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副業禁止の禁止、海外人材のビザ取得の支援を政府に期待。未踏OBの本音も飛び出した「未踏会議」

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日本のGDPの成長率が低迷しているのは先進国だからではない

未踏会議は未踏IT人材の活用の促進、さらなる活躍フィールドの拡大を目的とした、情報処理推進機構(IPA)と一般社団法人未踏が連携して開催するイベントである。

2回目となる今年度は、会議(シンポジウム)に加え、ビジネスマッチングの場も用意されていた。同イベントはニコニコ生放送でも放送されたが、平日の昼間に開催されたため、見逃した方も多いかも知れない。約2時間半に及んだ同会議の内容をダイジェストで紹介する。

未踏会議のオープニングトークを務めたのは、一般社団法人未踏のボードメンバーであり、慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏。夏野氏は最初に会場に集まった参加者に謝辞を述べた上で、「なぜ、未踏が今大事なのか」について次のように語った。

「ITが社会に広まったのは、2000年以降。ブロードバンド、モバイル回線が普及し、生活がガラリと変わった。だが、1994年~2014年における日本のGDPの成長率は約5パーセント。一方IT先進国である米国のGDPの成長率は150%。先進国だからGDPが成長していなというのは間違いで、米国がこれだけ成長したのは、ITを徹底的に使いこなしたからだ。

日本はITを使いこなせていないため、成長率が5%に留まったのだ。日本にはカネ、人、モノ(技術)という経営の三種の神器が揃っている。それを生かせば社会を再活性化する、そのきっかけに未踏がなってほしい。そのためにもより一層の支援、そして未踏人材の活用をしていただきたい」(夏野氏)

続いて、来賓として経済産業大臣政務官・星野剛士氏が登壇し、挨拶を行った。星野氏は30年前に自身が米国留学時に、米国人の友人たちが日本の製品であるソニーのウォークマンを買うためにアルバイトをしていたという話を引用。

「あのときは日本の企業が世界の人を魅了する製品を世界に出していた。翻って今はiPhoneに日本の部品が4割使われていることをすごいと言っている。それで良いとははずはない。経済産業省は規制省庁ではない。日本の経済が強くなること目指すのが我々のミッション。未踏会議に心から期待している。経済産業省としてもより一層力を入れて応援していきたい」と未踏という取り組みにエールを送った。

生体認証クラウドサービスの「Liquid」

最初のプログラムは「IoTラボセレクション受賞3社による特別講演」。IoTラボセレクションとは、IoTを活用した先進的プロジェクトを選考する会議である。

その受賞企業3社による特別講演が行われた。最初に登壇したのはグランプリを受賞したLiquidの久田康弘氏。同社は2013年に設立された生体認証のクラウドサービスを提供しているベンチャー企業だ。

「自分の証明を自分だけの情報で行うことをコーポレートミッションに掲げていると久田氏は語る。

従業員数22人のうち、その多くがエンジニアだが、ビジネス部門も弁護士経験のある人材がいる。同社が提供する生体認証決済サービス「Liquid」はすでにさまざまな店舗で導入され、活用されている。

政府やさまざまな企業と連携し、生体認証決済サービスと電子チケットサービスを組み合わせた新たなサービスの提供や、新たなインバウンドサービス実現のための実証実験が行われている。

同サービスがすごいのは、「検索に強い生体認証エンジンを作っている」ところ。

「私たちは今後も人工の視覚野をコンピュータで再現できるところにフォーカスしてコアな技術開発を行っている」と久田氏は語る。

またそのコア技術を社会インフラに生かすべく、同社では研究所も設置している。

そこでは、コア技術の生体以外への応用も追究。「例えば事故車両の分析をレコーダーや画像を分析したり、ドローンを使って人間以外の生体を可視化するプロジェクトも行っている」と久田氏は語る。

最後に未踏人材への期待について久田氏は「技術革新によって人々の暮らしがより便利になり、より持続可能な社会を実現していく担い手になってほしい」と語り、講演を締めた。

「ゼロアグリ」で農業を成長産業に-ルートレック・ネットワークス

続いて登壇したのは、準グランプリを受賞したルートレック・ネットワークス、代表取締役社長の佐々木伸一氏。

農業に休日を IoTにより農業を変える」というタイトルで講演。農業の課題と言っても日本と世界では課題が異なる。日本の課題の第一は耕作放棄地がどんどん増えていることである。「山手線の1.4倍が毎年増えている」と佐々木氏は語る。

