築50年の古ビルをリノベーションした、金沢発シェア型複合ホテル

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築50年の古ビルをリノベーションした、金沢発シェア型複合ホテル

北陸新幹線開通から1周年を迎える北陸の古都・金沢にシェア型複合ホテルが3月18日にグランド・オープンした。金沢観光の中核、ひがし茶屋街から徒歩3分という場所に位置するTHE SHARE HOTELS「HATCHi 金沢(ハッチ カナザワ)」だ。ホテルの企画・運営を手がけるのは、2005年の設立以来、首都圏のマンション・一戸建て住宅などの既存建物をリノベーションし再生する事業に取り組んできたリビタ(東京都渋谷区)だ。リビタにとっては北陸・金沢という本拠地を離れた土地で、また宿泊施設についてその企画から運営まで取り組むのは、いずれも初めてのことだ。コンセプトは「北陸ツーリズムの発地」だという。

常務取締役の内山博文さんは「地方に出かける機会が多いが、魅力的なホテルが少ない。地方創生が掲げられ、海外からの旅行者の増加に伴い地方都市にも流入する傾向があるものの、その受け皿は貧弱です」と現状を評価する。また「近年の旅行者は、地域に根ざした体験やコンテンツ、人との関わりを求めています」と説明する。こうしたニーズにこたえるために既存建物のリノベーションによる宿泊施設という取り組みに加えて“ディープな北陸へと誘うためのしかけ”を、「HATCHi 金沢」に盛り込んだという。

「HATCHi 金沢」の中身について紹介する前に、東京のリビタが金沢でホテル事業に取り組むきっかけについて少しふれる。

そもそも、金沢出身のリビタ社員、北島優さんが、リビタ社内で新規事業として、既存ストック活用による地域の食や文化芸術なども盛り込んだ複合的な宿泊施設の事業を提案したことにはじまる。北島さんの、地元・金沢への想いをベースにしながら、インバウンド需要を見込みむと共に、新しい体験型の宿泊という提案を含んだ事業立案だった。そして、北島さんは旧知の(有)E.N.N.代表で「金沢R不動産」を運営する小津誠一さんに、金沢の有休不動産について宿泊施設への用途転用・リノベーションを念頭に物件探しを依頼した。

幸いなことに、程なく候補となるビルが見つかった。金沢市街地からひがし茶屋街へアクセスする浅野川大橋の傍、築50年、地下1階・地上4階建てのビルだった。この建物は、もともとは仏具店として、地下は飲食店として利用されていた。リビタは設立10年を迎える機会でもあり、この建物を買い取り、宿泊施設として用途転用する決断をしたのだという。プロジェクトリーダーには北島さんが就くことが決まった。【画像1】「HATCHi金沢」全景。地下1階、地上4階建て。ドミトリーと個室合わせて宿泊定員は94名(写真撮影:村島正彦) 【画像1】「HATCHi金沢」全景。地下1階、地上4階建て。ドミトリーと個室合わせて宿泊定員は94名(写真撮影:村島正彦)【画像2】通りに面する1階には、コーヒーショップ、レストランなどが入り、宿泊客でなくても気軽に立ち寄ることができる(写真撮影:村島正彦)

【画像2】通りに面する1階には、コーヒーショップ、レストランなどが入り、宿泊客でなくても気軽に立ち寄ることができる(写真撮影:村島正彦)

1階は、地元の味に触れられる場に

北島さんは、北陸、金沢の人や文化に触れる手立てとして3つの取り組みを行った。

1つ目は、ローカルコミュニティと出会えるグランドフロアだ。建物の1階は、ひがし茶屋街と金沢市街地を結ぶ観光客が直接目にふれ、アクセス可能なフロアでもあることから、金沢で実績のある人気飲食店や物販店に入ってもらった。国内はもとより海外からの観光客がたたずみ、飲み食べ、買い物することで、交流を図ってもらうことを考えたからだ。

飲食店としてひとつめには休憩や旅のプランを考えてもらえるよう地元の人気のコーヒースタンド「HUM&Go# (ハム&ゴー)」が。

ふたつめには、これまで約10年間、金沢でくずし割烹料理を提供して人気を得ていたものの2014年に惜しまれ閉店した和食ダイニング「a.k.a.(アーカ)」が復活して運営に当たる。実は「a.k.a.」は、E.N.N.代表の小津氏が経営する(株)嗜季が運営するお店でもある。さらに、ホテルのレセプションカウンターを兼ねたキオスクでは、北陸3県の魅力を集めたギフトショップ「[g]ift(ギフト)」が出店し、デザイン面でも高感度な土産物を提供する。【画像3】1階のエントランス入ってすぐに地元金沢で人気のコーヒースタンド「HUM&Go#」(画像提供:リビタ) 【画像3】1階のエントランス入ってすぐに地元金沢で人気のコーヒースタンド「HUM&Go#」(画像提供:リビタ)【画像4】1階には、このほか、ギフトショップ「[g]ift」、和食ダイニング「a.k.a.」が入居する(画像提供:リビタ)

