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本屋大賞『羊と鋼の森』 大自然での暮らしから生まれた作品

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 第13回本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』の著者・宮下奈都さん(49才)が作家デビューをしたのは36才のとき。当時、主婦だった宮下さんは、どうやって今日に至ったのだろうか?(取材・文/佐久間文子)

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 話題作ぞろいの候補10作の中から本屋大賞に選ばれたとき、宮下さんは、驚いたあとで不安な気持ちに襲われたという。

「私の本が大賞でいいの?って。でも、授賞式で推してくださった書店員さんたちの笑顔を見て、不安なんて言ったら失礼だ、素直に喜んで賞をいただくのがいちばんいいんだって思いました」

 福井在住なので、地元の書店以外はあまり書店を回ったりもできない。

「それでも応援してくださるのは、本当にありがたいし、うれしいです。私は、書店員さんは読者の代表だと思っているので、この人たちを裏切るものは書けないな、という気持ちになります」

 思えば、宮下さんの『スコーレNo.4』という小説も、書店員たちが独自にこの文庫本を売ろう、とツイッターで盛り上げたのだった。

「これまでは、せっかく薦めてくださっても、私の本はそんなに売れなかったので、本屋大賞に選んでいただいたことで、やっと、少しはご恩返しができるんじゃないかといううれしさもあります」

◆何かやらないと人生は子育てに塗りこめられる

 大学卒業後に勤めた会社で知り合った4才年上のご主人と結婚、専業主婦になった。高校生の男の子2人と中学生の女の子の母親でもある。初めて小説を書いたのは2004年、長女を妊娠中のときで、文學界新人賞に応募して佳作に選ばれ、作家デビューした。

「ホルモンの影響としか思えないんですけど、今何かやらないと、私の人生は子育てに塗りこめられてしまう、って気持ちに突き動かされたんです。夫は仕事がすごく忙しくて、全部自分でやらなくてはいけない。2人なら手をつなげるけど、3人目はどうしたらいいの、って不安で、そうやって子供が生まれることを否定的にとらえてしまう自分もいやでした」

 あのとき必死につかんだのがなぜ小説だったのかは、今もわからないという。

「紙と鉛筆があれば書ける、というのは大きいけど、もし目の前に刺繍の道具があれば刺繍だったのかも。書くことはすごく楽しくて、ずっとホルモンが出続けているんですかね(笑い)」

 北海道に住みたい、という夫の一言で、2013年4月から1年間、大雪山国立公園内のトムラウシ山のふもとで家族5人、大自然に囲まれて暮らした。受賞作の『羊と鋼の森』は、この経験があったからこそ生まれた作品である。

 トムラウシは、アイヌの言葉で「花の多い場所」を意味する。「カムイミンタラ(神々の遊ぶ場所)」とも呼ばれる美しい土地は、家から最寄りのスーパーまで37km、テレビの難視聴地域で、小中学校の生徒数は宮下家の3人を入れて15人だった。

「いきなり夫が山の中に住みたいと言い出したときは、“ありえない”と思いました。長男が中3になる直前で、受験を考えたら無理だと思ったんですけど、子供たちが“あ、いいね”と言ったんです。それを聞いて私も、“そうかー、いいのかー”って」

 宮下さんの結婚は、彼女の「ひとめぼれ」だったとエッセイに書いている。

「ちょっと恥ずかしいですけど、結婚して“当たりだった”とも思います。私が小説を書くことを彼は全面的に“いいね”と言ってくれるので、彼のやりたいこともできるだけ尊重したい。実際に面白いことも多くて、私1人だったら気づかなかったことを、夫からも子供たちからもいっぱい教えてもらっています」

※女性セブン2016年5月12・19日号

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