第二に農業就業人口が25%減ったこと。第三は高齢化が進んでいること。「平均年齢は67才」これにより、栽培技術伝承の仕組みが崩壊している。一方で、世界の最大の課題は「水の枯渇」。取水量の70%が灌漑に利用されているのだ。

また、肥料による環境汚染が進んでいることも問題だと指摘する。ではどうすれば世界の農業が救えるか。そのための手法としてあげられるのが点滴灌漑であり、「これが世界の食糧難を救う」と佐々木氏は言う。

「40%の作物が点滴灌漑によって作られているが、日本では普及していない。その理由は数値を管理してこなかったから」と説明する。

そこでこれまで経験値で実施してきた農業をIoTの力を使って改良していくのが、ルートレック・ネットワークスが提案する「ゼロアグリ」である。

これは地下の状態を監視し、作物の生長状態に合わせ、培養液を自動で供給するクラウドサービスである。

作物の状態はタブレットで、いつでもとこからでも見ることができる。

農業を成長産業に持って行くためには、センサーネットワーキング→ビッグデータ解析→リモートコントロール→ユーザーエクスペリエンスという「フィードバックループ」が重要になる。

それを実現するためにも、未踏の人材に期待したいと佐々木氏は言う。すでにゼロアグリは導入実績が8件で22品目に適用されている。

「灌水・施肥の労働時間を90%削減、点滴灌漑により水と肥料を50パーセント削減」を実現しているという。「日本発の栽培アルゴリズムの支援をよろしくお願いしたい」と語った。

排泄検知シートLifilmでおむつ交換の時間を削減-aba

3番目に登壇したのは、同じく準グランプリを受賞したabaの宇井吉美氏である。宇井氏は現会社の前身となるプロジェクトを学生時代に立ち上げた。

それを商品化したのが、排泄検知シート「Lifilm(リフィルム)」である。これを思いついたのは、学生時代に経験した介護実習だったという。

介護の現場では介護職の方が排泄に関してさまざまな苦労を仕入れたれていた。介護の現場では随時交換はできない。

そこで定時交換のたびに、おむつの中を見て、汚れていれば交換するということを行っている。「しかし定時交換の2割は空振りで、そのために50時間以上の時間を損失している」と、宇井氏は語る。

介護は重労働で3年以内に離職する職員は72%に上っているという。そこで宇井氏は介護職の方の意見を丁寧にヒアリングしていった。

その結果「非装着でありながら、おむつの中を見ることなく、おむつの中を知ることができるもの」を実現したのが、Lifilmだ。

Lifilmは現場が求める使い勝手と検知性能を満たした商品である。最後に未踏人材に期待することとして、「現場の声を紐解いて、丁寧に見ていくこと」と語った。

IoTとディープラーニングの技術を組み合わせて業界を変える

未踏クリエイターズトークでは、起業して成功した3人の未踏クリエイターが登壇。

最初に登壇したのは、Preferred Networksの取締役副社長の岡野原大輔氏。同社はIoTとディープラーニングの技術を組み合わせたところにフォーカスしている。

ターゲットとしている業界は交通、製造業、バイオヘルスケアだという。
中でも「バイオヘルスケアは、これから一番データが出てきてインパクトを与える分野だと考えている。さまざまなデータを活用して治療に活かしていくことで、大きな貢献ができるのでは」と期待を述べた。

実際の活用例のデモンスとレーションを披露した。最初は自動運転のデモンストレーション。続いてファナックとの協業でばら積みから台に乗せていくという作業をロボットが勝手に学習して行うという実証実験の様子も紹介した。

「ロボットは8時間の学習で9割できるようになる」と岡野原氏は語る。

このような新しい技術の開発に取り組んでいる同社の人材に求められているのは研究力。具体的にいうと問題経穴能力やサーベイ力、専門知識、プレゼンテーション能力である。

最後に未踏人材には「本当に重要で困難な問題に取り組む気概と大きなリスクを取れる挑戦心、フォロワーではなくリーダーになることを期待したい」と語った。

デザインイノベーションをテーマに事業を展開する未踏OB

続いてtakram design engineering代表の田川欣也氏が登壇。同社は従業員40人ほどの会社だが、未踏の人材が田川氏を含めて5人在籍。東京とロンドンでデザインイノベーションをテーマに事業を展開している。

田川氏は英国Royal College of Artのイノベーションデザイン学科の客員教授も務めている。「デザインとエンジニアリングの両方のスキル・経験を有する人材が集まっている」と田川氏は語る。

