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上條恒彦 「やりたい」に束縛されるといい芝居はできない

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 歌のヒットによって歌手から俳優へと活動の幅が広がった上條恒彦は、ミュージカルでも活躍するようになった。ミュージカルで共演した森繁久彌など役者としての大先輩と共演した時に感じた言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。

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 森繁久彌主演のミュージカル『屋根の上のバイオリン弾き』で、上條恒彦は肉屋・ラザールの役で出演。その後一度は主役を演じ、西田敏行主演版では再びラザール役に戻っている。

「ラザールは僕の前は谷啓さんがおやりになっていまして、ブロードウェイの芝居を大きく広げてお作りになった。僕はその方向ではなく、できるだけシンプルに作りたくてかなり苦労しました。

 偉大な森繁先生と一対一で芝居するわけですから、そりゃあ勉強になりました。セリフ一つにしても、息を抜くタイミングとか、声の張り方とか。よく観察しました。森繁先生は何もおっしゃいません。怒られたこともないです。でもそれが怖かった。気の抜けない日々でした。

 主役をやった時は、プロデューサーに『これはジョーさんの役じゃないと思うけど、シゲさんのたっての希望だからやってよ』って言われたんですよ。魅力ある役ですから、やりたいと思っていました。でも、できるとは思っていませんでした。というより、できない。だから言われた時はビビりました。それでも『こんな機会はもう巡ってこない』と引き受けました。

 西田さんの時は、プロデューサーに『ジョーさん、やりにくいだろうけど、前の役に戻ってよ』と言われて。『ありがとうございます!』と受けました。

 西田さんは大変だったと思います。あの人は僕と違って根っからの役者ですから、凄いプレッシャーだったんじゃないですかね。森繁先生の時はぶらさがっていればよかったのですが、今度の僕のやることは、まず西田さんを支えることだと思いました。どうやって支えたかというと、毎晩一緒に真剣に飲んだくれたくらいのことですが」

 映画『千利休~本覺坊遺文』での山上宗二やNHK大河ドラマ『武田信玄』などでは、歴史上の人物を演じてきた。

「大河ドラマの時は、NHKの稽古場に行って、稽古をしながらどう芝居をするかを考えます。演出家から指示が出る時もありますし、その時もそれをどう表すかをその場で考える。もちろんそれなりの準備はしていきますが、基本的に『出たとこ勝負』です。そこに行って初めて、その中で自分がどう生きるべきかが見えてくるわけですから。

『千利休』では最後に宗二が秀吉の怒りを買って殺されるのですが、あの狂乱の立ち回りは凄く大変でしたね。秀吉を芦田伸介先生がやっておられたのですが、僕にとって最初のドラマの『遥かなるわが町』でご一緒していましたから、少しリラックスしていられました。

 ただ、それはまあ大したことではないんですよ。もちろんあらかじめ『山上宗二だったらこういう風に言うだろう』という自分なりの役作りはしました。でも、実際にそういうのを作りすぎると、本番では難しい。『このようにやりたい』があまりあると、それに束縛されてしまう。束縛されると、いい芝居はできませんから。それよりも、自分のその時の感じ方を大切にして、その方向を信じて作っていくほうがいいと思っています」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬神家の一族」』(ともに新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2016年4月29日号

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