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デジタルとアナログの境なき魔法の世紀、サイエンスがアートを進化させる

MITメディアラボの石井裕らが中心となり科学の最先端の研究者やエンジニア、実業家に「前陣速攻」つまり「知的スピンをかけて、斬新なコースにボールを打ち返す」ような議論を呼びかけた「Japan Innovation Leaders Summit 3.0」。

「Arts/Technology」セッションのモデレーターはMITメディアラボの石井裕。

パネリストは河口洋一郎、岩田洋夫、草原真知子という日本のテクノロジーアート、メディアアート、デバイスアートを築いてきた大御所に混じって、今、最も注目を集める20代のメディアアーティスト、落合陽一が登壇した。

1番最初に話をしたのは、日本におけるCG(コンピューターグラフィックス)アートの先駆者で東京大学大学院情報学環教授、さらには霧島アートの森の館長でもある河口洋一郎は、「テクノロジーに依存したアートは大変」という話から切り出した。

彼の古い作品の多くは今のコンピューターで見ると解像度が低いため、現在、その多くを8Kの解像度でレンダリング(合成)し直しており、時間的にも費用的にもコストがかかるという。

ただ画質が変わるだけではない。画面上の仮想空間で、周辺状況に応じて進化する人工生物(映像)の作品では、同じアルゴリズムでも、それを8K解像度で動かし直したところ増殖率が変わるなど動き方が変わってしまったという。

一方、ブラウン管を素材の一部としてに使ったアート作品の中には、液晶テレビにしてしまうと成立しなくなるものもある。

テクノロジーに依存したメディアアーティストは、テクノロジーに依存する限りこうした課題を抱えることになると警鐘を発した。

河口は近年、コンピューター画面の中で進・自己増殖させた有機的な形を持つ人工生物を立体像の作品に仕立てているが、これを地域活性化に役立てる試みもしているという。

2番目にマイクを握ったのは、岩田洋夫は「デバイスアート」を提唱した人物の1人で、工学とアートの接点を模索し続けている。1989年には仮想空間の中を歩き回れる装置なども作っていた。

彼がアート作品を作り始めたのは、触覚などに訴えかけるハプティックデバイスの成果は論文では伝わらないと感じたからだという。

最近では、筑波大学に人間の身体能力を拡張させるエンパワースタジオを設置。手を羽ばたかせると鳥のように空を飛べる(宙吊りで高く舞い上がっていく)作品や身長5mの巨人になった感覚で歩行を楽しめる作品などもつくっている。

3人目のスピーカーは落合陽一(筑波大学)──このセッションの最年少で一番人気の研究者だ。

落合といえば、いろいろなイベントの演出で引っ張りだこ。最近ではドンペリニョンのお披露目パーティーで、勢いよく泡だつシャンパーニュの中にホログラム映像を映し出して人々を魅了した。

有名なのは、モノを宙に浮かび上がらせて自由自在に操る技術で、宙に浮かんだ小さな発泡スチロールのボールを整列させて模様を描いたり、ダンスをするように動かしたりもできる。

その様子をYouTubeで紹介した動画は既に350万再生を超えた。音の波を重ね合わせ、重なる波の間でモノを挟んで動かすという原理で、軽いものしか動かせないが、これを応用すれば、ネジ留めをしようと手を出すと、そこにネジの方から飛び込んでくるようなことも可能になると落合は言う。

これまでつくってきた作品として、珠が勝手に上下に動き結果を表示するソロバンや、貼り付けた付箋が勝手に上下に動いて資料を整理してくれる事例映像を紹介。中でも衝撃的だったのは、何もない宙空にデジタル映像を投影する技術だ。

植物の種(本物)の上から光で描かれた芽が出てきて葉が開くという物質と映像、リアルとバーチャル、アナログとデジタルが融合した作品だ。

彼はこのようにデジタルとアナログの境目が見えなくなるような魔法の世界を目指していきたい、という。

自分の研究を成果にするだけでなく、日本の科学分野の研究に対しての注目も行った。「日本の研究がダメになったのは税金に頼っていたから」だと前陣速攻の議論で話を切り出した。税金に頼ると保守的な作り方になってしまう。そうではなく事業化を視野に入れて研究をするべきだ、というのが彼の弁だ。

