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ドローン宅配、除雪、子供の見守り、限界集落──地域課題を解決するシビックテックが広がる「CIVIC TECH FORUM 2016」レポート

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徳島の高齢過疎地で、ドローン宅配の実証実験が始まる

3月27日、建築会館(東京・三田)で終日にわたって開催された「CIVIC TECH FORUM 2016」。

前回に続き、「ローカル、ビジネス&テクノロジー」をテーマに掲げ、基調講演を含め8つのセッションが展開された。今回はシビックテックの実践例が豊富に紹介されたのが特徴。その中からいくつかを紹介しよう。

▲当日の運営・司会を務めたリクルートホールディングス MashupAwards 事務局長 伴野智樹氏

「テクノロジー×シビックテックの最前線 実証実験・スタートアップの発表」と題されたセミナーでは、まずMIKAWAYA21の鯉渕美穂社長が登壇。今年から、徳島県那賀町で国土交通省と共同で始めたドローン宅配サービスの実証実験を報告した。

▲MIKAWAYA21株式会社 代表取締役社長 鯉渕美穂氏

那賀町は人口約8,000人の山村。65歳以上の高齢者割合が45.5%占め、過疎化が進む。高齢者の4割が自宅から1km圏内に商店が一つも存在せず、“買い物難民”と化している。

「こうした現象は那賀町だけの問題ではない。例えば沖縄の離島でも若い世代は地域の商店からモノを買わず、ネット通販で済ませる。結果的に地域の商店はますますなくなり、高齢者は日常品を買うのも苦労するようになる。ある調査では、こうした“買い物難民”は全国で700万人にものぼるという」(鯉渕氏)

この問題は、僻地と呼ばれる地域だけに限定されるものではない。日本全体で急速に進む高齢化社会の諸問題を地域が先取りしているのだ。

MIKAWAYA21は地域の新聞販売店と手を結び、高齢者のちょっとした困り事を有償で手伝う「まごころサポート」をすでに事業化しているが、今回のドローン宅配サービスはそれをより高度化するものだ。

コールセンターで日用品などの注文を受けると、新聞販売店からドローンを発進させ、地域の集配センターで注文の品をピックアップしたあと、さらに飛行して、自宅まで届けるというもの。

実証実験では、高度約50mを約500m飛行。4分ほどの時間で、無事、食パンや牛乳を高齢者の元に届けることができた。

ただ、ドローン宅配の課題はまだまだ多い。航空法では無人機であっても、その飛行状態は人が目視しなければならない、という規制がある。実験では、ドローンの後を車2台で追いかけるという“珍妙”な展開となった。

「オートパイロット、安全な離着陸技術、安心な飛行の実現、高齢者向けのサービスの開発、安価でのサービス実現など、いくつも課題があるが、それらを一つひとつ乗り越え、2018年のサービス開始を目指している」と鯉渕氏は語った。

除雪事業の効率化のために、位置情報システムを開発

都内と福島県会津若松市(本社)に拠点を置くテクノロジーとデザインの企業、デザイニウムは、奥会津地方の建設業協同組合からの委託で、除雪車位置情報システムの開発に取り組む。

▲株式会社デザイニウム 代表取締役 前田 諭志氏

人口減少に伴い、地域の建設業者も社員が激減。除雪車オペレーターの高齢化などもあり、このままだと冬の除雪作業ができないという致命的な問題にぶつかる。

システムは、組合本部や自治体、あるいは除雪車のオペレーターが、車両の位置をリアルタイムで把握することで、除雪作業をより効率化するもの。

SIMフリーのGPSトラッカーにSORACOM Air SIMを組み合わせ、設置した車両からのリアルタイムの位置情報をSORACOM Beamを経由して送信する。

「リアルタイム表示にはFirebaseを、ブラウザ表示するマップにはOpenStreetMapを採用している。会津地方のOpenStreetMapはマッパー有志の手によって民家の位置まで細かく書き込まれており、他の地図サービスと比べて山間部でも圧倒的な情報量がある」と、デザイニウムの前田諭志氏。

