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渡り鳥プロジェクト —わたしの仕事はどこでもできる—

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みなさん、はじめまして。リクナビNEXTジャーナルで映画コラムを書かせてもらっている、ライターの松岡厚志と申します。明日で38歳、一児の父です。

実は僕にはライター以外にもうひとつ顔があります。都内に拠点を構えるデザイン会社の経営者という顔です。

社名は「ハイモジモジ」と言いまして、社員は僕と妻のふたり。パソコンのキーボードのすき間に立てる動物型の伝言メモ「Deng On(デングオン)」や、腕に巻いて忘れものを防げるリストバンド型メモ「LIST-IT(リストイット)」など、これまでスマッシュヒットをいくつか飛ばしてきました。主に文房具を手がけることが多いことから、最近は「ベンチャー文具メーカー」と呼ばれることもあります。

これまで6年間、夫婦二人三脚で活動してきましたが、7年目を迎えた今年は思いきって「働き方を変えよう」と思っています。そして今、ある計画を立てています。その名も「渡り鳥プロジェクト」。これから進捗を綴っていきますが、もしかしたらみなさんにとっても、働き方を見つめ直すヒントにつながるかもしれません。どうぞお付き合いください。

働き方を変えたい

僕たちはあくまでベンチャー、言うなればチャレンジャーの立場です。常にアイデアを生み出し、ヒットにつなげることで成り立つような会社ですから、まずアイデアありき。大手が考えもつかなかったような、大手じゃないからこそ実現できるようなアイデアをかたちにし続けることが会社の存続に直結します。

それなのに最近は働き方や考え方が硬直しているなあと感じる場面が増えてきて、少し不満があるんです。6年も同じように働いてきましたから、マンネリ感があるのかもしれませんね。もっと軽やかにアイデアを生み出して、世の中をあっと驚かせたい。思わず膝を打つような発想をかたちにしたい。それには今の働き方を見直して、仕事のアップデートを図る必要があると考えました。

たとえばこれまで大きなデスクにパソコンを2台向き合うように並べて座り、アイデアを思いついたらすぐ目の前に話す相手がいる状況を作ってきました。思いつきレベルの萌芽も逃してしまわないように。ところが、お互いの集中しかけた仕事の邪魔をしてしまう場面も増えてきたため、それぞれの個室に作業場を分けることにしました。おかげで作業と話し合いの時間にメリハリをつけられて、今のところ快適です。

さらに僕の個室では伝票出力や会計処理といった事務作業を集中的に行うためにイスをなくして、お腹のあたりまで高さがあるデスクにパソコンを置いて、立って仕事をするようにしました。早く終わらせて腰を下ろしたいから、効率的に済ませようという考えが働いて、時短になるはずなんですね。そうして生まれた余白の時間をクリエイティブに費やしたい。勤務中に立ち続けると運動不足の解消になるのでは、という下心もあります。効果のほどについては検証を始めたところです。

ただ、もっとドラスティックに働き方を変えたい。

あれこれ思い悩んでいた僕は、ある考え方と出会います。それは『北欧、暮らしの道具店』を運営するクラシコムの代表取締役、青木耕平さんの「理想から逆算して考える」というもの。同氏は「社員は必ず18時に退社する」という働き方の理想を掲げ、実現するために「何をして」「何をしないか」を徹底的に突きつめているそうです。結果的にそうなればいいなと甘い期待を寄せるのではなく、まず理想の地点に立ってみて、阻むものを取り除いていく。

これだ! 今の僕に必要なのはこの「理想から逆算する考え方」だと、はたと膝を打ちました。

渡り鳥になりたい

自分にとって理想の働き方って何だろう。そう自分に問いかけたとき、リトル松岡がこんなことを言いました。「渡り鳥になりたい」と。

渡り鳥。それは食料や生殖環境を求めて、定期的に長い距離を移動する鳥のこと。たとえばツバメは冬のあいだは南国で過ごし、春になると日本にやってきて繁殖期を迎え、終わるとふたたび南の方へ飛んでいく。生きるため、あるいは子孫繁栄のために最適な場所を求めて、彼らは季節ごとに複数の拠点を行き来するんですね。

人間の仕事もある意味「生きるため」ですから、渡り鳥を見習って、より良い環境を求めていいはずです。映画『西の魔女が死んだ』の中に、「シロクマがハワイより北極で生きることを選んだからといって、誰がシロクマを責めますか」というセリフがありますが、人間だって生きやすい場所を求めて移動していいんです。僕だって、快適な環境を求めてツバメのように渡りたい。

革新的なITベンチャーがシリコンバレーから生まれ続ける背景に「お天気」があると聞いたことがあります。晴天に恵まれた温暖な土地だからこそ、人々が過ごしやすく、それゆえクリエイティブなアイデアが生まれるのだと。シリコンバレーに行けば誰でも成功できるとは限りませんが、少なくとも大雨でずぶ濡れになりながら出勤したり、満員電車に揺られて一日分の体力を朝のうちに消耗してしまうような働き方よりは、たしかに時間も気力も体力もクリエイティブに費やすことができそうです。

