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日台新時代 日本人は台湾人の「思い」にどう応えるのか

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 台湾の「親日感情」は多くの日本人が知るところだ。しかし、それに対して「ありがたい」「中国・韓国とは違う」で済ませてはいないか。

 彼らはなぜ、対岸の大陸ではなく、日本に視線を向けるのか。その本当の意味を知れば、日台が手を携え、中国と対峙することもできるはずだ。2016年は、日台新時代の幕開けでもある。ノンフィクション作家の門田隆将氏がレポートする。

 * * *
 2016年5月20日、民進党の蔡英文女史の総統就任で、いよいよ「新時代」が始まる。それは、日台新時代でもあり、同時に東アジア新時代でもあるだろう。

 私は、戒厳令がまだ敷かれていた1980年代から度々、訪台し、台湾に関するノンフィクションを何作も上梓している。そんな私にとって、2年前の「ひまわり学生運動」以降の台湾の動きは、「歴史に特筆されるべきもの」だった。ただ感動と勇気をもらいながら、私は、その変化を見つめている。

 蔡女史が、国民党の朱立倫候補に300万票以上の大差をつけて圧勝した1月16日、私は、投票を終えたばかりの多くの台北市民から、

「台湾人は台湾人だ」

 という言葉を聞いた。

 中国の習近平国家主席と「ひとつの中国」を認め合った国民党の馬英九総統。仮に国民党政権が続いていた場合、台湾は間違いなく中国による事実上の「併呑」を許しただろう。中国企業による台湾企業の株買い占めや、自由な土地投機が可能になった場合、あっという間に、台湾は中国に呑み込まれるからだ。そんな法律ができ、あるいは協定が結ばれ、その政策が実行に移された時、台湾は「台湾でなくなる」のである。

 ひまわり学生運動は、国民党内部での馬英九総統と王金平・立法院院長との激しい政争のさなかに起こったため、たまたま王院長の“深謀遠慮”によって学生たちが「排除されない」という僥倖が生じた。

  しかし、国民党政権が同じ轍を踏むことは二度とないだろう。その意味で、新しくスタートする蔡政権は、台湾が台湾でありつづけるための“土俵際の政権”だったと言える。

 私には、台湾で“懐日ブーム”が続く中で新時代が始まることが感慨深い。しかも、そのブームの主体は、20代、30代という若い世代なのだ。

 太平洋戦争に敗れるまでの50年間、日本統治下にあった台湾では、日本と台湾の文化が融合し、そして台湾を故郷とする“湾生”と呼ばれる日本人も沢山生まれた。

 しかし、戦後、台湾の人々も、湾生たちも、長い間、自らの「郷愁」を封印してきた。蒋介石による外省人の台湾支配は、「日本統治時代」を懐かしむことなど、許さなかったからだ。だが、戒厳令下の白色テロ時代を生き抜いた人々は、本省人の李登輝総統の“静かなる革命”を経て、台湾人としてのアイデンティティを取り戻していった。

 私は、日本のアニメを見て育った若者が、新たな“懐日世代”を形成していることに歴史の深淵を感じている。自分たちの祖父母、あるいは曾祖父母たちと同じ思いを共有するようになった若者。それは、心と心を通わせあった、かつての日本人と台湾人の時代がふたたび巡ってきたことを意味するからだ。

 敗戦で台湾人の恋人を置いて引き揚げた日本人男性の「手紙」をモチーフにした映画『海角七號』が興行収入5億3000万元を超える空前のヒット作となり、1931(昭和6)年の甲子園で準優勝に輝いた嘉義農林ナインと日本人監督の姿を描いた『KANO』もヒット。さらに、年老いた“湾生”が故郷を訪れる姿を追ったドキュメンタリー映画『湾生回家』も、ドキュメンタリー作品としては、異例のヒットとなっている。

 いずれも、「日本」と「郷愁」が主なテーマとなった感動作である。これらが大ヒットする懐日ブームの中で、民進党政権は誕生したのである。アンケートをすれば、必ず8割近くが「日本が好き」と答える台湾。彼らが頼りにするのは、その「日本」にほかならない。

◆日本人の覚悟が問われる

 1972(昭和47)年、中国との国交正常化に突き進んだ田中角栄内閣は、非情にも台湾(当時は中華民国)を切り捨て、「日華断交」をやってのけた。うしろ足で砂をかけるような断交の仕方に、台湾の世論は沸騰した。

 しかし、それでも、台湾人は日本への思いを断つことがなかった。その台湾人の温かい心が、現代の若者にまで「引き継がれた」のである。

 では、私たち日本人は、そんな台湾人の思いにどう応えられるのだろうか。すでにアメリカと中国は、台湾をめぐって激しい鍔ぜり合いをおこなっている。

 先に仕掛けたのは、中国だった。2005年4月に、中国では「反国家分裂法」が制定されている。これは、台湾で“独立”の策動が見えた場合、台湾独立派分子に対して「非平和的手段」を取ることを合法化した強烈な法律だ。

 一方、アメリカも負けていない。アメリカは断続的に台湾に武器供与を続けており、国民党の馬政権に対してだけでも、8年間に総額およそ200億ドル(約2兆4000億円)相当の武器売却をおこなっている。昨年12月には、中国の猛反発をものともせず、ミサイルフリゲート艦や対戦車ミサイルなど総額18億3000万ドル(約2200億円)の武器売却を決めた。

 かつての“反共の砦”台湾に対して、アメリカは中国と国交を樹立した時ですら、「台湾関係法」を結び、以降、陰に陽に台湾をバックアップしてきたのである。「国共内戦」終結以来、まさにアメリカの抑止力によって中台関係は、平和が保たれてきたのだ。

 極めてデリケートで微妙なこの関係は、民進党の蔡英文政権発足によって、どんな変化を見せるのだろうか。それは、台湾-日本-米国という自由と民主主義という共通の価値観を持つ三者が、「力による現状変更」を続ける中国とどう対峙していくのか、ということである。

 台湾関係法によって台湾の防衛義務を有するアメリカとのバランスが崩れ、米・中が武力衝突する日が訪れた時、日本は果たしてどうするのだろうか。

 その時、「日本と密接な関係にある他国(ここではアメリカ)」が攻撃を受け、「日本の存立が脅かされ、国民の生命や幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」と判断された場合、一体、どうなるのだろうか。

 それは、私たち日本人の覚悟が問われる「日台新時代」の到来なのかもしれない。

●かどた・りゅうしょう/1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒。ノンフィクション作家として、政治、司法、事件、歴史、スポーツなど幅広い分野で活躍。『この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。最新刊は『日本、遥かなり エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』。

※SAPIO2016年5月号

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