4人目の登壇者は草原真知子(早稲田大学)。石井裕のNTT時代の作品、クリアボードを初めてメディアアートの文脈で紹介した人物だという。

「アートは前陣速攻だけではなく、むしろ変化球が多く、その駆け引きが楽しい」という草原。

「前陣速攻のアート」が時代の最先端に切り込むアートだとしたら、今の状況や前提を別の角度からひっくり返す「変化球のアート」もあり、その変化球を打つことで逆にそのテクノロジーにどんな可能性があるかを見せてくれる側面もあると語る。

そうした変化球の1形態が「バックミラーのアート」。マーシャル・マクルーハンは否定的な意味を込めて「われわれはバックミラーを通して現在を見ている」と語ったが、バックミラーを通して過去を見ることで初めて見えて来る現実も多いと、ブラウン管テレビやオープンリールテープを素材に使った若手アーティスト、和田永の作品などを紹介した。

会場から「エンジニアリングとアートの違い」が質問されると草原は、八谷和彦のポストペットを例に挙げた。

「ポストペッドではクマがメールを送りに部屋から出て行った後、しばらく帰ってこなくてメールが送れない、ということもある。エンジニアが作ったらそういうソフトにはならない。そうした意外性や意表を作るところが人気で女性も使うようになった」というと、観客席に居合わせた八谷自らが「当時は電子メールはギークやエンジニアなど特殊な人しか使っていなかったが、女性とコミュニケーションできなかったら通信手段としての価値がないから作った」と補足した。

ここに落合も参戦する。今、アートの意味合いはだんだんコミュニティー活動なども含めたコミュニケーションになりつつある。そんな中で、そのコミュニケーションをどんな形で体現するかのスピン(工夫)に作家性が表れる。そんな時代のアートで大事なのは事業化やプラットフォーム化を考えて、作品をいかに社会にインストールし保存していくか、つまり根付かせるかだというのが落合の考えだ。

セッションは、河口が「アートは、もっとサイエンス寄りになってくることで無限の可能性を持ってくる。時間のズレ、光のスピード、重力、微重力など、あらゆるものがアートになる」としめくくった。

SFが科学をインスパイヤし、科学がSFに引用される

「SF/Deploy」というセッションは消えゆくSF(サイエンスフィクション)とリアルの境目がテーマだ。

モデレーターは「攻殻機動隊」の影響で「光学迷彩」という透明マントを作り、それを車にも展開した稲見昌彦。

最近では、彼が作った「光学迷彩」の仕組みが、漫画の「ゴルゴ13」や映画「アヴェンジャーズ」にも登場し、「攻殻機動隊」のコラボイベントにも稲見が関わる、といった形での還流あるいは「相互作用」も起きている、という。

最初のスピーカーは位置情報ゲーム「イングレス」が世界的にヒットさせ、グーグルから独立しNiantic(ナイアンテック)ラボを立ち上げたジョン・ハンケと、この日は通訳に徹した川島優志だ。

SF好きのハンケは、自然とコンピューターゲームも好きになったが、最近、子供達が部屋に閉じこもってゲームをすることに不安も抱く。今、再び注目されているVRの技術も、結局は人を屋内に閉じ込めてしまう技術だ。

そんな彼が、人々が元気に外で動き回れるようにと開発したのが「イングレス」という位置情報を使ったゲームで、このゲームでは外を歩き回り、いろいろな地域を訪問して進めていく。

世界1400万人ダウンロードのヒットで、プレーヤーが歩いた距離の総和は2億5000万キロ、地球と太陽を往復する距離だという。老若男女がプレイし、ダイエットに活用する人、地域活性化に使う地域もある。

イングレスで知り合ったカップルの子供も誕生し、イングレスのキャラクターの名前が付けられ、まさに現実の世界に影響を及ぼしたゲームとなっている。

その後、この事業はグーグル、任天堂、ポケモンカンパニーが出資するNiantic社として独立。そのNiantic社が、今年中のリリースを目指して開発中なのが「Pokemon GO」だ。