シビックテックで重要なのは、「課題解決を先行させ、シンプルに作ること」。ローコスト、オープン、スケーラブル、共創的開発プロセスという考え方も欠かせないと、前田氏は指摘した。

Wi-FiネットワークとIoTを活用した低コストの見守りシステム

子供の数は減少しているが、子供が被害対象になる犯罪は増えている。認知症の高齢者が行方不明になる問題も深刻だ。

「ITを使った見守りサービスも登場しているが、GPS携帯端末やICタグを使った到着情報提供サービスは、費用対効果の限界に近づいている。より導入・維持コストを押さえたサービスが求められている」と言うのは、広島発のベンチャー企業ottaの山本文和社長だ。

▲株式会社otta 代表取締役社長 山本 文和氏

同社が開発した「otta」は家庭用基地局と端末、スマホアプリを組み合わせたもの。子供や高齢者は端末をつけて歩くだけ。

家庭用基地局が増えれば増えるほど、地域の防犯力が高まる。Wi-FiネットワークとIoTを活用した低コストの見守りシステムだ。

「同様のサービスを100万人都市に導入する場合、これまでは50億円規模の予算が必要だったが、ottaは2000万円で済む。2015年春から全国3拠点で実証実験開始しているが、部分的な導入では情報精度が向上しないという新たな課題も発見できた。この4月からは大阪府箕面市で全市の小中学生へのotta端末配布が決定した。街ぐるみの見守り効果を期待している」と、山本氏は語った。

「地方にはエンジニアがチャレンジしやすい環境がある」

午後のセミナー「ローカルシビック実践」でも、テクノロジーを活用してローカルな課題にチャレンジしている地域事例が4つ紹介された。

▲プレゼンターを務めるCivicWave運営事務局の鈴木まなみさん

タクシー会社の人手不足をテクノロジーを使って支援するサービスを開発し、「電脳交通」というスタートアップを徳島市で起業した坂東勇気氏は、「地方はエンジニアがチャレンジしやすい環境がある。決して大儲けはできないが、課題先進地域で成功したサービスは、世界に広がるという可能性を信じている」と発言。

▲Code for Tokushima エンジニア兼代表、㈱GTラボ 代表、㈱電脳交通 CTO 坂東勇気氏

会津若松市役所危機管理課の目黒純氏は、OpenStreetMapやQGIS、SRTMなどオープンソースのデータを組み合わせたハザードマップ作りを報告。「インターネット上で配布可能なデータだけで作成した。市民が近所の障害物などを書き入れることで、独自のハザードマップも作れる」と、防災分野へのオープンデータ活用を語った。

▲会津若松市市民部危機管理課 目黒 純氏

鹿児島県肝付町の保健師、能勢佳子氏は、担当する限界集落では、高齢者が孤立して点在するが、それをサポートする側のマンバワー不足も深刻、と現状を明かす。これを変えるため、株式会社たからのやまなどと共同で進めるプロジェクトを紹介した。

▲肝付町役場企画調整課参事兼福祉課保健師、肝付町地域包括支援センター保健師兼主任介護支援専門員 能勢佳子氏

「情報は相手が受け取ってはじめて情報になる。受け取る人がわからない情報や技術は役に立たない。知っている人が知っている言葉で伝えることが重要で、テレビ電話は貴重なツールになる。高齢者施設でロボットPepperと対話してもらうことで、認知症の人たちの表情も明るくなった」という。

千葉市役所からは村上彰久氏が、道路が傷んでいる、公園の遊具が壊れているなどの情報を市民から寄せてもらい、行政と市民が課題を共有しながら解決していく「ちばレポ」の取り組みを紹介した。

▲千葉市役所市民局市民自治推進部広報広聴課 主任技師 村川彰久氏

すでに運用は2年目に入ったが、「損傷した公共財を修繕する際に市民の意志決定が重要であるという認識は広まりつつある。いまは投稿されるレポートの内容から、対応の優先度評価を自動的に行う仕組みを研究中だ。今後は市民同士が話し合える場をさらに広げたい」と課題を挙げた。

