ガジェット通信

見たことのないものを見に行こう

泰斗・重鎮・権威・鬼才 すぐれた人の称号の使い分け方

DATE:
  • ガジェット通信を≫

 泰斗、重鎮、鬼才……去年から今年にかけてきら星のような「枕詞」がメディアに並ぶ。あなたはこれらの言葉を正確に使い分けることができるだろうか。フリーライター・神田憲行氏が紹介する。

 * * *
 これらの「称号」が枕詞のように登場するのは、憲法学の世界だ。恐らく30代半ばの木村草太・首都大学東京教授がマスコミに登場したときに、「新進気鋭」とメディアが呼んだことから始まったと思われる。

・新進気鋭……新進(新たに進み出た人)で意気込みが鋭いこと。(「広辞苑第6版」より。以下、語釈は同書から)

 そのあと「重鎮」と呼ばれる学者たちも出た。「憲法改正の真実」(樋口陽一・小林節著 集英社新書)では、小林・慶応大名誉教授が

《ここではあえてマスメディアがつける枕詞を借りて乱暴にまとめると、樋口先生は「護憲派」の泰斗、私は「改憲派」の重鎮と言われてきた憲法学者です》

 と自ら紹介している。

・泰斗……(泰山や北斗のように)その道で世人から最も仰ぎ尊ばれている権威者。

・重鎮……ある方面で重きをなす人物。

 また私自身、長谷部恭男・早稲田大学教授を「学界の権威」、故・芦部信喜・東京大学名誉教授を「最高権威」と枕詞を付けたことがある。

・権威……その道で第一人者として認められていること。また、そのような人。大家。

 さらにここにきて、あまり見掛けないであろう「枕詞」も出てきた。毎日新聞が5月6日付けの記事で、石川健治・東大教授を《「現代憲法学の鬼才」と評される》と紹介したのである。

・鬼才……人間のものとは思われないほどすぐれた才能。また、その才能を持った人。

 もう大変な事態なのである。重鎮も新進気鋭も泰斗も鬼才もいるのである。こうした枕詞、「称号」はどのような判断で付けているのか。新聞社の整理部デスク(雑誌で編集者に相当)によると、

「いずれも主観的な人物評価だから、むしろ使うのを回避したい言葉です。ただ、例えば『重鎮』だと、そおおむねそうした評価が一致する人、あるいは、ある程度多数の関係者がそうにした形容で違和感ない場合には使います。使い分けにとくにルールがありませんが、こちらから積極的に付けるというより、周囲の評判が基本です」

 では「天才」はどうか。「天才物理学者」とは聞くが、「天才憲法学者」とはなにか馴染まない。

「天才といえば、ある意味で発想や解釈の唐突さみたいな部分を指すと思う。法の話などは解釈の積み重ねや、これまでの研究史からいって、あらたにすごい憲法解釈がポンと出てくるようなものでもないので、なかなか天才という形容には至らないのじゃないかと思います」

 すると「鬼才」は問題にならないのか。

「問題ないと思います。辞書的には天才は生まれつきの才能を指しますが、鬼才は鋭い才能、卓越した才能の持ち主を指す言葉ですので、憲法解釈なんかで、他の研究者とはちょっと違う独特の鋭い解釈をされる方なら、違和感はない」

 なるほどぉぉぉぉ!

 ところで「鬼才」と聞くと、私が想い浮かべるのは升田幸三や坂田三吉といった伝説的な棋士たちである。今の将棋の世界にも「枕詞」は多いのか、将棋担当記者に聞いた。

「『権威』は使いませんが、『大家』とはいいますね。他に大御所、新鋭、俊英といったところでしょうか。あくまでイメージで、序列のような意味はありません」

 そこでこの記者が枕詞を付けた棋士と憲法の先生を並べて見た。

・重鎮……小林慶大名誉教授と加藤一二三九段

・気鋭……木村首都大学東京教授と永瀬拓矢六段

・鬼才……石川東大教授と糸谷哲郎八段

「加藤九段は現役最年長なので。永瀬六段は23歳でタイトル戦の棋聖戦で挑戦者になりました。鬼才は、最近は似たような将棋が多い世界なのでなかなかぴったりハマる人が上位クラスの棋士にいないのですが、早指しで鳴らす糸谷八段を推しました」(将棋担当記者)

 こうやって棋士に当てはめてみると、それぞれの憲法学者の立ち位置がよくわかるだろう(えっ、わからないですか?)。

 残念なのは会社の中で使われる枕詞が、「営業のエース」ぐらいが良い意味で、あとは「○○グループの天皇」「秘書課のお局」「専務の懐刀」など、どちらかというとひそひそ話でしか語られないことである。枕詞はその人の紹介である同時に、その業界の隆盛を演出する効果もある。そこでこれからは「総務の鬼才」とか「新進気鋭の経理」とか、いろいろお互い名付けあってはみてはどうだろうか。なんだか自分が凄い会社にいる気分になれること請け合いである。実際と離れすぎていて後から寂しさが襲ってくるかも知れないが、それはそれとして。

【関連記事】
SAPIO人気連載・業田良家4コママンガ「憲法学者」
拒否権に近い参院の権限は民主制の要件から見て問題との指摘
安保法案に反対する学者たちが「ケンカを買った」 その余波

NEWSポストセブンの記事一覧をみる ▶
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

TOP