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【エッセイ】名刺をポイントカードにしてみた。

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先日ポイントカードになっている名刺を作成した。
理由はいくつかある。私は週末だけライター活動をしている。人と会って取材をする機会がもてずにいたのだが最近仕事がかわり余裕ができた。さまざまな人と会う機会が増え、ライターとしての名刺が必要ではないかと考えた。
しかし私は名刺が嫌いだ。嫌いというより苦手なのだ。
まず自分の名前が書いてある。おお、いやだ。
そして立場が書いてある。ああ怖い。
病院の診察券の次に苦手なカードである。まるで「責任」と書いてある紙を魂の一部とともに明け渡すようだ。名刺というのは礼儀の一環と心得ているがどこかいやらしいものだと思う。
何故なのか考えてみるとどこか「それっきり」感があるからではないかと思う。
年中会う人となら名刺は必要なくなっていくものだし、本当にそれきりなら何故そんな紙を渡してしまうのか。書いて渡した途端に「もう会わないかも」という予感がどこかにあるのだ。
その寂しさがいやなのだと思い立った。
そこで自分の理想とする名刺像を考えてみた。
それはもう一度会いたくなるような期待を予感させるものだ。
それっきりではないもの。
ライターとは案外一期一会な活動が多いものだ。だからこそもう一度会えるという予感がほしい。そして、それっきりにはしないという約束が感じられるもの。それこそが本当の責任だ。ライターとしても、もう一度会いたい、声をかけてもいいかな、と感じさせる一味がほしいと考えた。疎遠になっていると何か依頼仕事が生じても頼みにくさが生じたりする。しかしどのような名刺なら依頼しやすいと感じさせるのか。
わからないままに漠然と日々をすごしていた。
そんなある日、近所に新しいカフェができていることに気づいた。おしゃれなカフェなんていいじゃないのあなた、入ってみようじゃないのとよせばいいのに意気込んで入ってみた。ドリップのドの字もわからず、フラスコのような器具からカップにコーヒーをそそぐやりかたもわからない始末だったがとても気に入った。店主と少しお話をさせていただいて帰ろうとするとポイントカードを渡してくれた。
私ははっとしてぎゅっとしてその場で一回転した。実際にはしていない。
これだ。ポイントカードにすればいいではないか。ポイントカードにしてしまえばいい。
何もかも! 診察券も! 選挙の投票用紙も! 請求書も!! 名刺もだ!!
いやな感じのする紙は全部ポイントカードにしてしまえ!!!

というわけで帰宅すると早速、名刺を作成して印刷。

裁断機で切り分けて、一回目の分のスタンプを押しておいた。ライターとしての名義がこさめなので傘のマークのスタンプだ。何となく何かに使えるかな程度に用意していたスタンプだ。しかし、このときのためだったのだろうと思う。併せて取材予定のイベントが猫関連なので猫の肉球のスタンプも押した。楽しかった。とても楽しかった。


そして乾かす。猫のしっぽにぱたぱたされたので何枚かはだめになった。

このようにして素敵な名刺ができあがった。

早速翌日、取材先のイベントで色々な方に自己紹介とともに手渡した。さしあたりどんな相手もまずはきょとんとする。まだ若いお嬢さんも素敵なマダムも一様にきょとんとする。
それから、うふっとちょっと笑うのだ。
しかし勢いでつくったので肝心なことを忘れていた。ポイントが埋まると何が起きるのか? ということを考えていなかった。恐ろしい陥穽だ。罠だ。落とし穴だ。
どなたも積極的には聞いてこない。なんて皆さんシャイなんだ。単に内心引いているだけかもしれないが。とりあえず「みっつたまるといいことがあります」と言っておいたが、さて。
じっくり考えなければならない。
特典に猫のブロマイドでも刷ろうかしら。
かわいい女の子にはご飯をおごってもいいな。
仕事相手なら無償で記事を書けばいいだろうか。いやそれはやめておこう。
なかなか人間がきょとんとする表情は年齢とともに見れなくなっていくものだ。
それを見られただけでも収穫だ。これなら普段会えない友達に渡しても面白いかもしれない。折りよく同窓会からの知らせがきた。行ってみようか。ポイントカードをためたいから、なんて口実で旧知の友に呼び出されてみたいものだ。まだまだ改良の余地がある名刺だ。
名刺は苦手だが、少しだけ好きになれそうである。

―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 小雨) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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