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刑事裁判に思うこと2

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刑事裁判に思うこと2

 3月20日の産経新聞であったと思うが、刑事事件についての即決裁判手続に関する記事が出ていた。そんな制度があったなと思いだすほど知名度の低い制度であるが、新聞はそのことを指摘している。ほとんど活用されていないとのことである。

 平成16年に刑事訴訟法が改正されて、そこで新設された制度であり(刑事訴訟法350条の2以下)、捜査段階で被疑者が自認している場合に、その他の要件を具備することによってなされる裁判手続である。
 当初は、被害者なき犯罪と言われる薬物犯罪を念頭においていたようであるが、現在では窃盗や傷害事件でも適用されている。

 この即決裁判手続の最大の特徴は、即日判決がなされ(同法350条の13)、執行猶予が必要的に付され(同法350条の14)、また事実誤認を理由として控訴できないことであろう(同法403条の2)。

 この手続きが利用されない理由は、私なりに考えると、受任するほとんどの事件がそもそも自認事件であって、おそらくではあるが執行猶予が付く可能性が高いものであること、場合によっては裁判所に事前に申請をして即日判決もあり得ることから、現在の刑事事件の状況からして、特段のうま味があるものではないことにあるのではないだろうか。

 そもそも、即決裁判手続については、必要的弁護事件とされており、自認しておりかつ執行猶予が望める被疑者と打合せをして、その手続きの利点・メリットを問われても、被疑者の心が動くほど説得的な説明ができないのである。
 せいぜい、身柄事件の場合、通常の裁判よりも早く執行猶予判決となって、身柄が解放されることぐらいであろう。
 また、その身柄解放といっても、通常裁判の場合であっても、1週間後くらいには判決期日が入るので、わずか1週間ほどの違いしかない。

 しかも、通常裁判の場合、執行猶予が確実視されていても、それなりの情状弁護をするのが我々弁護人の職務であるが、即決裁判手続の場合、極端なことをいえば、弁護人が何もしなくても、つまり自認事件であるから有罪無罪は問題とならず、確実に執行猶予となるのであるから、情状弁護をせずともよいという結果になる。
 品のないことをいえば、「私が一生懸命情状弁護をしたから執行猶予となったんだよ、それなりに報酬を支払ってね」という状況がなくなるのである。これでは、弁護人も積極的にこの手続きを利用するように働きかけることはしないであろう。

 さらに問題がある。先に書いたように、この制度は被害者なき犯罪を念頭においていたのであるが、現在では窃盗事件や傷害事件にも適用されている。
 つまり、被害者のいる事件にも適用されているのであって、その結果、被害者に対する弁償(被害者弁償)がなされず、自認しているとはいうものの、真実、反省をしているとは思えないケースも散見されているのである。
 もちろん、被害者弁償をせずとも、通常裁判でも執行猶予が付くことはあるから、被害者弁償が執行猶予判決の絶対的条件とはいえないが、どうも釈然としない。

 一体なぜこのような制度が導入されたのであろうか。
 法曹三者の負担軽減ということに立法理由があったようであるが、先に書いたように、通常事件であっても十分に対応が可能であったのであるから、その立法理由自体に疑問を感じる。
 産経新聞によれば、甲南大法科大学院の渡辺修教授も指摘しているが、この制度は廃れていく運命にあるかもしれない。

元記事

刑事裁判に思うこと2

関連情報

控訴審と執行猶予について(なっとく法律相談)
執行猶予の取消(想うままに ー弁護士日誌から)
刑事裁判に思うこと1(想うままに ー弁護士日誌から)

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