マンションの防災力を高めよ! 居住者参加率63.5%の防災訓練レポート

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マンションの防災力を高めよ! 居住者参加率63.5%の防災訓練レポート
マンションの防災力を高めよ! 居住者参加率63.5%の防災訓練レポート

4月14日夜、熊本地方で発生した「平成28年(2016年)熊本地震」。49人もの尊い命を奪い、けが人も1000人以上発生、そしていまなお数万人規模の人が避難生活を強いられている(4月26日現在)。被災地では、水や食料などの物資不足が深刻化したことも度々報じられ、避難生活で体調を崩すなど二次被害も報告されている。

大規模マンションだからこそ必要な備えとは?

震災によって直接の難を逃れたとしても、その後すぐに平穏な生活に戻れる確率は極めて低い。特に、高度な耐震性を誇るマンション居住者の場合、避難所に入れないケースも多いという。震災後は避難所に被災者が殺到し、自宅が倒壊した人を優先的に受け入れるためだ。そこで大切なのは、いざというときマンション居住者同士が手を取り、支え合うコミュニティや心構えを日ごろから醸成しておくこと。日々の防災訓練なども、よりリアルな被災状況を想定したプログラムが望ましいだろう。

SUUMOジャーナルでは、4月17日に千葉県習志野市のマンション「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」で実施された大規模な防災訓練に参加。従来の防災訓練から一歩踏み込んだプログラム内容を取材した。

マンションコミュニティの結束が災害後の生活を支える

2013年に竣工した同マンションで、防災訓練が行われるのは昨年に続き2回目。今回は、マンション内に留まらず、街を意識したプログラムが展開された。

この日は、熊本地震から3日経った4月17日の日曜日。強風が吹きすさぶなか安否確認訓練は、全721世帯中63.5%にあたる458世帯が参加。震度5の地震を想定した訓練が行われた。【画像1】8時45分に安否確認訓練開始の館内放送が流れる。各戸のドアには安否確認シートが続々と貼られた(写真撮影/末吉陽子) 【画像1】8時45分に安否確認訓練開始の館内放送が流れる。各戸のドアには安否確認シートが続々と貼られた(写真撮影/末吉陽子)【画像2】マンションの防災理事を中心に、各戸を周りトランシーバーで安否情報を収集(写真撮影/末吉陽子) 【画像2】マンションの防災理事を中心に、各戸を周りトランシーバーで安否情報を収集(写真撮影/末吉陽子)【画像3】9時15分、避難訓練開始の館内放送が流れ、芝生広場に居住者が続々と集まりはじめた。各棟のブロックごとに整列し、自己紹介をはじめる。初めて顔を合わせる人も多く、どことなくぎこちない雰囲気も漂うが終始にこやかに進行(写真撮影/末吉陽子) 【画像3】9時15分、避難訓練開始の館内放送が流れ、芝生広場に居住者が続々と集まりはじめた。各棟のブロックごとに整列し、自己紹介をはじめる。初めて顔を合わせる人も多く、どことなくぎこちない雰囲気も漂うが終始にこやかに進行(写真撮影/末吉陽子)【画像4】居住者全員に配られているという防災バッグのなかには、「笛」「ウォータータンク」「手動のラジオ」「携帯の充電器」「簡易トイレ10回分」が入っている(写真撮影/末吉陽子) 【画像4】居住者全員に配られているという防災バッグのなかには、「笛」「ウォータータンク」「手動のラジオ」「携帯の充電器」「簡易トイレ10回分」が入っている(写真撮影/末吉陽子)【画像5】続いて習志野市消防本部による、40m級はしご車を使用したデモンストレーションが行われた。「災害が起きたとき、我々がすぐに皆さんのもとに救助に来られるかどうかは分かりません。自分の身は自分で守るということを忘れないでください。そして訓練を

【画像5】続いて習志野市消防本部による、40m級はしご車を使用したデモンストレーションが行われた。「災害が起きたとき、我々がすぐに皆さんのもとに救助に来られるかどうかは分かりません。自分の身は自分で守るということを忘れないでください。そして訓練を”身になる訓練”にしてください」と話す谷津出張所の鈴木副所長の言葉に、参加者の表情が引き締まる(写真撮影/末吉陽子)