同社が手がける分野はコンセプトメイキング、ユーザーインタフェース/ユーザエクスペリエンスデザイン、プロダクトデザイン、建築/スペースデザイン、インスタレーション、ブランディング/コミュニケーションデザイン、クリエイティブ・トレーニングプログラム、デザインリサーチなど多岐にわたる。

これからのエンジニアに求められるのは、「R&Dから出てきたときに世の中にデプロイしていく人材。ビジネス的な思考があり、テクノロジーがわかる人。そしてクリエイティブがわかる人。

この3つを分け隔てなく理解して、マネージメントしていく人材が求められていくと思われる」と語り、その一例として同社が手がけているプロジェクト「RESAS Prototype」を紹介した。

同プロジェクトは経済産業省の地域経済分析システム「RESAS」のプロトタイピングを行ったもの。大規模な経済データを美しく表現するため、さまざまな先進的可視化手法を考案され、テストが行われた。

2025年にロボットがすべての家庭に1台ずつある世界を実現

3番目に登壇したのはユカイ工学・CEOの青木俊介氏。青木氏は「2025年にロボットがすべての家庭に1台ずつある世界を実現する。これが当社のビジョン」と語る。

この言葉を表すように、同社にはロボットを作りたい人だけが集まっている。同社ではBOCCO(家族をつなぐコミュニケーションロボット)をはじめ、さまざまなロボットを開発し提供しているという。

青木氏は未踏人材を「特殊部隊(コマンドー)っぽい」と例える。特殊部隊は戦略目標があいまいで、ほとんどが現場で決まる。

武器は基本、自分が持っているモノのみで、場合によっては奪ったり拾ったりして増強する。補給部隊も自分でなんとかすることが一般的だ。これが未踏人材に当てはまるというのだ。

「イノベーションは破壊的な発明である。そして発明とは技術による問題の解決である。これからは未踏人材も技術を持っていることはもちろんだが、社会のニーズにも詳しくないといけない。そういう人材が育ってくることを期待する」と語り、トークを終了。

画像解析・機械学習技術を活用したビジネスプロデュース

最後に登壇したのはABEJA・取締役CTOの緒方貴紀氏。同社は画像解析・機械学習技術を活用したビジネスプロデュース事業を展開している。

「国内外の有名大学教員に顧問として参画。また従業員の4分の1~3分の1が外国人のメンバーで、合計7カ国の人たちが働いている」と緒方氏は語る。

例えばIN-STORE MARKETINGでは、ABEJA Dashboardを提供。これは実店舗内におけるデータの取得から解析、可視化までを行うデータ解析プラットフォーム。

例えばソーシャルデータやPOSのデータ、カメラのデータ、センサーのデータなどをGoogleアナリティクスで処理し、店舗にどういう属性の人が入ってきたかなどが解析できるようになるという。

現在実績として「10テラバイトのデータを解析している」と、緒方氏。現在、小売業にフォーカスしており、すでに数百店舗に導入している。

また、東急電鉄と一緒に街の最適化にも取り組むプロジェクトも進行している。「IoTは便利なモノから不可欠なモノになっていく。いかに本質的な課題に注力できるかがこれからの課題」と展望を語る。

最後に未踏人材には「破壊的技術を発見することを期待したい」と語った。

3人の未踏OB起業家と夏野氏によるパネルディスカッション

この後、クリエイターズトークに登壇した岡野原氏、田川氏、青木氏の3人のパネラー、そして夏野氏がモデレータとなり、未踏人材によるパネルディスカッションが行われた。

今回、登壇した4人は2000年前半の未踏人材。夏野氏は「未踏の初期のメンバーがこうして育ち、成功者としてこのような場に登壇してくれるのは嬉しい限り。自身の企業をさらに理想の姿にしていくために困っていることがあれば教えてほしい」という夏野氏の問いかけから始まった。

「事業的には実用化というところまではもう一息のところまで来ているが。一般の方が使うまでにはまだまだ障壁がある。一番、頭を悩ませているのが人材の獲得だ」と岡野原氏は回答。

田川氏は「確かに去年まで当社も人材に困っていた。IT分野での成功は世界でどうやって押さえていくかになる。だからこそインターナショナルな人たちに入ってほしい。そこで昨年、英ロンドンに支社を作ったことで楽に優秀な人材が採用できることになった。ただ、日本ではビザの取得が難しいので、インターナショナルな人財の採用が難しい。そこが悩ましいところ」と語る。

