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“死と老い”を前にシリアスに挑発的に鳴らす、イギー・ポップ一世一代のロック・アルバム(Album Review)

エンタメ
“死と老い”を前にシリアスに挑発的に鳴らす、イギー・ポップ一世一代のロック・アルバム(Album Review)

 イギー・ポップがこの3月にリリースしたニュー・アルバム『Post Pop Depression』は、彼が“加齢による力の衰え”というシリアスなテーマを引き受けながらも、それを現在と次世代のシーンに向けた強靭なメッセージへと昇華させる傑作だ。全体のトーンは陰鬱としているが、イギーの歌声とバンド・サウンドはヴァイタリティに満ち溢れ、この2016年に先鋭的と言ってもいいぐらいのアート・ロックを響かせている。

 2000年代前半にザ・ストゥージズが再結成してからというもの、イギーのソロ作はそのテナー/バリトン・ヴォイスを活かしたポップな作風に寄っていたが、本作はソロ・デビュー時の70年代作『Idiot』や『Lust for Life』に近い知的なロックを、現代的なサウンドで再生させている。創作パートナーに指名されたジョシュ・ホーミ(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ)をはじめ、ディーン・フェルティータ(同QOTSA、デッド・ウェザー)、マット・ヘルダース(アークティック・モンキーズ)という、イギーからすれば遥かに若手の、2000年代ロックの担い手たちと結成したバンドによる作品だ。

 イギーはこの数年間に、ザ・ストゥージズのオリジナル・メンバーであるアシュトン兄弟や、『Fun House』(1970年)以来の盟友だったスティーヴ・マッケイらを立て続けに失った。スティーヴ・アシュトンやマッケイが参加したザ・ストゥージズ『Ready to Die』(2013年)の頃よりも、生涯とキャリアの終焉をずっとシリアスに、身近に感じていたはずだ。死肉をついばむハゲタカの描写に死のメタファーを読み取らせる「Vulture」や、ドラッグ禍から脱して《明瞭になった頭と、苦痛の終わり》を迎えた、デヴィッド・ボウイとのベルリン時代を回想する「German Days」といった楽曲が、年老いたイギーの姿を残酷なまでに浮かび上がらせる。

 「American Valhalla」で赤裸々に歌われる《名のみ残して実なし》といったポップ・スターの虚しい境地は余りにも悲痛だが、それを冒険的なソングライティングとロック・サウンドで放つことにより、鋭いメッセージに仕立て上げている点が素晴らしい。最終トラックの「Paraguay」では、若いバンド・メンバーとの雄々しいコーラスで《野生の獣は思い悩んだりしない/ただ、天命を全うするだけさ》と、余りにもイギー・ポップな感動を呼び起こしてくれる。次世代にバトンを手渡すように、或いは、次世代のアーティストたちを挑発するように響き渡る、イギー一世一代のアルバムだ。(Text:小池宏和)

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