10時をまわると、7つの防災イベントが展開された。【画像6】各戸のバルコニーの仕切りとして使われているパーテーションを、実際に蹴破る訓練。マンションでは玄関から出られなくなったときにバルコニーから脱出することが必要となる。足や身体で破ると抜けなくなることがあるため、鍋やペットボトルなどを使用すると良いそう。「思ったより固くて難しかった」(小学校5年・男子)、「1カ所穴が開くと楽ですが、女性の力だと大変かも」(38歳・女性)という声も(写真撮影/末吉陽子) 【画像6】各戸のバルコニーの仕切りとして使われているパーテーションを、実際に蹴破る訓練。マンションでは玄関から出られなくなったときにバルコニーから脱出することが必要となる。足や身体で破ると抜けなくなることがあるため、鍋やペットボトルなどを使用すると良いそう。「思ったより固くて難しかった」(小学校5年・男子)、「1カ所穴が開くと楽ですが、女性の力だと大変かも」(38歳・女性)という声も(写真撮影/末吉陽子)【画像7】こちらは、マンホールトイレの組み立て訓練。災害が起きたときにはマンションの敷地内にある「おすい」と書かれたマンホールを開けて、その上に置くことになる。説明書を解読しながら居住者同士で協力し、組み立てていく(写真撮影/末吉陽子)

【画像7】こちらは、マンホールトイレの組み立て訓練。災害が起きたときにはマンションの敷地内にある「おすい」と書かれたマンホールを開けて、その上に置くことになる。説明書を解読しながら居住者同士で協力し、組み立てていく(写真撮影/末吉陽子)

【画像8】組み立ての様子を側で見守る居住者。この日の訓練では、年配の方の参加も多く見受けられた。「コツを掴めば簡単なんだろうと思いますが、やはり男手がないと難しいような気がします」(女性)(写真撮影/末吉陽子)

【画像8】組み立ての様子を側で見守る居住者。この日の訓練では、年配の方の参加も多く見受けられた。「コツを掴めば簡単なんだろうと思いますが、やはり男手がないと難しいような気がします」(女性)(写真撮影/末吉陽子)

この日のプログラムのうち、特に目を引いたのが「防災ゲーム そなえるクエスト」である。災害が起きたあとを想定し、参加者がチームになり街にも飛び出しそれぞれのミッションをこなすシミュレーションだ。【画像9】実際に現場に赴き行動するというシミュレーション訓練。ミッションは食料の調達と調理、水の確保、安否確認、公的施設からの物資調達など4つに分かれる(写真撮影/末吉陽子) 【画像9】実際に現場に赴き行動するというシミュレーション訓練。ミッションは食料の調達と調理、水の確保、安否確認、公的施設からの物資調達など4つに分かれる(写真撮影/末吉陽子)【画像10】居住者に配られている防災バッグに入った 【画像10】居住者に配られている防災バッグに入った”たためるウォータータンク”を使用し、マンション備え付けの「直結給水栓」や近隣の公園で水を汲むミッション。もし水道管の破裂などで断水した場合は、こうした水道も使えなくなってしまうが、場所を知っておくに越したことはない(画像提供/三菱地所レジデンス)【画像11】最後は、シミュレーションを通じて得た学びや気づきを発表。「食料は戸数単位で割るのか、一人ひとりに配るべきなのか、住んでいる人の総数が分からないと難しいことが分かった」「水を運ぶのは予想以上に体力が必要だった。台車がないと厳しいと思う」という課題感を抱く人や、「小学生の私でも安否確認くらいはできそうだと思いました」という発見を語る小学5年生の子どもなど、具体的な行動を起こして初めて実感したことがあったようだ(画像提供/三菱地所レジデンス) 【画像11】最後は、シミュレーションを通じて得た学びや気づきを発表。「食料は戸数単位で割るのか、一人ひとりに配るべきなのか、住んでいる人の総数が分からないと難しいことが分かった」「水を運ぶのは予想以上に体力が必要だった。台車がないと厳しいと思う」という課題感を抱く人や、「小学生の私でも安否確認くらいはできそうだと思いました」という発見を語る小学5年生の子どもなど、具体的な行動を起こして初めて実感したことがあったようだ(画像提供/三菱地所レジデンス)【画像12】「防災ゲーム そなえるクエスト」を主導したのは、東北地域を中心に復興プロジェクトを推進する一般社団法人復興応援団の佐野哲史さん。「災害時にはマニュアルは機能しません。ライフラインが停止し、想定外のことが起きるなかで、そのときにいるメンバーで何ができるのか何をするか、今回の訓練をひとつのヒントに考えてみてください」と語りかける(写真撮影/末吉陽子)