世界を席巻し、アニメ作品ともなった「ポケモン(ポケットモンスター)」が、画面の中から現実の世界へと飛び出す。プレーヤーは、屋外に飛び出して街中や大自然の中でポケモンを探したり捕まえたり、交換したりできる。

ハンケは「将来、子供たちがポケモンが実在するんじゃないか、と思えるような製品にしていきたい」と語った。

3人目のゲストはEvernote社の上野美香。「EvernoteはAIの会社」と切り出した。ただし、ここでいうAIは人工知能(Artificial Intelligence)ではなく拡張知能(Augmented Intelligence)だ。攻殻機動隊などのSF好きな上野は、Evernoteが、もともと第2の脳、外部脳を目指していた会社であることに惹かれて入社したという。

あらゆる情報の記録を目指しているEvernoteだが、実際には記録した瞬間に身体的な感覚の一部は失われてしまう。Evernoteでは、ノート帳メーカーのモレスキンとコラボをしているが、これも身体的な感覚から記憶を呼び戻そうという試みで誕生したという。

4人目のゲストはユビキタスエンターテイメント社代表の清水亮。SFアニメ「夜桜四十奏」の映像を見せ、作中に彼が作ったタブレット型コンピューター「enchantMOON」が登場した様子を紹介する。

「Windows 20やMac OS X 15と聞いてもワクワクしない」という清水。その原因は20世紀に端を発するコンピューターが、ただの情報を扱う装置に過ぎないからだという。

彼は20世紀を「情報の時代」と総括する。マスコミュニケーションが発達し、DNAが解析され生命もつまるところは情報とわかり、そうした情報を扱うコンピューターテクノロジーが急速に発展したが、コンピューターを使っても「頭の中までは検索できない」。インターネット上の「情報」の多くは、人々がいろいろ考えを巡らせて作り上げたアウトプット、つまり結果のみ。

これに対して21世紀では、その結果が醸成されるまでの思考プロセスも重視される「思考の時代」、「クリエイティビティーの時代」になると清水は言う。

彼の論では、20世紀が「情報」しか扱っていなかったのは、これまでのコンピューターがキーボードを主な入力デバイスとしていたから。人はキーで文字を入力するときには、既にアイディアを情報として固めてしまっている。

アイデアを思考として醸成していく過程では、人々は今でもノートに走り書きをしたりと手描きを行っている。そこで彼が目指しているのは手描きができるコンピューターを作り、それをAIと融合していくことだ。

例えば花見のチラシ1枚つを作るにしても、手書きなら数分でかけるものが、ワープロソフトなどでは、やたらと手順が多く、手間も時間もかかってしまう。

そこで例えば太い字で描いた文字は勘亭流フォントに変えてくれたり、キーワードを書くとその画像を表示してくれるようなインテリジェンスを持った人工知能内蔵ソフト、「考えて、書いて、発想する」という思考プロセスそのものをサポートする道具、S-IVB(エスフォービー)を作っているという。

5人目、最後のパネラーはIncrements社の及川卓也。マイクロソフトやグーグルのスター・エンジニアとして有名だった彼だが、東日本大震災がきっかけで、まったく別の活動を始めた。

震災でテクノロジーができることの限界を感じた及川だが、その後、東北被災地の課題をソフトウェア開発のプロセスを震災の課題解決にも応用できると考えて、Hack for Japanという団体を立ち上げた。

ここからはガイガーカウンターや食品の汚染状況を調べるアプリなど様々な成果を出してきた。IT DARTという団体でも防災・減災、震災復興にITを生かす活動をしている。

ただ、仮に災害に備えるためのアプリを作っても災害の最中、そんなものを使っていては逃げ遅れてしまう。

及川は何もしないでも、スマートフォンや街そのものにインストールされた位置特定技術が、ユーザーが今、歩いているのか車に乗っているのか、どこにいるのかを把握して的確な指示を出してくれる未来を夢見ている。

テクノロジーに仕事が奪われることを恐れている人もいるが、テクノロジーに奪ってほしい仕事もある。例えば災害時に避難所でケンカの元になる炊き出しのご飯の配分や、誰が病院で治療を受け、誰が避難所に残るかなどの判断は大変難しい。