【画像4】1階には、このほか、ギフトショップ「[g]ift」、和食ダイニング「a.k.a.」が入居する(画像提供:リビタ)

館内の内装や調度には地元北陸の素材や伝統技術を

2つ目は、北陸各地の伝統技術を採用したことだ。築50年のビルを、シェア型複合ホテルに用途転用、リノベーションするに当たって、建物の随所に福井・富山・石川県など北陸の伝統技術に裏付けられた素材・パーツを使っている。

シェアキッチン&ラウンジのフローリングなどには富山県朝日町の「虫食いナラ材」を、ルームキーホルダーやレンジフードには、富山県高岡市の特殊な着色を行った銅器を用いるなど、こだわり抜いた。旅行者に、これらの建材・材料を館内で見る、触れてもらうだけでなく、これらをつくったメーカーや職人とも連携し、工房を巡るツアーを企画するなどし、北陸の魅力を発信していく予定だ。【画像5】シェアキッチン&ラウンジのテーブル天板、フローリングには富山県朝日町、尾山製材の「虫食いナラ材」を使っている(写真撮影:村島正彦) 【画像5】シェアキッチン&ラウンジのテーブル天板、フローリングには富山県朝日町、尾山製材の「虫食いナラ材」を使っている(写真撮影:村島正彦)【画像6】ルームキーのキーホルダーは、富山県高岡市のMomentum Factory Oriiによる特殊な着色を行った銅器を用いた(写真撮影:村島正彦) 【画像6】ルームキーのキーホルダーは、富山県高岡市のMomentum Factory Oriiによる特殊な着色を行った銅器を用いた(写真撮影:村島正彦)【画像7】ランプシェードは、石川県能美市の九谷焼、上出長右衛門窯の六代目、上出恵悟さんの作品(写真撮影:村島正彦)

【画像7】ランプシェードは、石川県能美市の九谷焼、上出長右衛門窯の六代目、上出恵悟さんの作品(写真撮影:村島正彦)

展示・イベントを行えるシェアスペースを随所に

3つ目は、地元に根ざした活動を展開するアーティストやキーマンの活動の舞台となるシェアスペースを建物各所に設けたことだ。人通りも多い通りに面したエントランス脇には、地元の有志も交えてワークショップ形式でつくった屋台カートを設け、希望する有志が交代で金沢の食べ物など提供する。

1階エントランス脇にはアート作品を展示できるショーケースを設け、地元工芸作家の作品発表の場としている。この他にも、ホテルの共用部分には作品を展示できるスペースを幾つも設け、発表の場としている。これらのスペースを活用しながら、地元アーティストやキーパーソンなどとワークショップやトークショーなどイベントも随時開催する予定だ。

オープニングの企画としては、(株)ノエチカ・金沢クリエーティブツーリズムと連携し、金沢を拠点に新しい表現に挑む35歳以下の作家の作品をホテル共用部に展示し、ギャラリー・アートスペースが客室の空間演出を行う。つまり、ホテル全体が、ギャラリースペースと化している。作品の展示ばかりに留まらない。作品をつくりだすアーティスト、そのアトリエを訪問するツアーも随時企画し、旅行者と地元アーティストの交流を図る。

またHATCHiとアートの関わりは、地元美術館との連携も密接に図っていくという。ホテル開業直前の3月16日には、2004年のオープン以来すっかり金沢の顔になった金沢21世紀美術館の館長・秋元雄史さんと若手作家のトークイベントが行われた。【画像8】3月18日〜5月29日、金沢を拠点に活動する35歳以下の作家の作品展「アートツーリズム」。1階、エントランス脇のショーケースに展示された青木千絵さんの作品(左)。3階エレベーターホールに展示された佐合道子さんの作品(右)(写真撮影:村島正彦)

【画像8】3月18日〜5月29日、金沢を拠点に活動する35歳以下の作家の作品展「アートツーリズム」。1階、エントランス脇のショーケースに展示された青木千絵さんの作品(左)。3階エレベーターホールに展示された佐合道子さんの作品(右)(写真撮影:村島正彦)