幸い、日本の国土は北海道から沖縄まで南北で温度差がありますから、国境を越えずとも国内で渡り鳥になれます。暑い季節は涼しいところで、寒い季節は暖かいところで過ごすことで、仕事のパフォーマンスを上げることができるはず。そのためには拠点を2か所以上もって、より過ごしやすい環境のもとで、いつもと同じように仕事ができれば理想的ですよね。

繰り返します、僕は渡り鳥になりたいのです。

ハワイでも働けた

4年ほど前のことになりますが、その夏、僕たち夫婦はハワイに行きました。完全なプライベートで、ハワイ島とオアフ島を4泊ずつ過ごし、久しぶりに訪れた南国を心から満喫していました。

ただ、お盆のシーズンは旅行費が高騰するため、滞在期間を少しずらしたんですね。つまり世間的には通常営業日。小売店から注文を受けて商品を納めなければならないメーカーの立場からすれば、基本的にはカレンダー通りに営業するのが望ましいのですが、あのときは取引先にも「お休みします」と案内することなく海を渡りました。

なぜそんなことが可能になったかというと、当時アルバイトをふたり雇っていたからです。渡航前に教えてあったやり方で受注や出荷に対応してくれ、大変助かりました。ホテルでWi-Fiを使うことができ、何か急な用事や分からないことがあったらLINEで連絡を取り合いました。電波が弱くて音声通話は心もとなかったのですが、ホテルの部屋にあった黒電話で国際電話をかけることもでき、大きなトラブルもなく一週間を乗り切ることができました。

「あ、できるな」と思いました。日本にいなくても仕事ができる、と。

もちろん当時はアルバイトの助けがあったからこそですし、今は誰も雇っていないので、別の方法を考えなければなりません。そもそもハワイにいるときは浮かれて頭のなかがアホになるので「仕事をする気にならない」という問題もあります。準備不足は露呈しましたし、課題も少なくありません。ただ、やり方次第では「国内の事務所に留まらずとも仕事はできる」と、このとき確信しました。

いつでも親に会いにいく

僕は今、30代の後半ですが、離れて暮らす両親は高齢者の域に入りました。変わらず元気ですし、年齢的にもまだまだ若いですが、この先なにがあるかは分かりません。

以前、母がバス旅行に出かけたとき、2階建てバスの階段を上ろうとしたら、足を踏み外したのかうしろ回りにゴロゴロゴロ~と転がり落ちたことがありました。母はバレーボールの経験があり、回転レシーブよろしく受け身がうまく取れたのか、そのときはまったくの無傷で済んだと笑っていました(想像するとちょっと面白い)。でもまたいつ転がり落ちないとも限りませんし、そんなときに「仕事で手が離せないから今すぐお見舞いにはいけない」なんて薄情なことを言う息子にはなりたくないのです。

たとえばタレントさんは「親の死に目にも会えない仕事」と言われます。社会のインフラを支える大切なポジションにある方は忌引さえも取りにくいことも承知しています。ただ、多くの観客を引きつけるメジャーリーガーだって、仕事より家族を優先するではないですか。奥さんの出産と全豪オープンの決勝が重なったら出産に立ち会うと公言した、テニスのマレー選手のような例もあるではないですか。事情やお国柄はさまざまですが、親の死に目に会うのも叶わず働きつづけることは、それほど美徳なことでしょうか。

リリー・フランキー著『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』のなかで、オカンが亡くなった直後に締め切りを催促され、憤りつつもプロとして原稿を仕上げるシーンが出てきますが、そもそも仕事によってはオカンのそばにいることさえできなかったかもしれません。その身ひとつで原稿を書く、というお仕事だったからこそ、「ボク」はオカンのそばに居続けることが可能だったわけで。

幸い、僕の仕事もそれができる。「いつでも、どこでも同じ仕事ができる」環境さえ整えておけば、何があっても対応できる。「渡り鳥になりたい」という願望は、実は非常時への備えでもあるのです。

始まる渡り鳥プロジェクト

本連載では、渡り鳥になるために「何を準備して」「何がハードルとして立ちふさがるのか」を検証しながらお伝えしていきます。まだ羽も生えていない状態で、個人的なお話が中心ですが、少しでもみなさんのヒントになれば幸いですし、逆にアドバイスをいただけると嬉しいです。

次回は「そもそもなぜ上京したのか」「都会で働くメリット、デメリット」を引き合いに出しながら、「渡り鳥として飛び立つ心構え」をお伝えしていく予定です。

以後よろしくお願いいたします。

文:松岡厚志

1978年生まれ、ライター。デザイン会社「ハイモジモジ」代表。主な移動手段は電車と自転車。バイク並にタイヤが太い「FAT BIKE」で保育園の送り迎えを担当し、通りすがりの小学生に「タイヤでっか!」と後ろ指をさされる日々。

イラスト:Mazzo Kattusi

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