「貧乏くじ」を引いた時に感じる、日本社会の未熟さ

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大野更紗氏。免疫不全による感染症予防のためマスクは欠かせない

 震災、事故、突然の発病――。当たり前だと思っていた平和な日常がある日、終わりを告げることがある。突然難病を発症し、その困難な生活をユーモアと共に綴った著書『困ってるひと』がベストセラーとなった大野更紗氏は、そんな”ある日”を迎えた一人だ。その大野氏が2011年10月5日の「ニコ生シノドス」で、日本の社会福祉の現状と問題について、実体験を交えながら語った。

 大野氏はもともと、ミャンマーの難民問題を研究していた大学院生。ところがある日、原因不明の難病を発症し、自身が医療「難民」となった。後に「筋膜炎脂肪症候群」「皮膚筋炎」と病名は判明したものの、現在も何十種類もの投薬と通院を余儀なくされるギリギリの状態。そこで感じたのは日本の社会福祉システムの未熟さだという。

「日本の社会保障制度、福祉制度は『医学モデル(個人モデル)』で成り立っている。これは医学的に正常な身体を前提とし、正常な機能を失っている状態が障害」

 それに対して

「欧米の潮流は『社会モデル』。障害それ自体ではなく、それで被っている社会的不利が問題(障害)」

と大野氏は、日本と欧米との違いを説明する。例えば足が不自由な場合、足が不自由なことが障害ではなく、段差があって建物に出入りできないことが障害という考えだ。「医学的モデル」的な考えで個人の治療をすることも大事だが、同時に「社会モデル」的視点でソフト面・ハード面でのセーフティネットを張ることで、治療ができない、完治しない人も快適に過ごせる社会を創り上げることができる。

 私たちは誰しも突然の不幸に陥る可能性がある。そんな「貧乏くじ」を引いたとき、

「貧乏くじを引いた誰かだけが、そのまま貧乏で居続けるという社会は流動性が低く、社会の成熟度、社会のセーフティネットの度合いが未熟であることの表れ」

と司会の荻上チキ氏も述べる。その「くじ」を引いたとしても、「社会モデル」的対応によりセーフティネットを張っておくことでQOL(生活の質)を保つことはできる。そのためには、今からニーズを表明し議論すること、メディアや審議会を活用して声を上げることが必要だ。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 医学モデルと社会モデルの違いから視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv65480893?po=news&ref=rews#1:29:00

(大塚千春)

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