地域課題に野心を燃やすリクルートホールディングス

「CIVIC TECH FORUM2016」のメインスポンサーであるリクルートホールディングスからは、Media Technology Lab.室長の麻生要一氏が講演。リクルートホールディングスは、「MashupAwards」の開催や渋谷のテックラボパークの運営などを通して、シビックテックベンチャーの起業を支援する一方、リクルート自身が地域の社会的課題に取り組む事業をスタートさせている。

▲株式会社リクルートホールディングス Media Technology Lab. 室長 麻生要一氏

一例に挙げたのが、千葉県柏市や三井不動産グループと協業で進める「スマートシティイノベーションプログラム」だ。柏の葉スマートシティを実証実験の舞台にして、「柏の葉ッカソン」などさまざまな地域活性プログラムを進めている。

「これまでの大企業の研究開発と違うところは、事業企画のアイデアをまだタネの段階から市民と共に検討しながら、ブラッシュアップしていくこと。最初は機密情報の観点からは大丈夫かという声もあったが、新しい刺激が生まれている」(麻生氏)

他にも長野県塩尻市に対して市の政策課題を提言し、行政に民間の知恵を活かす「コクリ・プロジェクト」、無認可保育園の一時保育の空き枠公開・予約システム「CoPaNa」、妊娠・出産から職場復帰まで応援するアプリ「カムバ!」などを紹介した。

より地域に密着したシビックテックの例としては、今年2月から三重県菰野町で実証実験が始まった地域住民間での送迎サービス「あいあい自動車」がある。

そのままだと、いわゆる白タクになるが、公共交通空白地に適用される自家用有償旅客運送制度を活用。リクルートはタブレットによるマッチングシステムなども開発した。

従来は、市場性が低いため民間企業が参入しにくかった地域社会での事業機会。しかし、シェアリング、フリーミアム、ITなどの手法を駆使すれば、公共性とコストを両立したサービスの開発は可能だ。

「昨年のフォーラムで、2015年はシビックテック元年になると話した。この1年を振り返って思うのは、やはり地域を主体にすることの重要性。また技術は可能な限りシンプルであるべきで、運用を前提にした設計を行う必要も痛感してきた。テクノロジーよりは運用のシンプルさが、プロジェクトの成否を左右する。

一方で、地域社会は必ずしも変化を好まない。とりあえずこの街に10年住んでからモノを言えと言われることもある。ただ、隣町で新しいサービスが導入されると、うちでも使ってみたいと関心が高まる。今度もコツコツと事例を積み上げながら、地域課題を解決する事業を展開していきたい」と、麻生氏は語っている。

多彩なプログラムとおもてなしが凝らされたフォーラム会場

フォーラムのプログラムは多彩に展開された。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスの木下斉氏による基調講演「ローカルに変革を」。

▲一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 木下斉氏

Code for Ibarakiの柴田重臣氏とソーシャルカンパニー市川裕康氏による「シビックテックの資金調達環境」について語るパネルディスカッション。

「米国シビックテックをめぐるエコシステムとコミュニティの可能性」や「ローカルにおけるシビックテックの哲学」を探るトークセッション。

シビックテック活動では国内有数の地「金沢」を中心に石川県内で活動をする様々なプレイヤーが議論するセッションなどが行われた。

ホール脇には、登壇者の方々と直接の交流が取れる「Ask Me Anything /何でも質問コーナー」。

受付でもらえる「CTFコイン」と引き換えに、登壇者やパートナー団体の地域の特産品と交換できるマルシェも。

会場入口近くには、キッズスペースも用意された。

テクノロジー&プログラミング学習ツールを体験できるテクノロジー学習ツールTouch & Tryコーナー。

親子で夢中に体験する様子も多く見られた。

講演や会議の内容を、イラストや図解で共有化するグラフィックレコーディングもリアルタイムに行われた。

(執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康・馬場美由紀 写真提供:CIVICTECH事務局)

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