戸建ての魅力です。実は、親が動物嫌いのため一部屋を猫専用に改修しましたが、これには猫の飼育と住宅のあり方を研究した前職の経験が活きました。

とはいうものの、住宅設備面では不満も少なくありません。例えば、底冷えともいえる1階の寒さは、マンション生活に慣れた人間には耐えがたいものです。エアコンでは床面の冷たさを解消できず、妻が菓子づくりやお茶飲みに使う予定だったダイニングキッチンは休業状態です。床暖房の標準装備や床下の断熱性能強化など、住宅関係者は、建築時に改善提案をしてほしいものです。

また、数年前、断熱性能を上げるため窓ガラスを複層ガラスに交換したのですが、予算上の都合でサッシ部分はふるいものをそのまま使用したため、防音性は低いし、結露も生じます。防犯用の窓シャッターはずっと閉め切っていたため動きが悪く、背が低く非力な高齢者には上げ下ろし自体困難です。主要な窓は電動シャッターになっているのですが、モーター寿命はあと2、3年と宣告されています。窓に限らず、屋根の劣化したガレージや、使い勝手が悪く手入れの面倒な洗面台、水量の調整ができないトイレを使うにつけ、一戸建て住宅も修繕資金を積み立てておく必要性を強く感じます。

最大の問題は親との生活価値観の違い

しかし、住宅の構造や設備より大きな問題は、生活の価値観の違いです。同居してすぐに感じた違和感の正体は、効率重視で時間を金で買うことを厭わず、消費は美徳という私たち昭和30年代生まれの生活様式と、節約こそ美徳で、物を大切に使い、手間暇かけてもたいていのことは自分でやる昭和一桁生まれの生活様式との違いです。特に、3.11でにわかに省エネに目覚めた私たちと違い、節電・省資源・リサイクルの実践にかけて彼らは筋金入りです。

例えば、洗濯物は少々天気が悪くても天日干しが一番と、浴室乾燥機があってもほとんど使いません。暖房が効かないなどとキッチンの換気扇もあまり使わないので、料理の匂いが家中に充満します。

エアコンや照明をつけて少し部屋を離れていただけでスイッチを切られてしまうことも多く、まるで人間版「人感センサー」です。

母が嫁入りで持ってきたほうろう製のボールは現役で、銀行からもらった湯飲みも三十年は使っています。食器は割れるまで使うので、収納棚には引き出物の食器類が何十年も使われずに眠っています。ただ、どの戸棚にもトイレットペーパーが溜め込まれているのは、買い占めが騒動になった1973年の第一次石油危機のトラウマでしょうか。

生活を完全二世帯分離としなかったため、一緒にする食事もなかなかなじめません。ダイエットと称して五穀米を食べつつ、ジャンクフードも大好きな私たちには、油分がやたら少ない優しい味の食事が続くと、無性に餃子や豚骨ラーメン、ハンバーガーやフライドポテトが食べたくなります。

円満な同居は共感と思いやりから

結局、同居して1カ月を過ぎたころから、まだ適応力の残っている私たちの方が、両親の生活習慣を受け入れながら少しずつ歩み寄って行くしかないかな、と考えるようになりました。

和食中心ながらも肉と魚の動物性タンパク質もしっかり摂るバランスがとれた規則正しい食習慣、往復30分以上歩く通院や毎日の買い物、庭の草花の手入れなど、適度な運動を欠かさないこと、傍から見ればケンカのように見えながらも途絶えない夫婦の会話などが、健康で長生きの秘訣だと納得するようになったからです。また、世帯収入の多くを年金に頼るようになった私たち夫婦が、消費は美徳などといった生活を続けられるわけもなく、支出を賢くコントロールせざるをえないのも現実です。

「子供叱るな、来た道だもの、年寄り笑うな、行く道だもの」という言葉があるそうです。ゴルフが長年の趣味だった父親が体力の衰えを理由に辞めることをゴルフ仲間に告げる電話を聞いてしまった時(耳が遠いのでどうしても大声になり、隣の部屋まで聞こえてきました)、嫁入り道具の桐のタンスが粗大ごみとして粉々に砕かれるのを黙って見つめる母親を見た時、この言葉を思い出しました。最後の時まで、機嫌よく暮らしてくれたらそれが一番、今はそんな思いが強くなりました。

同居を始めただけで試行錯誤の連続でしたが、今後は親の介護と看取り、兄弟円満な相続、家族の墓をどうするかなど課題が山積するだけに、まさに「戦いはまだ始まったばかり」です。

最後に、子どもたちや可愛い盛りの孫たちを東京に残して義理の父母と同居することをすんなり受け入れてくれた妻に最大級の感謝をささげます。
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