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ザ・スミス、ツェッペリン、スライ…数々の名曲と1人で渡り合うジェフ・バックリィの孤高の天才を伝える貴重な“記録”作(Album Review)

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 父ティム・バックリィと同じく、シンガーソングライターとしての才覚を広く賞賛されながらも、1997年、ミシシッピ川での水難事故により、父同様に早世してしまったジェフ・バックリィ。不世出のシンガーとして現在も支持を集め続ける彼だが、生前のオリジナル・アルバムは1994年作『Grace』のみであった。その後、未発表音源集やライヴ音源もリリースされてきたが、この2016年に突如として、新しいアルバムが公開されることになった。それがこの『You and I』である。

 本作はロック/ポップの名曲カヴァーを中心に収録した内容で、『Grace』製作よりもやや遡った時期のレコーディング・セッションで残されたトラック群らしい。素朴なギター弾き語りがメインだが、いきなりボブ・ディラン「Just Like A Woman」の後半、昂ったファルセット歌唱が迸る。ジェフ・バックリィでしかありえない、美しくも儚い、ある種の畏怖さえ抱かせるような凄みに満ちた名演だ。

 スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Everyday People」は、軽やかなギターのボディノックとカッティング・リフに彩られ、楽曲の温かみのある力強さを引き出している。ルイス・ジョーダンが歌った「Don’t Let the Sun Catch You Cryin’」は1940年代のR&Bヒットで、トラックに残されたコメントによればレイ・チャールズのヴァージョンも参考にしているらしい。この辺りの選曲では、ソウルフルな楽曲をジェフ流に料理するさまが聴きどころである。

 「Grace」のアコースティックなデモも素晴らしく、アルバム後半には「The Boy with the Thorn in His Side」、「I Know It’s Over」といったザ・スミスのカヴァーも2曲収録。モリッシーという名ヴォーカリスト、そしてジョニー・マーという名ギタリストのコンビにたった一人で渡り合ってしまうようなパフォーマンスはどうだろう。面白いのはレッド・ツェッペリンの「Night Flight」で、原曲はベーシストのジョン・ポール・ジョーンズが舵取りを行った、ツェッペリンには珍しいオルガン・ポップだ。選曲/アレンジの妙にも唸らされる。

 個人的なジェフ・バックリィへの思い入れを込めて書くと、彼の死後にリリースされた未完成の音源集『Sketches for My Sweetheart the Drunk』(1998)が僕はとても好きで、その荒削りのままの息遣いが溢れ出す感触と、本作『You & I』はよく似ている気がする。好きな楽曲を思うままに、伸び伸びと歌うジェフ・バックリィ。とても高い価値のある記録だ。(Text:小池宏和)

◎リリース情報
『ユー・アンド・アイ』
2016/03/16 RELEASE
SICP-4751 2,592円(tax in.)

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