宿泊施設は、リーズナブルな価格設定のドミトリーと個室

HATCHi金沢の宿泊施設は、シェアードルームが5室、66ベッド、プライベートルームが3種、9室で、宿泊定員は94名だ。宿泊料(通常期)は、シェアードルーム:3800円~/ベッド、プライベートルーム8800円~/室とリーズナブルな設定だ。【画像9】ドミトリールームは、男女共用の部屋と女性用の部屋を分けた(画像提供:リビタ) 【画像9】ドミトリールームは、男女共用の部屋と女性用の部屋を分けた(画像提供:リビタ)【画像10】ドミトリーは、5室、66ベッド。スーツケースなど大きな荷物をしまうため、ベッド下に収納するスキマを設けた(画像提供:リビタ) 【画像10】ドミトリーは、5室、66ベッド。スーツケースなど大きな荷物をしまうため、ベッド下に収納するスキマを設けた(画像提供:リビタ)【画像11】個室。定員は3名まで。シャワールームは個室専用共用のものを利用する(画像提供:リビタ) 【画像11】個室。定員は3名まで。シャワールームは個室専用共用のものを利用する(画像提供:リビタ)【画像12】4階の個室。こちらは奥にバスルームを備えている(画像提供:リビタ) 【画像12】4階の個室。こちらは奥にバスルームを備えている(画像提供:リビタ)【画像13】共用の洗面スペース(画像提供:リビタ) 【画像13】共用の洗面スペース(画像提供:リビタ)【画像14】共用のバス(シャワー)スペース(画像提供:リビタ) 【画像14】共用のバス(シャワー)スペース(画像提供:リビタ)【画像15】1階のホテルレセプション(画像提供:リビタ) 【画像15】1階のホテルレセプション(画像提供:リビタ)【画像16】かつて地下にあった飲食店のサインを残した(画像提供:リビタ)

【画像16】かつて地下にあった飲食店のサインを残した(画像提供:リビタ)

オープンに先駆け3月15日には、プレス・関係者向けの内覧会と「OPENING PARTY」が開催された。地元北陸のマスコミ・関係者はもちろん首都圏からの参加もあり、パーティーは約210名という大勢でにぎわった。地元のパーティー参加者からは「東京発ではなく“金沢発のユニークな施設”が実現されたことが誇らしい」という声が聞かれた。

急増するインバウンドを睨んだ、宿泊施設の開業ラッシュが東京をはじめ地方都市でも相次ぐ。リビタが東京ではなく、地方都市でリノベーションによるホテル事業をはじめるのも、こうした流れに位置づけられるものだろう。

ただし、企画した北島さん、地元でサポートに回った小津さんはじめHATCHi金沢にはさまざまな地元の関係者のネットワークを最大限に活用しながら、地元金沢・北陸の工芸、アート、飲食、そして人といった多面的な魅力を積極的に取り入れることに心を配り、地域の人や文化と交流を図ることができる場として魅力的に演出されたものと見受けられた。

「HATCHi」という名称は、出発地を意味する「発地」に由来するそうだ。宿泊施設にとどまらず、建物内に仕掛けられたローカルとの接点をきっかけに、旅行で訪れた地域により深く、広く関わって欲しいという想いからだ。

リビタ代表取締役の都村智史さんは「HATCHi金沢を皮切りに、既存建物の用途変更を伴うリノベーションを施し、宿泊施設、飲食店、シェアスペース、店舗等で構成する「THE SHARE HOTELS(ザ シェア ホテルズ)」を展開し、新たなツーリズム、ライフスタイルを提案していきます」と話す。年内には金沢市内にもう1施設。京都、東京、北海道で計画が進められているという。それぞれの地域でどんなローカルとの接点のしかけを持ったシェア型複合ホテルを展開していくのだろうか。期待できそうだ。【画像17】オープニングパーティーの様子。左からE.N.N.代表・小津さん、金沢21世紀美術館館長・秋元さん、リビタ代表取締役・都村さん、リビタ常務取締役・内山さん、HUM&Go#代表・久木さん(左)、リビタ、HATCHi金沢のプロジェクトリーダー・北島さん(右)(写真撮影:村島正彦) 【画像17】オープニングパーティーの様子。左からE.N.N.代表・小津さん、金沢21世紀美術館館長・秋元さん、リビタ代表取締役・都村さん、リビタ常務取締役・内山さん、HUM&Go#代表・久木さん(左)、リビタ、HATCHi金沢のプロジェクトリーダー・北島さん(右)(写真撮影:村島正彦)【画像18】通りに面するエントランス脇では、有志によるワークショップでつくった屋台で地酒がふるまわれた(左)、地元金沢の関係者、また、首都圏などからのプレス関係者約210名がオープニングパーティーに訪れた(右)(写真撮影:村島正彦)

【画像18】通りに面するエントランス脇では、有志によるワークショップでつくった屋台で地酒がふるまわれた(左)、地元金沢の関係者、また、首都圏などからのプレス関係者約210名がオープニングパーティーに訪れた(右)(写真撮影:村島正彦)●取材協力

THE SHARE HOTELS HATCHi 金沢
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