岡野原氏も田川氏の話に相づちを打ち、「僕たちも国際的な人材の獲得に苦労していて、ようやく米国にオフィスを設けたことで、なんとか採用できるようになった。ただ、インターナショナルといっても米国だけ見ているだけではダメで、シンガポールや中国などのスタートアップから輩出される人材を見ていかなければと思っている」と付け加えた。

青野氏が困っていることは「経営の能力だ」と語る。そして「誰も教えてくれないのでわからない。本当に手探りだった」と振り返る。現在はベンチャーを起業された方が支援には行っているので、だいたいのコツがつかめてきたという。

岡野原氏も「そういうビジネス面で相談できるメンター的な人がいるというのは、エンジニアの起業には重要だと思う」と相づちを打った。

政府に期待するモノとは

夏野氏の「政府に期待するもの」という問いかけには、岡野原氏は「海外の方が働く際のビザの支援やサポートをお願いしたい。海外の方からインターンシップに参加したいと言われても、ビザの取得に6カ月かかるのでは、インターンに来てとは言えない。もう少し期間を短くしてほしい」と回答。

田川氏も、「インターンシップに対してのビザの支援は大賛成。ワーキングホリデーもあるが、あれは2国間協定なのでパイプが細い。手続きを簡略化するだけでもかなり変わってくると思う」と付け加えた。

自身が期待する政府に期待するモノとしては、「起業して1~2年目は政府の支援事業に助けられたので、感謝している」と答え、「そういう中小企業やベンチャーの支援をこれからも積極的に行ってほしい」と要望も。

さらに政府に期待するものとして夏野氏は「副業禁止の禁止を進めてほしい」と提案すると、田川氏は「大賛成」と相づちを打った。

また岡野原氏は「日本人は働き過ぎで、学習する時間がない。専門を極めるのはいいが、その専門が通用しなくなると、他に移れない。そういう意味では別のスキルを学べる機会に副業がなると良いのかも」と答えた。

この副業禁止の話には、会場の参加者も大いに興味を持ったようで、「企業風土や企業文化の醸成ができるのか」という質問も。

それに対して田川氏は「全員兼業だとぶれるかもしれないが、うちの会社は私を含め、リーダーを務めている人材は2枚目の名刺を持つことを推奨している。これにより、面白いことが起こっており、会社の相対化ができ、会社の中味がリッチになっている。今の方が健全だと感じている」と回答。

岡野原氏は「オープンには明示していないが、オープンソースのコミュニティへの参加は勧めている」、青木氏も「企業が成長して大きくなり、文化や風土が明確になれば、兼業して個人の興味で自分の能力を拡げていくこともできるのでは。兼業はベンチャーが成長した後の話なのでは」と回答した。

約1時間弱に及んだパネルディスカッションはこれで終了。

2016年度の未踏事業は応募数が前年の100%増し。ますます期待できる!

最後に、未踏事業統括プロジェクトマネジャー 竹内郁夫氏が登壇し、閉会の挨拶を行った。

「2002年の未踏ユースでプロジェクトマネジャーを務めて以来、16年間未踏でプロジェクトマネジャーを務めてきた。その私から見ると、未踏はいろんな意味で成長しています。未踏会議は未踏出身者の活躍をみなさんに紹介する場。未踏に新しい人材を取り込むことを仕事としている。

2016年度の応募数は、昨年度と比較すると100%増しになっていると言う話を聞きました。ぜひ、2016年度の未踏を期待してほしい。夏野氏と二人三脚でやっていくので、これからも未踏をよろしくお願いします」

続いてIPA理事長富田達夫氏による挨拶が行われた。

「未踏事業はプロジェクトマネジャーが独自の目利きでとんがった人を選び、9カ月間熱意を込めて指導していく。そうすることで未踏人材はすばらしい成長をしていると思う。いかに活躍しているか、いかに苦労しているか、参加の人たちと共有して、そこで課題となっていることを解決することが日本のイノベーションを起こしていくことにつながると実感しました。

IoTのイノベーションを加速していかないと、日本は世界で勝っていけない。日本が世界に対して重要な役割を果たすためにも、優秀な人材、つまり未踏的人材のさらなる輩出が求められる。未踏的人材を出していけるかにかかっていく。そういう人材をどんどん輩出し、とんがった日本にしていきたい。これからも期待しています」

これで未踏会議は終了となった。その後、19時からは未踏ナイトという未踏OB・OGを対象とした発表会と懇親会が行われるなど、3月10日はまさに未踏な1日となった。

(執筆:中村仁美 撮影:刑部友康)

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