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タクシー 「ちょい乗り」値下げ案は本当に有効なのか

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 米国ニューヨーク=280円、英国ロンドン=388円、これは何の値段か分かるだろうか──。タクシーの初乗り料金である。

 メーターが上がるまでの距離こそ、それぞれ320m、260mでまちまちだが、日本の首都・東京都心部のタクシー初乗り料金は「2km730円」と、一見割高なイメージがある。そこで、「日本のタクシーは高すぎる」との国際的な批判を抑える目的もあり、来年より値下げされる公算が高まった。もちろん、外国人が多く訪れる東京五輪も見据えての改定だ。

 国交省の値下げ要請を受け、大手タクシー会社の日本交通が出している新しい料金プランはこうだ。初乗り距離を現行の2kmから約1kmに縮め、運賃は730円から410円に値下げする。また、初乗り距離後、280mごとに90円加算されていた仕組みも見直し、237mごとに80円加算へと変更する。

 この新料金が適用された場合、どの程度安くなるのか。結局は2km未満しか乗らない近距離移動、いわば“ちょい乗り”の客にとっては現行料金より安く便利になるものの、2kmを超えた時点で現在と変わらず730円となり、逆に10kmほどの中距離を乗ると約3%値上がりする計算になる。

 国交省や値下げに前向きなタクシー会社の見立ては、外国人観光客のみならず、高齢者の買い物や病院への送迎など、短距離乗車のニーズをさらに汲み取ることで収入減を補おうというわけだ。東京ハイヤー・タクシー協会の調査でも、23区内では3割弱の客が2km以内で下車しているデータが出ている。

 だが、ちょい乗りならば、今の半額でタクシーに乗れるようになる──などと思ったら大間違いだ。現在のタクシー運賃は「時間距離併用制」で、〈時速10km以下で走行した場合、1分45秒までごとに90円加算〉されることになっている。つまり、同じ距離を乗っても、赤信号や渋滞につかまることが多ければ、料金に差が出てくる。

 例えば、よく短距離移動のモデルケースとして紹介されている下町の観光名所「東京スカイツリー」から「浅草寺」間ですら、道路状況によって初乗り運賃を大きく超えることもある。

 タクシー料金の目安を表示してくれる自動車ルート検索のナビで調べてみると、スカイツリーから浅草寺の距離は約2.6kmで、乗車時間は約10分、タクシー料金は910円と弾き出される。

 しかし、下町界隈を運転する法人タクシーのベテラン運転手に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「確かに王道のルートで順調に行けば910円ですが、途中赤信号で止まることも多いですし、週末ともなると渋滞もしょっちゅうあるので、1000円かかることも珍しくありません。スピードの遅い観光バスにつかまって1090円になることもあります。

 結局、初乗り距離の2kmといっても、高速道路などノンストップで走った場合の基準で、東京のように信号や渋滞の多い道路では、時間メーターも作動するので感覚的には1メーターで1.6kmぐらいしか走れないと思います」

 これでは初乗り料金を低めに抑えても、割安感は薄い。〈混んでいる道路でちょい乗りするぐらいなら歩いたほうがマシ〉との声も出る中、本当にタクシーの利便性は高まるのだろうか。

「かつて1997年から5年間、東京23区内で営業する16社が『初乗り1kmまで340円』の格安料金を引っ提げて走ったが、採算が取れずに元の料金に戻した経緯もある。

 今後、埋もれた“ちょい乗りニーズ”がどのくらいあり、値下げによってドライバーの労働条件も守れるのか、きちんと実証していく必要がある。その方向性を見誤れば、業界全体がますます苦戦を強いられる結果になる」(経済誌記者)

 これまでタクシー業界は国の規制に振り回されてきた感は否めないが、今度は新たなライバルも無視できない。一般のドライバーが空いた時間を利用して乗客を運ぶ「ライドシェア」と呼ばれるサービスだ。安倍政権もライドシェアの一部解禁を容認している。

 価格による顧客の奪い合いが起き、質やサービスの低下が目立ってくれば、それこそ日本のタクシーは世界から汚名のそしりを免れないのではないか。

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