【画像12】「防災ゲーム そなえるクエスト」を主導したのは、東北地域を中心に復興プロジェクトを推進する一般社団法人復興応援団の佐野哲史さん。「災害時にはマニュアルは機能しません。ライフラインが停止し、想定外のことが起きるなかで、そのときにいるメンバーで何ができるのか何をするか、今回の訓練をひとつのヒントに考えてみてください」と語りかける(写真撮影/末吉陽子)

ほかにも、消防隊によるAED訓練や、東日本大震災の被災経験者による「都市型災害」の対策についての講演などが行われ、多くの居住者が関心を寄せていた。

「訓練に満足しないこと」を最大の教訓に

今回取材した「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」では、災害時には計17名いる管理組合理事のうち、理事長が本部長、副理事長が副部長になり司令塔の役割を担うという。残りのメンバーは「情報班」「消火班」「救助救護班」「避難誘導班」「生活班」の5つの班長を分担。マンションの災害対策本部となるこの組織は、防災訓練の企画や居住者参加率の目標を設定するなどして、企業さながらの組織運営を行っているそうだ。

今回の防災イベントは防災担当理事を務める安部修さん、竹内祐介さん2名の強い働きかけを発端に、マンション管理会社の三菱地所コミュニティと、売主である三菱地所レジデンスの社員有志によるボランティア組織「防災倶楽部」のサポートを得て実現したという。盛りだくさんのプログラムが用意された今年の防災訓練について、安部さんと竹内さんは次のように振り返る。

「昨年は参加率が47%でしたが、今年は防災の心得を記載した『そなえるカルタ』をエレベーターなどに貼るなどして、日ごろから防災への意識を高めてきたことで、63.5%まで安否確認訓練の参加率が上がったのかなと思います」(安部さん)

「今回はお子さんがたくさん参加してくれたので、これを機に日常的に家庭で語ってもらいたいです。あとは、参加されなかった方たちへの働きかけも工夫していければ」(竹内さん)

また、「防災倶楽部」リーダーの岡崎新太郎さんは、災害時にマンション単位でスクラムを組むことの必要性について、次のように語る。

「東日本大震災で被災された人の声を居住者の皆様に届けることで、備えることの大切さを共有していきたいと思っています。こうした防災訓練を通して、生活者の目線で共に『悩んだり』『困ったり』することに意味があり、災害時には、自衛隊や管理会社がすぐにかけつけられない状況下で、如何に居住者だけで乗り切るかを本気で悩んでいただくことが応用力につながると信じています。『安心感』や『満足感』を感じていただくのを目的とせず、悩んで解決策を生み出すトレーニングを積むお手伝いをすることが私たちの役割だと思います」

(岡崎さん)【画像13】三菱地所レジデンス「防災倶楽部」のメンバーとして防災訓練の企画をサポートする岡崎さん(左)と、「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」で防災担当理事を務める安部修さん(右)(写真撮影/末吉陽子)

【画像13】三菱地所レジデンス「防災倶楽部」のメンバーとして防災訓練の企画をサポートする岡崎さん(左)と、「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」で防災担当理事を務める安部修さん(右)(写真撮影/末吉陽子)

「首都直下型地震」「南海トラフ地震」など巨大地震の発生も不安視されるだけに、熊本地震をきっかけに日ごろの備えを見直す必要性を痛感した人もいるだろう。しかし、仮に地震で命は助かったとしても、自助努力だけで被災生活を続けることは難しいということは、一連の震災報道からも明らかだ。

もちろん、定期的に防災訓練を実施しているマンションも多いはずだ。だが、内容は十分だといえるだろうか。もっとできることはないか。安部さんは「防災訓練から見えてきた課題を次の訓練に活かせるようブラッシュアップしていきたいです。また、マンション単体だけでできることだけではなく、隣接するマンションを巻き込んで防災力を高めていきたいです。今回の訓練では、隣のマンションの理事長さんや、地元の奏の杜パートナーズのメンバーにもお越しいただきましたが、点から面の防災力強化を図っていきたい」と意気込む。

熊本地震の報道が続くいま、「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」で実施された防災訓練を参考のひとつに、管理組合だけでなく住民一人ひとりが、いま一度マンションの防災について考えてみてほしい。●取材協力

・ザ・パークハウス 津田沼奏の杜
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