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現役歯科医師が認知症高齢者の義歯利用の重要性を説く

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現役歯科医師のデンティストSです。私が診療を行っている特別養護老人ホームでは、義歯を使っている方の割合が非常に多いです。そんな中、私が見聞きした義歯に関するトラブルを通して、義歯の重要性をお伝えしたいと思います。

日常茶飯事の義歯トラブル


義歯に関してよく目にするトラブルは、紛失と破損です。どういった状況から起きてしまうのか、例を挙げてみます。

義歯の紛失

認知症高齢者が自分で義歯を外して、ティッシュペーパーにくるんで置いておきます。すると、気付かないうちにごみと間違えて捨てられてしまうことがあります。または、就寝時に装着して寝る習慣の方ですと、いつの間にか外れてしまい、ベッド脇の屑籠に落ちてそのままであったり、なぜか居室のタンスの奥深くから発見されるなどです。

義歯の破損

自室で自ら義歯を外して洗浄する場合や、介護職が口腔ケアの介助に入る場合を問わず、洗面所で不用意に落とす際に起きることが多いようです。特に下顎の義歯などは、容易に真っ二つに割れてしまいます。

紛失・破損を防ぐための義歯管理が逆効果に

義歯の紛失や破損を回避するために、食事中のみ使用し、その他の時間は取り外して預かっておくという施設があります。以前訪問診療をした際、施設のカーデックス(※)に申し送りを記録していると、目の前にインシデント(事故)報告書のファイルがあることに気がつきました。

何の気なしに、自分の担当している患者さんについて目を通しているうちに、義歯にまつわるインシデントが意外と多いことに気がつきました。「義歯を装着しないで食事を提供してしまった」「義歯をいつの間にかに外してトレーの上に置いてあったので、そのまま下膳しそうになった」などです。

義歯が必要な時に入れ忘れてしまうというのは本末転倒です。また、認知症高齢者の方に、義歯は頻繁に入れたり外したりするものと認識されてしまうことも少々考えようです。

カーデックスとは
患者に関する情報や治療内容、行われた処置や今度の看護計画など、患者ごとに1枚の紙にまとめ、さらに全員分の用紙を専用のファイルにはさんだもの。

義歯管理をする上での問題点

そもそも認知症高齢者ご本人が義歯を受け入れられる状態にあるのか、把握しておく必要があります。その上でよく聞く問題点を挙げてみます。
義歯の装着を拒否する
食事中に義歯を出してしまう
原因は不明だが、わざわざ義歯を外してから食べ始める

自らの意志で義歯を外してしまうため、無理やり装着させることもできず、義歯の継続的な使用が困難と思われるケースも多々あります。なぜ義歯を外してしまうのでしょうか?

義歯を利用いただくための対応方法

義歯を使わなくなる前に、義歯を拒否するのは「義歯自体に問題があるのか」「それともご本人の症状が原因なのか」を見極めることが大切です。専門医の判断を仰ぎ、そして必要な対応を行ってください。
義歯を修理する
何年も前に作った義歯は、そもそも合わない可能性があります。その場合、口の中に「痛み」や「違和感」を感じたり、外れやすくなってしまいます
義歯を利用しやすくするため、口を整えるリハビリを行う
舌の位置や噛み合わせが変わり、義歯を使いづらくなってしまうこともあります。義歯の修理と併せて、口を整えるリハビリを行う必要もあるでしょう
食べやすい食事を提供する
義歯があるからと言って、ご自分の歯がある時と同じように固い食べ物や歯ごたえがある食べ物が食べられるということではありません。大きな口を開けなくてはいけないものだと外れやすくなったり、あまり細かくしてしまうと義歯と粘膜の間に入りやすくなってしまいますので、嚥下の能力も考慮した食形態を判断することが重要です
安全に食事を行うための嚥下評価を行う
嚥下障害を持っている方は、義歯を装着するとかえって誤嚥の可能性が高くなります。過去、誤嚥から苦しくなってしまった記憶があり、義歯を外してしまうことも考えられます。義歯を利用する際は医師に相談のうえ判断するよう、注意してください
栄養評価を行う
義歯を利用し、咀嚼機能が回復されることにより、栄養状態の改善へと繋がっていきます

歯科医師としてきちんと調整し、口周りのリハビリを促す装具としての機能も義歯に込めているので、できれば起きている時間は口の中につけておいてほしいものです。義歯の管理について、生活のリズムの中に義歯の使用をくみこむことで紛失・破損を防ぐことをお勧めいたします。

また、義歯を利用することにより、QOLの改善が産まれてくることを私は経験しています。居室の洗面台の片隅にあるコップの中で、干からびている義歯を取り出してみることから新たな展開がうまれることを願ってやみません。

さいごに


義歯を正しく活用することは、食事の質を高めることや、咀嚼を行うことで嚥下障害を起こりにくくします。「合わなくなっているから使えない」と放置する前に、歯科医療機関へご相談することをお勧めします。医師の診察を通して改善することもきっと多いはずです。義歯の利用が人間の三大欲求のひとつ、「食」に通じるということを忘れないでくださいね。

この記事を書いた人

デンティストS

40代歯科医師、自院での外来診療のかたわら、高齢者施設、居宅への往診を積極的に行う。歯科診療のみならず、摂食・嚥下評価のスキルを活かし、高齢者ご本人だけではなく、家族や介護職等、周囲まで及ぶ支援を目標としている。

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