シリーズものに光をあてる新設の文学賞、第1回は『しゃばけ』が受賞!

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シリーズものに光をあてる新設の文学賞、第1回は『しゃばけ』が受賞!

 去る4月11日、東京・日比谷の帝国ホテルで吉川英治賞の贈賞式が開催された。

 今年で第50回を迎える吉川英治文学賞(吉川英治国民文化振興会主催・講談社後援)は、エンターテインメント系の小説界でもっとも大きな賞のひとつ。直木賞をまだ受賞していない新鋭を(実質的に)対象とする吉川英治文学新人賞が併設され(純文系では、同じ講談社が後援する野間文芸賞と野間文芸新人賞の関係に相当する)、小説以外の文化的活動を広く顕彰する吉川英治文化賞と同時に贈呈式が行われる。

 これまでは吉川英治3賞と呼ばれてたんですが、今回新たにもうひとつの賞が加わった。その名は吉川英治文庫賞。
 賞の対象となるのは、前年度に「シリーズの5巻目以降が一次文庫で刊行された小説のシリーズ作品」(ただし、すでに吉川英治文学賞を受賞している作家の作品は除く)。
 この賞ができると伝わったときは、文庫書き下ろしの時代小説シリーズを想定した賞じゃないかという観測がもっぱらだったが、蓋を開けてみると、単行本やノベルスで出たあとに文庫化されたシリーズも含む、非常に範囲の広い賞になっている。公式サイト(http://yoshikawabunkoshou.kodansha.co.jp/index.html)に発表された第1回の候補作を見れば一目瞭然。

赤川次郎 「三毛猫ホームズ」シリーズ (光文社文庫)
綾辻行人 「館」シリーズ (講談社文庫)
上田秀人 「百万石の留守居役」シリーズ (講談社文庫)
内田康夫 「浅見光彦」シリーズ (各社)
今野 敏 「東京湾臨海署安積班」シリーズ (ハルキ文庫)
佐藤賢一 「小説フランス革命」シリーズ (集英社文庫)
堂場瞬一 「アナザーフェイス」シリーズ (文春文庫)
西村京太郎 「十津川警部」シリーズ (各社)
畠中 恵 「しゃばけ」シリーズ (新潮文庫)
誉田哲也 「姫川玲子」シリーズ (光文社文庫)
三上 延 「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ (メディアワークス文庫)
和田はつ子 「料理人季蔵捕物控」シリーズ (ハルキ時代小説文庫)

 さまざまな分野の錚々たる顔ぶれが並んでいる。歴史の長いシリーズも多く、「三毛猫ホームズ」は50冊以上、「浅見光彦」は100冊以上、「十津川警部」にいたっては300冊以上あり、選考のために全作読むのはとても不可能。そもそも選考会が成り立つのか? と疑問に思うところですが、この賞に関しては、他の吉川賞とは違う方式を採用。公式サイトの説明によれば、「50名程度の選考委員に選考を委嘱し、候補作の推薦および受賞作の選出投票をお願いする方式です」。

 今回の選考委員50人の内訳は、文庫を持つ出版社14社の代表各1名と、書評家22名、書店員14名。本屋大賞と同じく2段階投票システムで、最初に全選考委員がそれぞれの推薦するシリーズを10作ずつ挙げ、上位12作が今回の最終候補に残った。二次投票は、その12作の中で、50人の選考委員がそれぞれ3作を選び、1位から3位まで順位をつけて投票。そのポイント数で決まるので、何が受賞するのか、文字どおり蓋を開けてみるまでわからない。

 開票の結果、記念すべき第1回吉川英治文庫賞を射止めたのは、畠中恵 「しゃばけ」シリーズ。第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞して2001年に出た著者のデビュー長編『しゃばけ』を皮切りに、現在までに14冊を刊行(うち外伝1冊。文庫で出ているのは13冊)。病弱な若だんなと、彼に仕える妖(あやかし)たちの日常を描く時代ファンタジーだが、各巻ごとに趣向を凝らし、手間暇かけて、毎回新たなスタイルにチャレンジしているのが特徴。テレビドラマ化も実現し、シリーズ累計700万部を超える大ヒット作となっている。

「(新人賞以外の)文学賞を受賞するのはこれが初めて。自分には縁がないと思っていたのでたいへんうれしい」と語る畠中さん。吉川英治文庫賞が定着すれば、これまで顕彰される機会が少なかったタイプの小説に光をあてる、ユニークな賞になりそうだ。

(大森望)

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