災害時は繊細な対応も求められるため、本当にテクノロジーで置き換えるべきか、置き換えるとしてもいつ可能なのかは慎重に考える必要があるが、同じような平時の状況で人間が判断すると揉め事になるようなケースにおいてはテクノロジーに置き換えてもらって構わない。

もう少し日常に近いところでは、誰が掃除当番かを伝えるような役割も人が行うと角が立つので、社会にbot(対話するプログラム)が組み込まれれば緩和されるのではないか、と及川は言う。

それに続くパネル討論で、清水はマイクロソフトの「すべての情報を指先で」やグーグルの「世界中の情報を整理」といった会社のミッションは蒸気機関のように古い印象を受ける、という。人は何かを見たときに、それを認知し、その結果として「情報」が生まれるのであって、「情報」になる前の何かにもっと着目されていい、というのが彼の主張だ。

「記録」と「記憶」の違いは何かという議論で、上野美香は「データ(情報)」が人の魂(ソウルまたは攻殻機動隊でいうゴースト)と混じり合うことで「記憶」になるという論を展開。「データ化した時点で、そこで得た体験などの要素は消え去り、自分の人生の中でどのような位置付けになっているか、といったことが抜け落ちてしまうので、いずれそうしたこともわかるようになればいいな」という。

及川は「最近、老化が進んで記憶力なくなった自分を励ますようにaging(老化)は進化だと考え始めるようになった。世の中には覚えておきたくないこともたくさんある」。自分の人生の経験を通して必要でない情報は、耳からも目からも入らなくなり、記憶にも定着しなくなるという及川。「これに対して今の記録は永久に保持を前提にしているが、今後、agingの観念も入ってくるのではないか」との論を返した。

Closing:次の世代を担う若者たちへ

イベントは発起人でもあるMITメディアラボ、石井裕の講演で閉幕へと向かう。

石井は「太陽と惑星が一列に並ぶことめったにない」それが並ぶ「惑星直列は一期一会である」とし、自分の人生で出会ってきた師達に感謝の思いを述べる一方で、これから活躍する若者達には「出る杭は打たれるが打たれないくらい激しく突きでるための「出杭力(でるくいりょく)」、原野を自分で切り開く「道程力(どうていりょく)」、八谷も引用した山を自分で作ってしまう「造山力(ぞうざんりょく)」の3つを大事にせよと訴えた。

大事なのは視点を磨くこと。人類は宇宙も最初は裸眼で見ていたが、その後、望遠鏡を作った。しかし、それも地上から見る宇宙の像しか見せていない。

その後、ハッブル宇宙望遠鏡が宇宙から見た宇宙の像を教えてくれた。そしてボイジャーが、その視点をさらに遠くに広げてくれた。

「悲しい現実だが人は世界を自分の視点でしか見ることができない。だからその視点をどれだけ広げられるか、そして他流試合を続けて自分のぬるま湯の外に追いやれるかが大事」と石井氏。

「そうすることによってホリスティック(全体的な)視点に近づくことができ、その中で自分が限られた人生の中でどこにフォーカスするかを見つけることが大事」だと言う。「学際性も大事で、それぞれの思想の枠がぶつかり合うところにこそ大きなチャンスがある」

デジタルの話もバイオの話も、アートの話もあった今回の会が、そうした視点を広める一助になり、「振り返ってみたらこのイベントがきっかけでこれを始めた」というイベントになれば嬉しいと石井は講演を締めくくった。

6時間半に及ぶ、イベントの動画はYouTubeに記録されている。

この記事では、5部構成の第4部となる「Arts/Technology」と「SF/Deploy」とクロージングの話を時系列で紹介したが、オリンピック選手に憑依する暦本純一の技術や、人の手を自由に操れる玉城絵美の「UnlimitedHands」、初音ミクの心臓細胞を作った福原志保の作品など、前半の話はこちらの記事で読むことができる。

前半の記事:人と機械はどこまで近づくのか?最先端の科学者らが語る『機械で能力を拡張し始めた人類』を読む

(取材・執筆:林信行 撮影:栗原克己・近藤俊哉)

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