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「経済と文化を共に盛り上げるために」TPPが著作権に与える影響を関連3団体に聞く

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「経済と文化を共に盛り上げるために」
TPPが著作権に与える影響を関連3団体に聞く

2016年3月31日掲載
3月8日、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と、著作権制度の見直しを盛り込んだ関連法案が閣議決定した。

著作権の保護期間が現行の死後50年から70年に延長となることについては、すでに耳にしている人も多いと思うが、TPPが施行された場合、制作現場は何が変わるのか、また音楽産業に関わる人にどのような影響が予想されるのだろうか。

今回、音楽産業を代表し、日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事 浅石道夫氏、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)常務理事 椎名和夫氏、日本レコード協会(RIAJ)常務理事 高杉健二氏の各人に、著作権、実演家、レコード産業というそれぞれの視点からお話を伺った。

今回盛り込まれた見直しのポイントは大きく分けて5つになる。

(1)著作物等の保護期間を著作者の死後50年から70年、実演後50年から70年、レコード発行後50年から70年に延長

(2)損害額を立証しなくても一定の範囲の賠償金を請求できる「法定の損害賠償」の採用

(3)著作権者等の告訴がなくても検察官が著作権侵害を起訴することができる「非親告罪」の導入

(4)配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与

(5)著作物のデータに対するアクセスを制御(コピーガード等)する「アクセスコントロール」の回避等に関する措置

では、それぞれの法案が施行されることで具体的に何が変わるのか。

保護期間延長によるマイナス面よりプラス面の方が大きい

著作物等の保護期間の延長に関して、芸団協椎名氏は「著作権保護のレベルを外国と揃えようと行政が着目したことが重要。フェアユースなど著作権保護を弱める動きもあるが、保護のレベルを揃えることが国益に適うという観点を行政が持ったということではないか」と語る。

「レコードについても欧米では保護期間は70年以上。世界第2位の市場である日本もそこに合わせるのが必然の流れ」であり、「保護期間の延長は長年主張してきたことだが、賛成派と反対派の意見が平行線のまま国として結論が出せずに終わっていた」と語るRIAJ 高杉氏は、「過去の原盤の再商品化など、レコード会社としても収益の拡大の機会を与えられた。良質な音楽を提供しつづけるためには、保護期間延長によるマイナス面よりプラス面の方が大きい」と今回の閣議決定を歓迎している。

JASRAC 浅石氏は、著作権保護期間の延長は国際協調の観点で必要としたうえで、併せて解決すべき問題として「戦時加算」(戦争により失われた著作権者の利益を回復しようとする制度)問題について言及。

「サンフランシスコ平和条約に加えられた戦時加算条項は、日本に一方的に課せられた義務であり、JASRACは政府に対して一貫して戦時加算の解消を訴えてきましたが、条約上の義務という高い壁に遮られてきました。そこで2007年、JASRACはCISAC(著作権協会国際連合)の総会で、各国の著作権管理団体に対して条約上の権利を行使しないよう働きかける決議を提案、全会一致で採択されました」と浅石氏。JASRACはその後も、政府に対してこの問題の解決を働きかけてきたという。

著作物等の保護期間の20年延長とともに、この「戦時加算」問題が解決にむけて進む見通しだが、JASRACが続けていた民間レベルでの取り組みに、ようやく国の方針が追いついたといえそうだ。

正確な損害額がわからなくても損害賠償請求が可能に

現状、違法行為を行った場合に権利者が侵害者に対して請求できる損害賠償は、具体的な損害を立証できた金額に限定されており、「法定の損害賠償」制度については、「著作権侵害があった場合に具体的な損害額を立証できなくても、例えば、一件あたり10万円など、損害賠償請求額の下限額を法定してほしい(RIAJ高杉氏)」とRIAJが以前から要望を出していたそうだが、今回の法案では、日本の損害賠償制度の根本を維持しつつも権利者の立証責任を軽減するため、著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を損害賠償として請求できることになった。

