コンテンポラリーな民謡に果敢に挑んできた異端児=よなは徹がルーツに立ち返った味わい深い1枚(Album Review)

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コンテンポラリーな民謡に果敢に挑んできた異端児=よなは徹がルーツに立ち返った味わい深い1枚(Album Review)

 沖縄音楽といわれて真っ先に思い浮かぶのは、島唄と呼ばれる民謡だろう。しかし、琉球古典音楽もまた、沖縄音楽の重要なものだ。民謡はいわゆる民衆の間で口承で残されてきたのに対し、古典音楽は主に中国からの役人をもてなすための舞踊の音楽として完成度を上げていった。そして、民謡は唄者によって節回しや歌詞さえも変わることもあるが、古典音楽はあくまでも型を大切にする。三線や太鼓など同じ楽器を使っていても、アプローチは明確に違うのだ。

 本作の主役、よはな徹は、民謡歌手というイメージが強いかもしれない。それも、ロックやダンサブルなサウンドを取り入れてコンテンポラリーな民謡を果敢に作り出している。沖縄の民謡シーンにおいては、もっとも先鋭的な活動をしているひとりである。しかし、実は古典の三線や太鼓などを幼少時から叩き込まれ、沖縄県立芸術大学でも古典音楽を専攻したという本格派だ。よって、彼が自身のルーツと真正面に向き合うのは、極めて自然なことといえるだろう。

 アルバム『Roots ~ 琉楽継承 其の一』には、いわゆる定番が収められている。古典女踊り「諸屯」や組踊「忠臣身替の巻」といった演目は、舞踊と組み合わせて鑑賞するものだが、音楽だけでも聴きごたえがあることは、耳にしてみればよくわかる。とりわけ、後半を占める創作舞踊「辻山」は遊郭をテーマにした物語で、民謡も取り込んで昭和36年に作られた画期的な作品だ。よなはは、唄三線だけでなく、琉琴や笛なども披露し、そこに太鼓がリズムを刻む。古典音楽というと、どこか枯れた味わいの演奏が多いように思うが、彼の演奏は力強く生き生きとしており、新しい魅力を見出すことができる。もちろん、ポップなテイストの民謡とは趣はまったく違う。しかし、よなは徹にしかできない古典音楽が聴けるのだ。堅苦しいと思われがちな古典音楽を、まず最初に彼の歌と演奏で体験すれば、すんなりと入れるのではないだろうか。

 なお、本作のタイトルには、“其の一”と付けられている。ということは、続編も作り続けていくのだろう。斬新な民謡と、オーソドックスな古典音楽を両立できる唄い手は、なかなかいない。彼にはその路線を極めていただきたいと思う。

Text: 栗本斉

◎リリース情報
『Roots ~ 琉楽継承 其の一』
よなは徹
2016/03/23 RELEASE
2,700円(tax incl.)

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