近年の著作権侵害はインターネットを利用したものが増え、損害額の算定の難しさや小規模な侵害事件では裁判費用との見合いからコスト倒れになることなどから権利者が泣き寝入りすることも多かったが、今回の法改正により「損害賠償の立証負担が一部とはいえ軽減されることは権利者として歓迎している」とRIAJ 高杉氏。

パロディや二次創作は含まれない ー 非親告罪

著作権者の告訴がなくても検察が公訴を提起できる非親告罪は、マンガ・アニメのパロディなど二次創作活動は日本固有の「オタク文化」の源泉でもあるため、国内でも警戒感があった。今回の法制化では非親告罪を悪質な海賊行為に絞り込み、パロディや二次創作、一部を複製する侵害行為などは除外する方向に。「非親告罪化については、権利者の意向を無視して検察が起訴をするようなことは考えられず、仮に全面的に非親告罪になっても、実務的に大きな変更はなかったのではないかと思います。ただ、一般の方の懸念する声が多かったので適用範囲が絞られた点は、我々も非常に良いことであると考えています。(RIAJ 高杉氏)」

>> 配信音源の二次使用料も請求が可能に

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TPPが著作権に与える影響を関連3団体に聞く

配信音源の二次使用料も請求が可能に

注目されている上記3項目だけでなく、「配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与」と「アクセスコントロールの整備」も掲げられていることが大きいと芸団協椎名氏。

現状、実演家とレコード製作者はCDが放送や有線放送で使用されたときに「商業用レコード二次使用料」として、放送局より使用料を受け取っているが、そこには配信音源が含まれてなかった。TPPでネット配信音楽でも使用料を請求できるようにすることが義務づけられたことを受け、政府は著作権法を改正する。「パッケージから配信にビジネスがどんどん移行していったときに、二次使用料というインフラが今後も維持されていく背景ができた」と椎名氏。

また、「アクセスコントロールの整備」についても「コピーコントロールとは違って、衛星放送やケーブルテレビなど視聴に関するプロテクトがかかっているものを、技術的な方法で回避しアクセスできるようするような事例については、今まで罰則がありませんでしたし、禁じられてもいなかった。そこを取り締まれるのは、特に映像関連で大きいのではないか」と語る。

TPP協定はパッケージとして解決することが一番大きなポイント

なお、著作権者が見つからない作品の利用について、著作者団体が手続きを代行する施策が提案されるなど、TPP施行に向けた新しい動きもあるようだ。

今回のTPP交渉に関して、JASRAC 浅石氏は「TPP協定自体はパッケージですから、”ここが駄目”とか”いい”とか言うと、全体が崩れてしまう。保護期間の延長に反対されている方たちもいるが、パッケージとして解決することが一番大きなポイント」と分析する。

加えて、「戦後、日本は劇的な経済復興を成し遂げました。その一方で、著作権保護など文化面がなおざりにされてきた部分もあるように感じます。経済と文化、どっちが優先とかではなく、一緒に盛り上げていきましょうというのが本来あるべき姿ではないでしょうか。創作者によって素晴らしい作品が創られ、ユーザーが対価を支払う。そのお金が創作者に廻り、また創作者により作品が創られる、こうした“創造のサイクル”が大切なのです」と語った。

フェアユースの議論とは分けるべき

芸団協椎名氏は「音楽業界として現状をまず理解しておくべき点は、5項目それぞれに良い点・悪い点あるわけですが、全体としては、保護のレベルを強めるということによって、国益に繋がるという視点が出てきたのは良いことです。その反面、これだけ保護のレベルを上げたのだから、バランスをとる為に権利を引き下げた方が良いんじゃないか? という議論が必ず起きます。代表的な例はフェアユースの導入ですが、そういった議論とは明確に分けていくべきだと考えています」と今後の展望を述べた。

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関連リンク

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉(外務省)
日本音楽著作権協会
日本レコード協会
日本芸能実演家団体協議会

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